第2話 道中
公は青白い光源の元へ向かう。暗い森は所々月明かりが行き届くものの未だ足元は不安定。だが気温の低下は思ったよりは適温であり、昼よりは動きやすい。
ただ、これだけはどうにもならない困った事が一つ。夜の森に時々響く低い唸り声のことである。
「ちゃんと狂犬病ワクチン打ってっかな?はは。ま、会った時には大人しくケツを差し出すとしますか」
少しだけ、ほんの少し歩みが早くなる。彼はなるべく後ろを振り向かない様に、ただ光の元へ向かっていく虫の様に進んだ。
道中、彼は人を見た。その暖かな炎の光が存在を気づかせたのだ。
それは大人と子供の二人だった。彼らは荒れた小道を歩いていた。小道は青い光の出所へと伸びているようだ。彼等の後ろ姿を静かに草むらから観察するコウであったが、心は急激な高まりを見せた。
「(第一村人発見だ!……よし!)」ガサッ
それがどんな人であれ、まず話しかけなければ始まらない。彼はふぅと一呼吸おいて草むらを抜け出し道に立つ。
歩く二人が音に気づいて振り向くと同時、挨拶をしようと口を開いた。
「ご……ごほっんにぢは」
放たれた言葉は、緊張と、喉の渇きによって
加えて夜中であるのに光源も持たず立ちすくみ、汚れた身なりでボロボロの服を着て、目が血走ったその様子は正しく……”バケモノ”だろう。
「「ヒャァァァァァァ!!」」ズダダッ!
「………あれぇ?」
一目散に逃げられた。残当である。ただ驚くべき事に、一瞬見えた顔は真っ白に見えた。
疲れからの幻覚だろうか?
……ブォォォォォ
しかしそんなことを考える間もなく、招かれざる客が来たようだった。丁度背後から、大きな呼吸音が聞こえる。
「!」ザスー!
本能的な危機を感じた彼は振り向きながら後退する。そして視界に唸る“獣”を捉えた。
その獣は前方10メートル程にいた。ゴワゴワとした毛で覆われていて、体長は1メートル半くらいは裕に越していそうだ。体つきや顔は熊に似ている。彼はその圧倒的な威圧感に思わず唾を飲み込んだ。
獣は様子をこちらの様子を伺っている。公も同様に腰を落として動かずにいた。
「なんだったか……熊に出会った時ってでかい声をあげりゃ良かったか?)うぉぉぉぉ!!!」
「グラアゥ!」
どうも逆効果であったようだ。獣が動き出し、見せかけの拮抗状態が崩れ去る。熊は突進していくと口を大きく開けて凶暴な牙を剥き出しに。
そして今まさにその牙を獲物に突き刺さんと襲いかかる!
「バカッ!この!来るんじゃねぇ!」バッ!
———まだ、死にたくねぇ!
そう思いながら瞼を半開きに、咄嗟に手を前に突き出して防御の姿勢をとったその時。手のひらが青緑色に輝き始める。
「なにっ!?」
直後ギーと電子音がなると一筋の光が熊の脳天から全身を貫いた!
——プシャ
「ブォッ!」
少量の血液が宙に舞う。同時に獣の鳴き声がした。一体なにが起こったのか彼には理解できなかった。しかし間も無く、獣が力なく倒れる所を見るとそれが死んだ事だけは理解できた。
公は緊張が解けて地面にどっさりと尻をつく。それから、まだ息が整わないまま両の手のひらを何度も何度も見た。
「な、なんか出た……」
***
そんなこんなで不思議な事がおこりながら、遂には光源に到着した。
「はえー」
満点の星空の下で、疑問と不安、それに少しの感動が入り混じった嗚咽を発す。
それもその筈、彼が目の前にしていたものが余りにも現実離れしていたのだ。まず家?のような建物がありはした。しかし、場所が異常だった。
というのも規則正しく並び立つ長木の上部や中部、そこに木製の家が木々を柱として出来ている。ツリーハウスの進化版と言った所だろうか。
そして家だけじゃ無く広場のような円状の足場も
またちらほらと。
各広場の中心を貫く木には螺旋階段が巻き付いている。なるほどこれを登るらしい。
彼はなんだか夢見心地のまま、その階段を登り始める。 木製の階段は一歩を刻むごとにミシミシと音を立てた。手すりはあったが、湿っていて体重を預けるには不安が残るものだった。
階段を登り終わり、小さなスペースにたどり着いた時、彼の目に村の全体が飛び込んだ。
「……へぇこれはなかなか」
満点の星空の下、家々からは青白い光の粉が舞い上がっていた。寒色だけのイルミネーション。
なんとも非現実的で優美なのだろう。
思わず彼も見とれてしまった。
見惚れて、後ろに居る者に気づかなかった。
次の瞬間、眠るように意識が落ちた。
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