第2話 貰ったからには使うだけ(建前)
「燈火早くして、予定のバスに乗り遅れる。」
「すまんすまん、もう行ける。」
今日は燈火と二人で映画を見に行く。
お母さんが商店街の抽選でペアチケットを当てた。その映画は今学生の間で人気な作品で、尚且つお母さんは興味が無い作品だった譲ってくれた。
つまり今日はデート。二人っきりで映画を見に行くなんてカップルがやる事だしね。
「今日行くのラブロマンスものだろ?お前興味あったんだな。」
「別に、使わずに腐らせるよりかは使った方がいいと思ったの。」
「そうですか。」
二人で映画を見に行くなんてまずしないので、映画の内容も良く分かっていない。なんなら映画そのものをあまり見ないので、予告PVも見てないので、誰が出演してるかも知らない。
(何が『使った方がいい』よ!?これだと燈火を体よく使っただけになるじゃない。違う!これはデート、誰がなんと言おうとデートにするの。)
本音と口から出る言葉は毎度違うが、今回は言葉ではなく行動で示す。
(そしてあわよくば燈火の意中の人になる。)
それが今回の目的であった。
「そういや蓮めっちゃ似合ってるな。」
「あっそ。」
少しだけ歩く速度を上げ、彼に顔を見られないようにする。
(やった、褒められた!時間かけた甲斐あった。)
彼と映画を見にいくことが決まって、今日は早起きして準備した。
「相変わらず口下手だなあいつ。」
前を歩く蓮を見てため息をつく。
彼女が言いたいことを言えてないことぐらい前から気づいている。それでも動きやら声の音程でバレバレだ。
(まぁ口に出さないけどな。)
そんな可愛い幼馴染には言えない秘密だ。
映画館に着くと同じ映画を見にきたであろうカップルが多くいた。
「やっぱりそういう層に人気みたいだな。」
「そうじゃない層もここにいるけどね。」
「そうだな。」
ポップコーンセットを頼む為にカウンターに向かうと、どうやらキャンペーンをやってるようで、それもあってカップル客が多かったらしい。
「男女割り...男女割りか。」
受付の女性スタッフが悩んでいる蓮を見ながらとてもニコニコしている。確かにこの「男女割り」を使うと安くなるが、代わりに二人分を一つのプレートに置かれるので正直食べにくいとは思う。
「どうする?」
「安くなるしこれでもいいんじゃない。お互いに財布寒いでしょ。」
「お前が良いなら構わないけど。」
確かに学生のお財布はいつも寒い、でもカップルでもないのに良いのだろうか。
「かしこまりました。隣のカウンターでレシートを持ってお待ちください。」
先ほどより更に笑顔になっていたスタッフを他所に、蓮がロボットみたいにカタカタしてるので、彼女を引っ張って移動した。
(男女割りで頼んだ。つまりカップル認定されたってことだよね!そうだよね!!)
受付のスタッフにも恐らくそう見られたはずだ。不味い顔に出てしまう。
無理矢理抑えたせいで、ロボットみたいにカタカタになっているが気にしない。それよりもこの嬉しい気持ちでどうにかなってしまいそうなのを堪えるのが先だ。
「本当に大丈夫か。」
「大丈夫。」
カウンターで注文の品を受け取り、指定されたフロアに向かう。
想像以上にプレートが大きく燈火の両手が塞がっているので、私が二人分の受付をすませる。入り口のスタッフが「楽しんで」と言われた時は声が出てしまうところだった。
「面白かった。」
「そうだな。」
「燈火はどうだった。」
彼は頬を搔きながら渋い顔をする。この顔をするのは自分の好みじゃなかった時だ。
「俺は人間関係で悩んだ事が無かったし、作中のような運命的出会いにも興味が無い。今が苦しいなんて微塵も感じたことも無いから、作品としては面白かったけど、心に突き刺さる作品ではなかった。」
映画の内容は逃避行のラブロマンスだった。確かに燈火はこういうのに無縁の生き方をしてる、だから刺さらないのも無理はない。
「私は刺さったな。」
「蓮もやっぱ運営の出会いをしたい派なのか。」
「もちろん。私も女の子だから。」
(まぁもうしてるけどね。)
私はこの髪と目が原因で嫌な事をされたし、逃げたいと思ったことは数えられない程だ。なにより私は運命の出会いを体験している。
作中のヒロインの気持ちは少なからず理解してたつもりだ。だからこそ私は彼の感想に何も言わない。今回の映画は刺さる人と刺さらない人の両極端になる作品だと感じたからだ。
「もし燈火も運命の出会いに遭遇したら、どんな人だと思う。」
ちょっと意地悪だが、聞きたかったことだから聞いてみる。
「そうだな....俺を振り回して退屈させない人だろうな。」
私を見ていたずらっ子のように笑う。
「私が落ち着きの無い人だと言いたいの!?」
「一言もおまえなんて・・痛い!痛いから尻を蹴らないで!!」
私は燈火のこういう所が憎めないから好きなんだ。
家のベッドで転がりながら考える。
「運命の出会いか....」
彼にとっても私との出会いがそれぐらい特別なものだと思いたい。
「だってそう思った方が。」
こんなに口が悪い女の子の隣に立つ理由になるのだから。
「両想いだったらいいのにな。」
そう願わずにはいられなかった。
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