3.雨垂れは三途の川?

さて、なんだか小さな事件?が起き、御者のおじさんと話すこともなくなったとこで現状について情報を整理することにした。


まずは私達の目的なのだが、それはこの国から隣の国へと移ることだ。

私達の孤児院があった国のエレンホスは一言で言えば異世界ファンタジーだ。科学技術があまり発展していない代わりに魔法技術が発展している。

一方で今向かっている国のクルトボは現代ファンタジーだ。現代的な街が広がっている中に石レンガでできた見た目のダンジョンが建っていて、人々はスキルを持っている。

そう、スキルだ。魔法とスキル、この2つがこの2国の大きな違いと言えるだろう。エレンホスではスキルはなく魔法が使われていて、クルトボでは魔法ではなくスキルが使われている。


「エレンホスだとスキル持ちは人間扱いされないからに行くんだよね〜?」

「えぇ、その通りです。クルトボでは魔法よりもスキルが多く使われているそうですが、あちらではこちらのように魔法に対する差別はほとんどないようですから、私も安心できます。」

「クルトボ以外にもスキル差別がない国はあるけど、代わりに魔法差別があったりするもんね。」

「私はクロエが差別されるのは嫌。」


そして、次に整理することは……私についてだ。


「可愛い!!」

「ミア、そういうことではなく尻尾のことについてだと思いますよ。そうですよね?ベイリー。」

「うん。できるだけルーシーのことについて分かってることを纏めておきたくて。」

「あっちの国じゃユニークスキルは自分で内容を書いて申請するからね〜。情報の記録は私に任せて。一字一句バッチリ記録するから!」

「ありがとう、ミア。」


さて、私の尻尾──ルーシーについて知ってることだが、それはただ一つ、食べることができるということだ。

私の尻尾は黒い泥でできたかのような見た目で、私がルーシーに言えば口を開けて何でも食べてくれる。

普通の食べ物はもちろん、食べられないものも鉄でできたものくらいならサラダと同じ感覚で噛み砕くことができてしまう。

しかもルーシーは"消化"ができる。

どういう仕組みかはわからないが、食べて飲み込んだものを消化・吸収し、私へのエネルギーへと変換できるのだ。おかげで私は100kmほどの長さでも息一つ切らさずに走ることができるのだ。


「やろうと思えば一人でクルトボに行けちゃうもんね〜!」

「ベイリー。クルトボについても勝手に一人で行動しちゃダメですよ。」

「ベイリー様は可愛いからね。一人でいたら攫われちゃうよ!」

「大丈夫、わかってるよ。」


ミアの言葉を半分無視しながら、自分の姿を再確認する。

前世の記憶と比べて小さな体と、その体にかかる深緑色の長い髪。

体を捻って後ろを見れば、黒く揺らめいているルーシーが馬車の壁にもたれかかるようにグニャっと曲がっていた。

まだ少し違和感はあるが、私はこの先ずっとこの体と過ごすのだ。

クルトボにつくまでには慣れるべきだろう。


「詳しいことは向こうにつかなきゃわからないね〜。」

「だね。おじさん、あとどれくらいでつく?」

「このペースだったら4時間くらい……日が落ち始める前にはつける感じだ。だがまぁ、少し先に賊がよく出てくる地帯があってな。そこで出てきそうなら迂回するから運が良ければだな。」

「悪ければどれくらいかかるんでしょうか?」

「+2時間ってとこだな。門が閉まる前には間に合うだろうから安心してくれ。」


おじさんから話を聞いた後、クロエが手で握っている懐中時計を覗き込んで時間を見た。

午後2時27分。

本でクルトボの門は午後の10時に閉まると見たから、おじさんの言う通りだろう。

満足した私はおじさんに声をかけたところで違和感に気づいた。


「ありがとうおじさ……どうしたの?」

「ん?あぁ、実はさっきから足跡が変でな……。」

「足跡が……変ですか?」

「それって賊ってこと?」

「かもしれないな。跡自体は商人がよく使うような靴の跡なんだが、跡の残り方が変でな。」

「残り方?」


私とクロエ、おじさんが3人で話しているとミアが体を乗り出して参加してきた。


「機械の嬢ちゃんなら見えるかもしれないな。ほら、跡と跡の間隔が広いだろ?普通、商人なら品物を傷つけないようにゆっくり歩くから足跡の間隔も狭くなるはずだ。だけどこの足跡は広い。それこそ全速力で走っているくらいにだ。」

「品物を速く輸送しようとしたという可能性はないのですか?」

「ねぇな。それだっだら馬車を使う方が何倍もいい。」

「じゃあ、もしかして盗賊?」

「だろうな。」

「引き返さないの?」

「足跡が俺らとは反対側に向かってるから引き返すよりこのまま進んだ方が安全だ。」


なんだか不安だけど、長いこと御者をやってそうなおじさんが言うからその通りなんだろう。

再度、満足した私は今度こそおじさんに感謝を伝え、馬車の壁にもたれかかった。

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