終話 変わらない帰り道、少しだけ変わった関係

「大丈夫かな蓮。」

あの後連絡を送ったが返信は返ってこなかった。直接電話とか来てないのでトラブルなどには巻き込まれてないと信じたいが、それでも心配になる。

「それよりもこれだよな。」

蓮から渡された手紙はいわゆるラブレターだった。俺に対する思いがぎっしり書かれており、最後に『文化祭の終わった後、屋上で待っています』。そう書かれていた。

問題はこれを貰ったことではなく、俺がこのラブレターを書いた本人の名前も見ても記憶が無いことだ。

「委員会の手伝いとかで話した人とかか....いや覚えてない。」

それでも待たせてる筈だから行くしかない。


「結局待っちゃうんだ。」

スマホを付けたら、燈火から沢山通知が届いていた。でも返信する気力は湧かない。

家に帰ろうと校門の前まで来たのに、足が止まってしまう。

隣に彼がいないだけなのに、それだけなのに感情が溢れてしまいそうになる。

「まだ一緒に帰りたいよ。」

小さく呟いた。


「ごめんなさい。貴方の気持ちは嬉しい、でも答えられない。」

俺は人生初めての告白を受け、そして人生初めて告白をフった。

「理由を聞いてもいいですか。」

女子生徒は尋ねる、俺は包み隠さず自分の気持ちを伝えた。

「俺は君の事をよく知らない。その状態で付き合って、互いが嫌いになって終わりとかになるのは嫌だし、正直俺は女性との付き合い方が分かってない。」

俺は映画にあるような運命の出会いとか、恋に落ちるとかを体験していない。

「それにまだ一緒にいたい人もいる。」

「蓮さんですか。」

「あぁ。」

こういう場で他の女性を出すのはご法度だと聞いてる。それでもしっかりと伝える。

「だから答えられない。」

「大丈夫です。燈火先輩に気持ちを伝えられましたし、燈火先輩はこうして来てくれました。私はそういう優しい所が好きになったんです。」

彼女に頭を下げ、校舎に戻る。その時聞こえたか細い声を聞こえない振りをした。


「燈火帰ってきた?」

「燈火ならお前が最初に教室戻る前には出て行ったぞ。」

「すまん助かった。」

着替えることも為ず、階段を駆け降り、校舎を飛び出す。

「プッまだ居るじゃあねえか。」

校門に寄りかかり、スマホと睨めっこしてる彼女の姿が見えた。

息を整え、いつものように声をかける。

「すまん待たせたな。」

「燈火..遅い。」


「着替えなかったの?」

「いや〜色々あって余裕無くてさ。まだ渡せてない手紙を届けてた。」

わざとらしくため息をつく彼の優しさが伝わる。本当には違うのに。

「そういえば燈火宛ての手紙はなんだったの。」

「ウグ・・・ラブレターでした。」

「やっぱり、良かったじゃん。」

言ってて胸が痛くなる、逃げたいと足が震える、涙が出そうになる。

「断った。」

「うんうん・・?断った??」

「そう、断った。」

「なんで。」

どうして断ったのか、クラスの男子はよく「彼女欲しい!」とか言っている。

「俺は別に運命の出会いとか恋に落ちるとか興味無いし、相手の事もよく知らなかった。」

「それでも嬉しかったんでしょ、どうして断ったの。」

「確かに彼女出来たら嬉しいだろうし、色々変わるかもしれない。」

被っていた帽子を指で回しながら彼は私に伝えた。

「その上で変わりたくないと思った。まだ一緒にいたい奴もいるしな。」

「一緒に?」

「そうそう。」

ほんの少しだけ彼の歩が早くなり、私の前に移動するとその後に振り返って笑う。

「口下手で。」

「いつも悩んでいて。」

「それでも努力する。」

「笑った顔が綺麗で。」

「怒った顔は可愛い。」

「周りの目を引く白髪と赤い目。」

「吸血鬼なんて呼ばれてる普通の女の子。」

「九十九蓮って言う人とね。」

言い終わった彼の表情は私が初めて見るものだった。

夕日が彼と重なって、痛くないのに目を閉じたくなる熱があった。

「なにそれ告白?」

「どっちでもいいよ。まぁ言ってる最中バカほど恥ずかしかったけどな!」

ガハハと笑う彼に釣られて私も笑ってしまう。

「それでいいんだ蓮、お前は笑ってる方が似合う。」

「あれで笑わない方が無理だよ。」

でもそれで限界が来た。ポタポタと涙が溢れて落ち始める。

「じゃあ告白と受け取っていいんだね。」

「勿論。」

「燈火は本当にズルい人。」

「それはどっちなんだ。」

彼のその問いに私は答える。

「どっちもだよバカ。」

隠し持っていた手紙を渡す。

「これは?」

「ただの手紙。」

「読んでもいい?」

「大丈夫。」

彼が手紙を開き、内容を読んだのかくしゃっとしながら笑顔になる。

「お前らしい。」

「なによ!変な事書いてない。」

彼が大事そうに手紙をカバンに仕舞い、私の手を取る。

「いつもありがとな。」

「・・・・急にどうしたの。」

伝わったかなんて聞かない、だって彼の顔が答えだったから。


私が吸血鬼じゃなくて本当に良かった。こんな見た目だし、あんな呼び方付くのも仕方ないと思ってる。

でも本物になれなくていい、本物だったらきっと。


太陽燈火に恋して灰になっちゃうから。」

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吸血鬼(偽)は今日も言い間違える -本音は甘えたい、でも恥ずかしい- 焼鳥 @dango4423

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