第4話 鑑定魔法とスキルツリー

「鑑定してみます」


 インカムでリレイラさんに伝えて魔力を右手に集約させる。鑑定魔法アプレイザルは俺が自分のスキルツリーから解放した魔法だ。


 アイテムの持つ記憶を読み取る魔法で、数段階の強化が可能。強化するほど読み取れる内容が多くなる。


 ……まぁ、俺が持ってる特殊スキルはこの鑑定と照明しか無いんだけど。



鑑定魔法アプレイザル



 右手に持っているナイフから記憶を読み取る。すると、さっき倒したスライムが脳裏によぎった。他のモンスターを捕食して、結晶のような物を取り込んでる。それが集まってできたのがこのナイフって訳か。


 それから……? 他に何か情報は……?


「あ、消えた」


 クソッ、もっと強化しておくんだった。俺の鑑定魔法だとここまでしか読み取れ無いみたいだ。


 とりあえずリレイラさんに読み取れた事を伝えてみる。


『……なるほどな。そのアイテムを構成しているのは魔石だ』


「魔石? 何ですかそれ?」


『高純度の魔力は濃縮されると結晶になる。このダンジョンはそれが集まりやすい場所なんだろう。そのような土地は我らの世界異世界にしか無いはずだが……』


 リレイラさんがボソボソと何かを呟いている。つまり、魔石で出来たのがこのダンジョン固有アイテムってことか。ブレイズラムが強いのは魔石を沢山取り込んでいるからか?


 だが、今のところこのナイフの効果は不明。もしかしたらただの素材アイテムなのかもな。


『とりあえず名前か無いと不便だろう。ブレイズナイフとでも呼ぼうか』


 彼女と話しながら通路に転がっていたブレイズナイフをもう1本広い上げる。2体倒したから手に入ったのも2本。もしかしたら確定ドロップなのかも。


 ダンジョンの壁に筆記魔法ワーダイトで印を付けて、俺はさらに先を進んだ。




◇◇◇


 右の道を終えたので十字路を戻った。次に左の道をくまなく探索して中央の道へ。


 真っ直ぐ進み通路を曲がると、木のようなモンスターが1体徘徊しているのが見えた。


 人間サイズの木。根っこの部分が足のように二股に分かれており、両手は鋭い鉤爪のようになっている。顔に当たる部分が節穴みたいで不気味だ。


『トレント種だな。ダンジョン内の木々に魔力が集まってモンスター化したんだろう』


 リレイラさんが教えてくれる。トレントか。普通ならそれほど強い敵じゃないけど、さっきのブレイズラムの件もある。できれば遠距離から仕留めたい所だ。


「リレイラさん、さっきのブレイズナイフ、試してみます」


『炎属性のモンスターがドロップしたアイテムだからな、やってみるといい』


 探索者用のカバンからブレイズナイフを取り出す。ぼんやりと赤く発光する結晶のようなナイフ。どんな効果があるのか……試させて貰うぜ。



「ふん!!」



 ブレイズナイフを投げ付ける。トレントの体にブレイズナイフの刀身が突き刺さった。


 しかし、何か起きる様子が無い。


「あ、あれ……? 何も起きない?」


『ただのナイフだったのか?』


 戸惑っていると、攻撃を受けたトレントが俺に気付いた。



「グオオオオオオオオ!!!」


「ヤベッ!?」


 全力で走って来る木のモンスターすげえ迫力だなおい!


 ショートソードを引き抜き、トレントが叩き付けた鉤爪をいなす。軌道をそれた手は、ダンジョンの壁面にザックリと傷を付けた。


「うわっ!? めちゃくちゃ高威力じゃん!?」


『ただのトレントではないな』


「分かってますよ!!」


「グオオオオオオオオオオ!!」


 再び放たれる薙ぎ払い攻撃。それを紙一重で躱わすと、ヘルムに傷が付いた。


「!?」


 想定していた間合いと違う。何かがヤツの攻撃範囲を拡張している?


「く……っ!」


 攻撃を避けながらトレントの腕に集中する。手のように別れた枝。それが薙ぎ払われる瞬間、20センチほどの爪が現れる。アレが高威力にしてるのか。



「グオオオオオオオオオオオ!!!」



 攻撃をいなしながらショートソードの一撃を放つ。しかし、甲高い音と共に刃が弾かれてしまう。胴体も装甲みたいになっているのかよ。



 探せ。どこかに弱点があるはずだ。



 攻撃を受け止めながらヤツの攻撃を防いでいたその時──。


 突然、トレントの側面から炎が吹き上がった。


「グオオオオオオアアアア!?」


「なんだ!?」


『ブレイズナイフが刺さった箇所を見てみろ。体内に火炎を流し込んでいるようだ』



 火炎を流し込む? じゃああの火が吹き上がってる所は、普通の木材と同じって事か。


「グオオオオオオアアアア!?」


 苦しみながら暴れ回るトレント。その攻撃の隙を突いてヤツの懐へ飛び込み、ショートソードを下段に構える。


「オラァ!!」


 全身のバネを使って炎が吹き出す箇所に横薙ぎの一撃を放つ。


「グギァッ!?」


 俺の剣撃を受けたトレントは、真っ二つになって全身からレベルポイントの光を溢れさせた。俺のスマホに光が吸い込まれ、電子音声が流れる。



──レベルポイントを100pt獲得しました。



『100pt……やはりこのダンジョンは通常よりもモンスターが強い。魔石を体内に取り込んでいるからだろうか? それにしても一体なぜ魔石になるほどの魔力が……』


 ブツブツと呟くリレイラさんをよそにトレントがドロップしたアイテムを拾う。何だか変わったアイテムだ。木の棒……じゃないな。木製のレイピアみたいな……武器だろうか、これ?


 周囲を確認する。敵がいない事を確認して鑑定してみるが、やはり使用方法までは分からない。


「クソ、このダンジョンだと鑑定が役に立たないな……」


『スキルツリーから鑑定魔法を強化してはどうだ? 今溜まっているレベルポイントでいけるだろう』


 あ、そうか。それなら何か掴めるかも。


 スマホを開いて、スキルツリーの画面を開く。その中から「鑑定魔法」を選択。「強化」というボタンをタップする。レベルポイントの消費は……200ptか。元々持っていた分とこのダンジョンで獲得した分を合わせればいけるな。


 「スキル強化」の選択をタップ。すると、また電子音声が流れた。



 ──「鑑定魔法」がレベル2になりました。



 よし、早速やってみるか。



鑑定魔法アプレイザル



 アイテムを鑑定してその記憶を読み取る。今回はこのアイテムの使用法まで読み取ることができた。


 このアイテムを入手した異世界人の光景まで読み取れたからだ。


「鑑定魔法は強化すると別個体の記憶まで読めるのか」


『我々の世界の記憶領域にアクセスする魔法だからな。人、物、生物……全ての記憶は記憶の神が司る領域に保管される。今手にしたアイテムの記憶を鍵に、その記憶領域へアクセスしているんだ。そこから別個体の記憶を……』


 記憶領域? それって地味にヤバそうな能力だな。


『ちゃんと記録しておくんだよ? 知識は君を助けてくれる』


「いつも言いますね、それ」


『そ、そんなに……? 言ってるかな……」


 リレイラさんの戸惑ったような声がする。やっぱりこういう話し方だと可愛いよなぁ。厳しい時と割合変わらないかな。


 とりあえずスマホにメモしておくか。音声入力を起動してスマホのメモアプリに記録していく。せっかくなので分かりやすいようゲーム風に。



 名称:ソイル・ツリーピア

 分類:レイピア

 属性:土

 効果:地面を突き刺すと直線上に木々を生やす。使用回数2回。



 脳内でビジュアル見たけどめちゃくちゃカッコいいモーションだった。使って見たいなこれ。でも使用回数があるのが残念だな……。


『なんだそのゲームの様な説明は?』


「端的で分かりやすいと思いますけど? 後で見返した時こっちのが分かりやすいですって」


『そんなものかな……?』


 リレイラさんはまたちょっと可愛い声を出した。


 ……っと気を取り直して今度はブレイズナイフの記録もしておかないとな。


 ブレイズナイフにも鑑定魔法をかける。すると、さっきの効果通り。突き刺した場所へ炎を吹き出す効果があるみたいだ。しかもタイムラグあり。これも新たに読み取れた内容をメモして……名前はブレイズナイフのままでいいか。



 名称:ブレイズナイフ

 分類:ナイフ

 属性:火

 効果:突き刺した物体に炎を流し込む。刺してから効果発動までタイムラグがある。使用回数1回。

 


「こんな所か」


『想像よりも数段モンスターが強い。この先も気を付けるんだぞ』


「分かってますよリレイラさん」


 スマホをしまって、俺はさらに奥を目指した。



───────

あとがき


 次回、先に進んだ461さんの前にさらなる強敵が……?

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【不思議なグンマダンジョン】〜元引きこもりダンジョンオタク、入るたびに構造が変わるグンマダンジョンを攻略して最強探索者に至ってしまう〜 三丈 夕六 @YUMITAKE

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