第3話 星と共に②
公生は青白い光源の元へ向かう。暗い森は所々月明かりが行き届き、幸いな事に足元は一応見えた。夜になるとすっかり気温も下がるようで、昼よりは動きやすい。
ただ、これまた困った事が一つ。それは、夜の森に鳴り響く、怪しい鳴き声だった。ついさっきも鳴ってはいたが頻度と音が違う。さっきは鳥の鳴き声の様で頻繁には聞こえなかったが、今は遠吠え、それか唸り声が聞こえる。
「喜ばなきゃな。愉快な森の仲間達と激しい触れ合いが出来るぜ」
少しだけ、ほんの少し歩みが早くなる。彼はなるべく後ろを振り向かない様に、ただ光の元へ向かっていく虫の様に進んだ。
そうしていく内に彼の頭の中に一つの疑念が浮かぶ。
もし、人がこの姿を見たらどうだろう。
と。
そう、この服は死体剥ぎの非業の塊。
ボロボロであるし、なんだか変てこりんである。
良くて変態コスプレイヤーと言った所。
ならば用心が必要になるだろう。
「————」
そんな事を思っていると突然にどこかから話し声が聞こえてきた。彼は急いで声がする方へ行った。
「おおぉ...?」
そして、遂に発見した。それは間違いなく人間であった。そこには二人居て、小さな少女と大柄な男がランプを持って、荒れた道を歩いていた。
少女は深青のローブを着て、男の方は紫のローブを着ている。彼の目が捉えていたのはその後ろ姿であった。
「お父さん!お母さんは今度は何を持って来てくれるかな!?」
少女が男に、生き生きと尋ねた。男は橙の炎のランプを揺らしながら言う。
「あぁ、母さんはヒルイトに行ってたからな。あそこの果物は美味いんだ」
「やったぁー!」
「おーコイツはびっくらびっくり」
木に隠れながら見ていた彼は小さく感嘆の声を漏らす。彼らが話していたのは日本語。つまるところ、会話がなせる訳だ。
「何であんな格好してるか分からんが。。。行くしかあるまい...!」ザッ
彼はそう決意を決めて、細い道に足をザッと踏み込んだ。その音に反応して、親子が振り向く。
「...」
振り向いたその顔は白く、途方もなく白かった。否、よく見てみると顔だけじゃ無く手も真っ白。
冗談じゃ無くお白いを塗った様に真っ白だった。だが髪だけは黒い。
公生は少しばかり面を食らう。しかし、男はその顔で彼を見るや否や、あぁこんにちはと親しげに挨拶をした。
「あぁ、こ、こんにちは」
「どうされました?“魔術師“殿」
魔術師。この言葉の意味するところは理解できる。けれど、なぜ、この場で、彼が、公生が、
“魔術師“なのだろう。
その答えは疲れた頭には思い浮かばなかった。だって何もしてないし、そんな肩書きも持っていないから。けれど、何かと間違えているなら好都合。
それは彼の【得意】である。
「いやなに、ただ人生という道に迷っていたり、普通の道に迷っていたりしていただけです。ところで貴方、この先にある光は何か分かりますか?」
なんと即興にて魔法使いになりきったのである。
魔法使いがどんなのかは知らないが、相手は少なくとも尊重はしている。
ならばこういう態度でも受け入れられるはず、そう踏んだ。踏んでみた。
「神脳村の光ですよ。それはまぁ夜ですから」
男は嫌な顔を一切せずに答えた。どうやら成功らしい。ただ、少女の方は男の後ろに隠れて、こちらをその白い目でジロジロ見ている。少し怖い。
「ほうほう。ではこの先には村があるのですね」
「えぇ、魔法使い殿はここは初めてなのですか?何かの任務でしょうか?
あぁ、そう言えば
今度
ヴィツァル、ヴィツァル。それは何だろう。
そんなのは後回し。
「そうです、感が鋭いですね。とにかく情報提供ありがとうございます」
「いえいえ滅相もない、いつも貴方がた
「えぇえぇ、ではこれで」
彼はそう言って去ろうとしたその時、後ろにいた少女が隠れたまま彼に向かって言った。
「どこか気持ち悪いの?」
その言葉に悪意や敵意といった感情はなかった。だが、男はコラっと一言彼女を叱るとすぐに公生に向けて頭を下げて謝る。
「?大丈夫ですよ。多少体調は悪くはありますが問題ありません。ご心配ありがとうございます」
彼はそう言うと、今度こそ道を進んでいった。ランプを持った男と可憐なる少女はその姿を少しだけ見るとまた、彼らの行く道を進んで行った。
さっきの魔術師についての話をしながら。
「あの人本当に大丈夫かな...」
「ニュツ。魔術師さんにはちゃんと敬語を使わなきゃダメだよ……それはそれとして、確かに顔色が驚くほど悪かったね。服もボロボロだし、死んでるのかと思ってお父さんびっくりしたよ」
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