第4話 開門邂逅

「はえー」


 満点の星空の下で、疑問と不安の入り混じった嗚咽を発す男は"村"らしき場所を前にしていた。


 まず彼のイメージとして村とは、古い民家が点在し、広大な畑が広がり、そこを軽トラが走っている。そんな風な物だった。


 いやまず、青白い光を発している村なんて聞いたことが無いし、土地の様子からも察するべきだったろうが……

 

 そう、そこは彼がよく知る村とは違う様相を呈していたのだ。

 

 まず家々は高い場所にあった。というのも、その村は森の中にあり、規則正しく並び立つ長木の上部や中部。そこに木製の家が、木々を柱として出来ている。ツリーハウスの進化版と言った所だろうか。


 そして家だけじゃ無く広場のような円状の足場も

またちらほらと。

 各広場の中心を貫く木には螺旋階段が巻き付いている。なるほどこれを登るらしい。


 彼はなんだか夢見心地のまま、その階段を登り始める。 木製の階段は一歩を刻むごとにミシミシと音を立てた。手すりはあったが、湿っていて体重を預けるには不安が残るものだった。


 階段を登り終わり、小さなスペースにたどり着いた時、彼の目に村の全体が飛び込んだ。

 

「……へぇ趣味が良い」

 

 満点の星空の下、家々からは青白い光の粉が舞い上がっていた。寒色だけのイルミネーション。

なんとも非現実的で優美なのだろう。

 思わず彼も見とれてしまった。


「おや、そこのお人。もしかして魔術師様でありますか?」


 ここで突然、不意に話しかける人有り。声質的にはしゃがれた年配の物だ。

 彼がビクっと振り向いた時、その背後に居たのは白十字が入った黒面をつけた人間であった。

 

「…おやこんばんわ、ご老輩。そうですね、私は今丁度ここに着きました魔術師です」


「おぉ、ようこそツチァイプンへ。私はこの村の村長、ヒルキシードゥ=モソと言います。いやはやどうも、何もないどころか人も消えてしまったこんな村。来て頂き誠に感謝しております。ささ、こんな所で立ち話も何ですしどうぞ館に…」


 と年配は指をパチンと鳴らした。すると木の床が音を立ててある一方に信じられない速度で伸び始め、やがて橋を形成していく。


「(…最近の村長は魔法を使えるらしい)」


 村長は形成された橋を歩き、公生は控えめにその後ろをついて行った。そして、2階建ての大きな家に行き着いた。家にはいくつもの幾何学的な模様が施されている。


「お邪魔します」


 と公生は中に入った。途端、木の匂いが溢れ出す。良い匂いだ。

 内装はシンプルな作りで、テーブルや椅子、それから棚、そしてよく分からない家具がある。

多分ここはリビングであろう。

更に内部には小部屋もあるらしく扉が幾つかあった。


 ただ、照明と言う点では全く違い、壁に掛けられている燭台からは青い光が出ていた。故に何故か寒々しい。


「どうぞ腰掛けてください」


 村長は彼を椅子に座らせると、少しと言って小部屋に入っていってしまった。


「(……さてどうする…ここマジで何処、何県、何市?電気の通ってない村って今時あるか?というかなんだっか。ちつぁっつぁー?みたいな名前日本にあるか?あと村長も何かおかしい。あの面は一体...そして魔術師とは……もしかしてヤバイ村に入ってたりするかもな俺。生贄とかありそうだ。フックに吊るされたり、十字架に打ち付けられたり。クソッそしたら意地でも復活して、住人全員の頭を警察署の前に直送してやる)」


——ガタッ


 なんて事を考えてると村長が帰ってきた。


「!」


 半開きの扉から一瞬、銀色の反射光が眼を刺す。そこで見えてしまった。村長の片手にナイフが握られている様子が。ただ見間違いだろうか?


否、嫌な予感は当たるもの。


 バタンと扉が開くと同時に村長は大きく飛び、テーブルの上へと着地。公生が逃げる隙もなく、その眼前にナイフを突きつけた。

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やがて箒星と共に逝こう ヨロイモグラゴキブリ @hikaemenaG

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