2.交友関係はふたりだけ

クロエの提案に頷いてから、私はクロエがシスターとして暮らしている教会兼孤児院で過ごし始めた。

最初の頃は皆、物珍しさで一緒に遊んでくれたのだが……1週間ほど経ってからだろうか?私はイジメられた。正確にはいないものとして扱われるようになった。理由は尻尾だ。


「尻尾?ここじゃ尻尾持ちなんて普通のことでしょう?それにあんたんとこの孤児院は尻尾持ちとそうじゃないやつが同じくらいだったと思うが。」

「この子の尻尾は少し特別なんです。」

「特別?」

「えぇ。ベイリー、いいかしら?」

「うん、いいよ。」


そう返事をしてから私は「おじさん。」と呼び、リンゴを一つ手に取った。

御者のおじさんが私の尻尾に視線を移したのを確認してから、私は尻尾へとリンゴを投げた。


「ルーシー、食べて。」


そう呼びかけると私の尻尾……ルーシーは大きく口を開けて、私が投げたリンゴをパクリと一口で食べた。名前の由来は食べ''るし''っぽから取ってルーシーだ。


「うおっ!こりゃ驚いた。もしかして嬢ちゃん、ユニークスキル持ちかい?」

「わかんない。」

「わかんない?」

「実はそれを調べることも目的の一つなんです。」

「あぁ、そうか。たしかにこっちじゃあ、鑑定を受けづらいし、そもそもスキルって考えは広まっていないか。」

「えぇ。ベイリーは賢い子なのでスキルに関することはすぐに理解したのですが……他の子は分からなかったようで。」

「それでよくわからない尻尾を持っているってことで忌み嫌われて避けられるようになった……ってわけか。それにしても嬢ちゃん、こっちでスキルを理解してるなんてすげえな。もしかして思ったよりも幼くないのか?」

「5歳だよ。」

「5歳!?随分と幼そうに見えたが、まさか5歳とは……。」

「ふふん。凄いでしょ。」

「うんうん!さすが私のお嫁さんだね!」

「……今のは幻聴か?」

「いえ……残念ながら幻聴ではないですね。」


さて、少し脱線してしまったが私が孤児院で関わっていたのはクロエだけではない。実はもう一人いるのだ。それが今、目の前でウイーンウイーンガチャンガチャンと体を構成しているミアだ。

孤児院で無視されるようになってから、私は教会の屋根裏部屋のようなスペースに色々持ち込んで暮らしていた。

前世の記憶が残っているせいで気まずさを感じた私は皆と分かれて暮らすことにしたのだ。

そんな一人の生活で私を気にかけてくれた人がクロエとミアだ。

クロエは孤児院での仕事があるので教会に戻る夜くらいしか一緒にいることはできなかったが、ミアは昼の間……というか私が起きてから寝るまでの間、ずっと一緒にいてくれたのだ。あまりにもずっといるので寝てないのか?と思ってクロエに相談したのだが、クロエは


「ミアはオートマタ族なんですよ。」


と教えてくれた。私は驚いた。いかにもTHE・ナーロッパな世界なのにSFな名前の種族がいたから。それからクロエに土下座をして勉強させてもらったところ、どうやらこの世界は国によって技術の発展に大きく差があるらしいのだ。

私がいるこの国は移動に馬車を使うような西洋ファンタジーな国なのだが、別の国ではスマホやらPCやらを当たり前に使うらしい。

そしてミアはそういった国から来た孤児らしい。

生きる機械であるオートマタ族のミアは、機械がない孤児院で私と同じように無視されたそうだ。

私は前世の分で強くてニューゲームな精神だが、ミアはそうでないだろう。きっと私とずっと一緒にいるのも仲間が欲しかったんだ。

そう思い、私はミアの手を包み込んだ。少しだけ驚いた後、すぐにミアは私の手を引き寄せて胸で祈るように包み返した。


「ピピッ。マスター登録を行いますか?」

「うん。」

「えっ?」

「登録中……登録完了。権限の最高クラスをミアからベイリーへと変更しました。」

「えっ?ミア?これって……。」

「マスター登録だよ、ベイリー様。」

「マ、マスター登録?様?」

「ベイリー様。ミアはこれから貴方様の剣となり、盾となり、手となり、足となり、貴方様の全てに従うことを誓いましょう。」


重いよ。私達まだ1週間くらいしか関わってないよ?なんなら私はこの世界でまだ2週間しか過ごしてないよ?権限の最高クラスって何?何の権限?ミアの全部?そっかぁ。


「あー、じゃあつまりそいつは……。」

「……私の従者?」


その言葉を聞いて御者のおじさんは少し疲れたような息を吐いた。


「その……ごめんね?」

「あぁいや大丈夫だ。ただ、こんな短時間で2回もイベントが起こるとは思わなくな。この仕事もなかなかやめられねぇな。」


御者のおじさんは楽しそうに笑った。

おじさんが前を向いたのを見て、ミアの方へと視線を向けると高画質録画が可能なカメラ型の目をこちらに向けて微笑んでた。眼球の真ん中が赤く光ってるから録画してるなこれ。


「……それ、誰かに見せないでね。」

「ふふふ。安心して?個人的なこと以外には使わないから!」


……まぁミアなら大丈夫だろう。孤児院にいる間も悪いことはしなかったし。


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