第3話 炎のスライム戦

「暗いな……」


 ダンジョンの門をくぐり、階段を降りて第1階層に入った。最初に感じたのはその薄暗さだ。石造りの通路には転々と照明が灯っているが、それだけで進むには心許ない。魔力を左手に集め、魔法を発動する。


照明魔法ルミナス


 俺が使える数少ない魔法……左手に光の球体が現れる。照明魔法の光によって当たりはより認識しやすくなった。


 苔むしてる感じはあるけど、それがむしろ雰囲気良くしてるな。古代遺跡って感じのダンジョンだ。ワクワクするな。


 十字の通路にやって来て周囲を見渡してみる。右、左、直進……まずは右から言ってみるか。


 管理局から支給されているスマホを開き、「筆記魔法ワーダイト」を起動。壁に自分が分かるように目印を書く。赤い魔法文字で壁に「右1」と刻まれる。


 探索者用スマホは管理局から支給される便利アイテムだ。スマホにこの筆記魔法が使えるよう符呪エンチャントが施されていたり、他にも便利な機能の付いた探索者の必須アイテムだ。電波も強力でインカムでのやり取りもできるしな。


 壁に文字が刻まれたのを確認して右の道を進む。真っ直ぐ道を進むとT字路に突き当たり、さらに右へ。しばらく進むと通路の奥に不定形のモンスターが2体通路を蠢いていた。



「プギュ」

「ピギュ」



 半透明な赤い形状に中にある核。あれは……スライム種のブレイズラムだな。火炎魔法を使うから中々侮れない敵だ。この通路だと逃げ場も少ない。


 2対1……こんな時は、先制あるのみだな。


 腰から投擲用のナイフを取り出す。この前のドラゴンゾンビ戦で投擲が役に立つことが分かった。だが、流石に近距離攻撃手段であるショートソードを投げるのは最終手段にしておきたい。という考えに至り、俺は投擲用として新たにナイフを装備して来た。


 目測で測るとブレイズラムまで約2メートル。目が無いヤツらはまだ気付いていない。


 腰のナイフを抜いて狙いを付ける。スライムは核を破壊すれば形状を維持できず消滅する……当たれよ。


「うおおおおおお!!!」


 振り被ってナイフを投擲する。縦に回転して飛ぶナイフ。投げた後、全力でブレイズラムへ向かって走る。


「プギュ!?」


 投擲したナイフが1体のブレイズラムに突き刺さり、スライムの核を破壊する。よし! 後はもう1体を倒せば──。


「プギュアアアア!!!」


 仲間がやられたと気付いたブレイズラムが俺に狙いを定めて火炎魔法ブレイズを放って来た。


 あの火球……めちゃくちゃデケェじゃん!?


「マジかよ!?」


 通路全体を塞ぐような火球。それが通路を真っ直ぐ向かって来る。なんて威力だよマジで!?


 このままだと飲み込まれる。急いで体を翻してT字路へ全力で走った。


「うおあああああ!!」


 T字路へ飛び組む。俺のギリギリを通り過ぎた火球は鎧の足裏を若干焦がした。


「熱っつ!?」


 地面を踏み締めて火を消す。通路を除き込むと、ブレイズラムがまた火球を放つ。それを壁に身を隠して躱した。真横を通り過ぎては消える火球。魔力切れしないのかよ鬱陶しいな。


 敵は連続で火球を放つ。こちらに遠距離攻撃に使えるナイフはもう無い。どうする?


 リレイラさんとの訓練を思い出す。戦闘の基本は観察だ。そう、いつもそうやって言われていた。観察……何か突破口が無いか観察するんだ。


 角からもう一度覗き込む。ブレイズラムが俺に向かって火球を放つ。通路を飛んで来るデカい火球。ギリギリまで観察すると、ある事に気付いた。


 あれは……球体だから通路との間に僅かにスペースができてるな。


 通路は断面にすると正方形。火球は球体。その形状の差が、火球が放たれた時、4隅の空間を作っていた。


 あの隙間……ギリギリだが飛び込めば突破できそうだ。


 いけるか?


 正直、いきなり想定外の敵と出会うと思っていなかった。当たれば丸焼けになって死ぬ……だがやるしかねぇ。突破したら絶対脳汁出るぜ、あれ。



 昔、栃木のダンジョンで狼モンスターの群れに襲われた時を思い出す。あの時も全力で走り抜けたな。あの時の速度が出せるなら……3度の火球を避ければブレイズラムを仕留められるはずだ。



「プギュアアアア!!!」



 ブレイズラムが火球を放つ。それが通り過ぎた瞬間、覚悟を決めて通路に飛び出す。ブレイズラムに向かって全力で走った。



 すぐさまブレイズラムが火球を放つ。あの隅に飛び込んで、避けたら直ぐに走り出す。脳内でシミュレーションを繰り返す。



 火球が迫る。四隅の空間が目に入る。



 まだだ、



 まだ。



 火球があと1メートルに迫った瞬間、通路と球体の隙間に飛び込んだ。



「うおおお!?」



 背中に一瞬熱を感じる。燃やされたか確認してる暇はねぇ! 起き上がって通路を駆け抜ける。2度目の発射も飛び込んで避ける。俺の体ギリギリを火球が掠める、起き上がってまた全力疾走する。そして、3度目の火球を避けたタイミングでショートソードを引き抜いた。



「オラァ!!!」



 ブレイズラムの目の前に飛び込み、ショートソードを一閃した。



「プギャアアアア!?」



 叫び声を上げてブレイズラムが真っ二つになる。ブレイズラムの体にあった核が割れると、モンスターはその体から倒した証であるを溢れさせた。



「しゃあ!! 何とかなったぜ!」



 その光はスマホに吸収され、すべて吸収されると電子音声が鳴り響いた。



 ──レベルポイントを25pt獲得しました。



 お、1体25ptもしたのか。普通のスライムより高い。最初の1体目を倒した時は焦って聞き取れなかったけどかなり強いな、ここの敵。


 レベルポイントは敵を倒すと手に入る。スマホを介して俺の体に蓄積され、スマホのスキルツリーメニューを開いて必要なポイントを使うことでスキルを解放し、使えるようになる。


 スキルには力5%上昇や投擲スキルのように、獲得すると常に発動する常在スキル、魔法や技のような特殊能力スキルがなんかがある。


 周囲を見渡す。これ以上敵はいないな。じゃあ早速スキルツリーからスキルを解放して……。


『待て。アイテムをドロップしているぞ』


「うわっ!?」


 左耳のインカムからリレイラさんの声が聞こえた。完全に自分の世界に入ってた所を引き戻される。


「ちょっ!? ビックリするじゃないですか!? やめて下さいよ!」


『すまない。視界魔法オキュラスで私の視界をヘルムと繋いでいてな。いつ話しかけようかと迷っていてな』


 あ、そういや言ってたな、視界魔法のこと。あ〜焦ったぜ……。


「いや、声かけるなら戦闘の時にして下さいよ。俺焼かれる所だったんですよ?」


『先程の戦闘中に声をかけていたら丸焼きにされていただろう?』


 ……確かに。あそこで気が散ったらヤバかったかも。


 想像して背中に変な汗が伝う。嫌な想像を振り払うように頭を振って下を見る。すると、確かにブレイズラムはアイテムをドロップしていた。


「何だこれ? ナイフ?」


 ブレイズが落としたアイテムはうっすらと光る15センチほどのナイフだった。鉱石を削り出したような刀身に、模様のような文字が刻まれている。符呪などで見る異世界文字とも違うようだ。


「リレイラさん、これ、何か分かります?」


『見たこと無いアイテムだな。このダンジョンには独自のアイテムを生成する能力があるのかもしれないな』


 使い方が分からないアイテム。リレイラさんも分からないって言うし、アレを使うか。以前俺が獲得した魔法。



 鑑定魔法アプレイザルを。




───────

あとがき


 最初の敵撃破!次回、手に入れた謎の武器を鑑定してみると……?


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