第3話 空っぽな手紙は貴方に届かない。

「コスプレ喫茶に決まり!」

教室中から歓声が響き、私はこれから大変な目に遭うのが確定した。


私達が通う高校は他の高校より少しだけ文化祭が遅い。

毎年他の高校と文化祭が被らないようにし、受験生を少しでも増やす為の策らしい。

中間テストが終わってから準備が始まるので、生徒はテストに怯えずに取り組めるのもあって皆やる気で満ち溢れている。

「蓮さん。」

「はい....」

「蓮さんはこの服が似合うと思うんです。」

「何抜け駆けしてるの!?蓮様はこれが似合うと思います。」

「蓮ちゃんはどう考えてもメイド服だろ!」

「「「男子は黙ってて。」」」

「助けて....本当に。」

それを後ろから燈火は眺めていた。

蓮とは席が前後ろと隣なので、よく彼女が囲まれている光景を目にする。

蓮は見た目の良さもあって人気がある。特に女性人気が強く、前に「女性とは付き合えないって言ってるのになんで皆告白してくるの....」と愚痴を溢していたほどだ。

まぁ見る分には面白い。

「燈火はどうするんだ?」

「クラス全員コスプレするんだろ?俺は配達員になろうかな。」

「配達員・・・?」

「俺が好きな漫画に手紙を配達する主人公がいるんだ。それのコスプレをすれば接客じゃなくて看板係になれると思うしな。」

文化祭の役割で割と嫌がられる係が看板係だ。学校中を歩いて声を出さないといけない係だが、コスプレをするのならトコトン成り切りたい。

「次の時間で係決めだし、頑張れよ。」

「おう。」

「俺は蓮ちゃんと同じ係になるんだ!」

「お・・おう。」

あいつの人気本当に凄いな。


「んでまさか被るとはな。」

「そうね。」

看板係を決めるタイミングでまさかの燈火と蓮が同時のタイミングで手を挙げた。

二日間開催されるので一日ごとに役割分担する、看板係は二人一組で動くので、私達は直ぐに決まった。決まった瞬間のクラスの空気はどん底もどん底だったが。

「燈火は仕事しない日は学校来るの?」

「迷うな。面白いのがあったら来るぐらいかな~だから一日目に仕事わけだし。」

「私もそうしようかな。」

(上手く二人で回れる雰囲気に出来た気がする!)

蓮は内心そう思ってたが、燈火が気になるものがなければ来ないという可能性を忘れていた。


文化祭当日。

「似合い過ぎだろ。」

「燈火はダサい。」

「うん....真正面から言われると辛いものがある。」

燈火は驚いていた。ついでに心をへし折られた。

蓮はてっきり可愛い系の服を着るのかと思っていたが、現れた彼女は軍服だった。

「クラスの女子の圧に負けました。」

「あぁ....お疲れ様。」

廊下で互いの服を見直し、変な所が無いかチェックする。

(それにしても凄い数だな。)

周りを見ると、蓮の軍服姿を見る為に女子生徒が集まっていた。

「蓮様かっこいい....」

「蓮くん睨んで!!」

「蓮さん~こっち見て~。」

団扇を作ってる人までいるので、蓮の校内人気の凄さを伺える。

「全員やることあるんでしょ!帰りなさい。」

「「「「は~い。」」」」

彼女の一言で観客は散らばる。スマホを見れば始まるまで数分も無い。

「うんじゃあ行くか。」

「よろしくね燈火。」

「こちらこそ。」

移動を開始する時に蓮はしっかりと彼の背中姿を写真に収めた。

(カッコ良すぎる。)

その感想は口から出ることは無さそうだ。


「写真はお辞めください。」

「こちらの方は触れ合い厳禁です。」

「近寄らないでね~いいか。」

文化祭が始まって、私の想像以上に私は浮いていた。

道行く生徒、外部から来た人、色んな人が私を見て足を止めた。

私に何をしようとする人を燈火が見つける度に注意する、その繰り返し。

一応宣伝効果はあるらしく、グループの通知が止まらないので、不幸中の幸いだ。

「ごめん。」

「謝るな蓮。お前は何も悪くないし、それだけお前は魅力的だと考えればいい。」

「そうだけど...」

「いつものようにギャアギャア言ってればいいんだ。しょぼくれてるお前はお前らしくない。」

「燈火!?私も人なんだから悩むものは悩むんだよ。」

声を荒げた私を見て、燈火は「してやったり」とニヤリと笑う。

「その感じでいいんだ。いつもみたいに怖い目つきで人を払えば大丈夫だ。」

「・・・・そう。」

燈火はいつも遠回りだけど私を支えてくれる。本当に変に真面目なんだから。

「まだ午後もあるし、頑張らないとな。」

「そうね。」

午後からは燈火のアドバイス通りにやっていたら午前のような輩は減った。

それでも絡んでくる人はいるが、燈火も許容できる人数だった。

また午後になって小さい子の数も増え、配達屋のコスプレをしている彼に道を聞く人も増えてきた。

(燈火だけ仕事がドンドン増えてる。こういう時こそ私が助けなきゃ!)

そう決意してもやはり空回り、お互いに目の前の事に対処に忙しくなっていった。


「なんだかんだ手紙貰うね。」

「看板係で学校中回るし、クラスの場所教えて貰えれば届けられるしな。」

「手紙ね。」

中にはラブレターらしきものまであった。

(一応私も書いたけど、渡すタイミングが無いな。)

彼からどんなコスプレをするかは事前に聞いてたので、日頃のお礼も兼ねて手紙を書いた。文字でなら言葉を間違えないし、はっきりと伝えられる。一文だけだが。

けど渡そうにも、二人っきりの時になれる時間が来ないので、未だに渡せていない。

(そう考えるとただ連絡して告白するよりも、形として残るラブレターは強いのかもしれないな。)

なんだかんだ言って蓮もそういうのを書いたり渡したりするのに憧れている。

「あっこのクラスに渡す物あるから少し待っててくれ。」

「早く戻ってね。」

「分かってる。」

一人で待つ事にも慣れたので、壁に持たれながら休憩する。

「あの...蓮さんですね。」

「はい、私が蓮で合ってます。」

声をかけられた方を向くと、恐らく一年生であろう女子生徒が立っていた。

「あの!これ燈火先輩に渡して欲しいんです。手紙受け付けてると聞いたので。」

「分かったわ。今彼はお取り込み中だから、後で渡しとくね。」

「ありがとうございます。」

渡された手紙は見た目は普通の物だった、でも宛先を見て嫌な顔をしてしまう。

「燈火宛て、燈火へのラブレターかな。」

燈火はモテている事は知っていた。私がいつも隣にいるせいで隠れてしまうだけで、彼の明るさや優しさに触れて好きになる子はいる。私がそうだから仕方がない。

「渡したくないな。」

思いが溢れ、チクッと心臓が痛くなる。

「戻った。大丈夫か蓮、何かあったか?」

「何もないよ。燈火、貴方当ての手紙預かってたからはい。」

「すまんありがとう。」

「ちょっと気分が優れないから休んでいいかな。」

「あっ本当にどうし・・・・・行っちまった。」


「酷い人だよね私。」

校舎裏、人気が微塵も無い場所に私はいた。

「きっとあの手紙には燈火への思いが沢山詰まってる。」

「私なんかよりも素直で綺麗な思いが書かれてる。」

自分が書いた手紙の内容なんて一文だけ。

『いつもありがとう』と書かれた手紙、空っぽも空っぽだ。

「逃げてる私よりよっぽどあの後輩の方がお似合いだ。」

時計の短針が4時と重なり、文化祭一日目を終わらせるチャイムが鳴る。

「帰ろう。」

今日はもう燈火と顔を合わせたくない。こんな顔見せたくない。

荷物を置いてある教室へ足を運んだ。

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