死刑囚の新たな刑務

憑弥山イタク

死刑囚の新たな刑務

 死刑執行に事前の告知は無い。当日、突然執行される。故に死刑囚となれば、己に歩み寄る看守の足音に日々怯える。死刑を恐れない者も居るようだが、誰もが死を恐れている。尤も、既に確定された死を恐れても、とっくに手遅れなのだが。

 そんなある日。我々死刑囚が突如招集され、看守長から好機が告げられた。


「皆さんに、新たな刑務を提供します。とは言えその刑務は強制ではなく、参加したい方のみが参加してください。件の刑務に参加して頂いた暁には、死刑撤回は不可能ながら、最大限理想に沿った処遇を確約しましょう。尚、参加人数は、先着5人までとさせて頂きます」


 紛れもない好機であった。とどのつまり、その刑務とやらを終わらせれば、死刑執行までの日々を今以上に充実させられるのだ。

 私は、迷わずに名乗りを上げた。私に続く形で、我も我もと名乗り上げる。すぐさま指定の5人が決定し、刑務参加を決めた我々は、皆で歓喜した。


 …………が、課せられた刑務は、極めて残酷であった。特別な処遇などでは足りぬ程に、文字通り死ぬほど過酷な刑務であった。


 刑務の内容は、デスゲームの被験だった。映画などでよくある、本当に人が死ぬゲームの、言わばテストプレイである。

 数多あるデスゲームは、どれもこれも人が手掛けたものである。そして人が手掛けたものには、然るべき事前確認が必要となる。

 味見をしない料理人が居ないように、デスゲームにもが必要らしいのだ。

 それにしても、一体、何処の誰がデスゲームなど企画しているのだろうか。無論、被験者である我々には知らされていない。


 まずは第1のチェック。3脚の椅子。

 5人中3人が選出され、四方八方に監視カメラが設置された狭い部屋に連れていかれた。

 その部屋の中には、背を向け合う3脚の椅子。椅子には四肢を拘束する器具が取り付けられており、何も聞かされず座らされた3人は、即座に椅子へ拘束された。

 残された2人は、様々な機械が置かれた部屋に連れられた。その部屋には複数の監視カメラがあり、それらのほぼ全てに3脚の椅子が映されている。

 そしてその部屋に唯一ある回転椅子に、ガスマスクを被った白衣の男が座っている。それは極めて異様な光景で、我々は内心恐怖を抱いていた。


「チェック開始」


 ガスマスクは、淡々とした口調で言い、眼前にある装置の青いボタンを押した。その時、3脚の椅子のうち1つに、電気が流れた。3脚の椅子は、全てが電気椅子なのだ。

 電気を流された死刑囚Aは、この世の終わりのような叫びを上げ、極寒に震えるように体を酷く震わせる。震えること10秒、流れる電気は止まり、Aは失神。

 次に、死刑囚Bの座る椅子に電気が流れた。今度の電気は威力が高めで、Bは叫ぶことさえできずに口から泡を吐く。吐くこと10秒、電気は止まり、Bは瀕死なのか死亡したのか分からない状態。

 最後に死刑囚C。例のごとく電気が流れるが、その威力は最大。電気が流れた瞬間にCは卒倒し、体が痙攣する。そして実験終了の10秒を待たずして、死亡した。


 死刑囚Dである私と、残された死刑囚Eは、酷く後悔していた。今回の刑務は、事実上の死刑執行である。デスゲームの被験とは即ち、の確認なのだ。


「次のゲームを確認する。被験者は……キミでいいや」


 ガスマスクの男が、私を指さした。

 次に殺される、或いは限り無く死に近い状態になるのは、私だ。


「キミには実際にゲームをしてもらう。もしもゲームをクリアすれば、キミは死なずに済む。安心してくれ。真のクリエイターは、クリア不可能なゲームを作らない」


 クリアすれば生きて、不可能なら死ぬ。人の命を天秤に乗せるゲームとは即ち、所謂無理ゲーに近い難易度だろう。しかし、成功する確率がゼロでなければ、まだ希望はある。

 私は抵抗することなく、デスゲームの被験に挑んだ。


「ルールは、首を吊った状態でクイズに答える……どうだい簡単だろう? それも、クイズだって難しくない。分数の計算を暗算でやってもらうだけだ」


 撤回しよう。希望なんてなかった。首を吊れば呼吸も血流も困難になり、結果的に思考能力も低下する。ともなれば、クイズに答える事など不可能。と言うか、首を絞められた状態ではマトモに声も出せない。

 更に言えば、私は、分数の計算なんてできない。


「さあ、首を吊ってくれ」


 私の眼前には、足場用の椅子と、天井から伸びる首吊りロープ。ここで拒否したところで何も変わらない為、私は諦め、ロープの輪に頭を通した。


「チェック開始……」


 その後、デスゲームが開催されたのかは、私は知らない。知る術も無ければ、知る為の聴力も視力も無いのだから。

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