第10話 国内と魔法陣




 リアは父親におんぶをしてもらい、嬉しそうな笑い声を上げている。

おんぶしたアルタは、その声に呼応するように走り出し、娘の顔見たさに首を後ろに向けた。

その笑みの可愛さに、思わず口角が上がり、軽やかにスキップをし始めた。

前を向くと、世界は夜に変貌している。

彼は全てを察してしまった。

彼の前頭葉ぜんとうようには矢が刺され、前に倒れた。

背中にいたリアも倒れたが、父が衝撃を吸収してくれた。

彼女は一人ぼっちで道端に行き、座って俯いた。




 外は夕方、眠りは浅かったが、目覚めは良かった。


周りの散らかっていた本は綺麗に本棚に戻されていたが、

彼女はまだ、机に向かって思索しさくを巡らせていた。


「大円の第一外縁部分だいいちがいえんぶぶんは概ね転移魔法と大魔法の融合定型文に変わりないはず。となると、右上の特異な魔法陣の記述ミスか。

いや……やはり以外には……」


「血?」


彼女は体をビクッとさせ、こちらを向いた。


「おはようございます。ぐっすり眠れましたか?」

「ああ、お陰様で。それより、転移大魔法には血を要するのか?」

「はい。恐らく魔法陣記述用のインクは、転生者の血だと思われています。」


これで、国王が俺を狙う理由がはっきりした。しかし……


「ならば、どうしてあの場で処刑しなかった?

……いや、答えられないならいいんだが。」

「それは面子めんつでしょうね。」

「面子?」

「はい。かつてイシュカール連邦国は、北部のレウカリオン王国、南部のモリデア法国、東部のシュウカ帝国、西部のグリーンヘイヴン共和国と呼ばれる国々をすべて攻略、統治しました。そして今、グレグラス国王陛下は、治安維持や経済活性化などの保守政治を行っています。

故に、国王への些細な不信感でも反乱の言い分になりかなねない。」

「それと何の関係がある?」

「あの場には貴族がいました。もし貴族から市民へ転生者への同情の声を流布されれば、王に対する不信感へと繋がるでしょう。だから秘密裏ひみつりの暗殺を試みたのでしょう。」

「貴族に共有は?」

「一応されていますが、あまり深くは……」


国王と貴族らは、どうやら緊張関係にあるらしい。

王には権力が集中しつつも、いつ責任者として首を切られるか分からない、そんな難しい立ち位置にある。だからあんな回りくどいやり方をしたのだろう。



彼女は大きく体を伸ばして、あくびした。


「それでは、私は寝ます。自由に文献や資料を読んでもらってもいいので。」

「ありがとう。」


彼女は俺の後ろへ回り、適当にベッドに体を預けた。

俺は彼女の座った椅子に交代するように腰掛ける。


大転移魔法の研究についてのノートがあった。

言葉は読めるが、専門用語で難解で全く理解できなかった。


そこら辺の本棚をつたっていくと、机から一番遠い場所の本棚に、魔法基礎の書物があった。

薄かったので、暇つぶしに読んでみることにした。


【・魔法陣を媒介とし、魔力を通すことで魔法の多くは実現される。

・魔法陣を鮮明に想像し、少量の魔力を使うことで、魔法陣が空間に表出する。

・呪文を使えば魔法そのものの想像と実体の結び付きをより強固なものにし、確実かつ強力な出力にすることができる。

・修練と実践に励み、魔法の真髄を掴めば、魔法陣の表出化をせずとも魔法の出力が可能となる。】


そんな事が冒頭に書いてあるが、これは魔力ゼロの自分にとって夢も希望も無い話だった。

ただ、読み進めてみるとそれは意外と簡素なものだった。


それは、魔法陣と呪文とその歴史的背景の丸暗記であり、それ以上でもそれ以下でも無かった。

どうやら、魔法というのは神が与え給うた神聖なものであり、理解しようとすることは傲慢極まりない行為というのが通例らしい。


彼女が行なっている研究もまた、イレギュラーなことなのだろうか。

暇つぶしに、そのタブーに触れてみることにした。


(どうせ、魔法は使えないから……)




 気づけば夜を越し、朝を迎えていた。

窓から斜陽しゃようが差し込み、脳のエネルギーを少し回復させた。

衣擦きぬずれの音と共に、あくびの声が聞こえた。


「収穫はありました?」


寝癖を付けた彼女が掠れた声でった。

彼女の服は乱れ、正座の崩れた姿勢で、目を擦っていた。

脱力して顔を傾けた髪からは、長い耳が見えた。


俺は、小さな背凭れに全身の重量を掛けて言った。

「面白いことを思い付いたんだ。少し、協力してくれないか?」

「私も、一つ、思い出した事が……」

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異世界行っても、俺YOEEE...... 孤高の弱者.com @kokou_jakusya

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