悪みどろ

@akairo_c_red

第1話

夜闇と雨でまるで見通しが立たない夜中の道を慎重に車を走らせる。フロントガラスを覆うような雨量に関心しつつもカーナビへと視線をちらりと向け、未だ目的地にたどり着かないことに嘆息し、再び前方へと集中した。

慣れない運転とこの天候とで心に平穏が訪れることもなく、ハンドルを握る手が自然と汗ばむ。心を占める不安は何も天候だけではなかったが、今は何より自分の身の安全なのはいうまでもなかった。カーナビなどまるで触ったことなどなかったがそこはやはり現代人といったところか、操作に戸惑うことは特になかった。路面の凹凸で車体がふらっと浮かび後部座席の毛布がそっとずれた。続く道路が直線なのを確認してちらりと覗く。毛布にくるまれたソレは依然その姿を保ち、沈黙を続けた。

自然と喉が音を鳴らし、背筋に嫌な汗がながれるような、そんな錯覚を感じた。鼓動が一定のリズムを保てず胸にぎゅうっと鈍い痛みが響く、一つ二つと深く呼吸をし、自分に大丈夫だと言い聞かせる。何も難しいことはない、後はただこのナビの示す先へ行くだけでいいのだ。深く考えられた計画でも事前に下調べしたわけでもない、はたしてそこが適正なのかもわからない、そんな場所へとただ闇雲に向かうだけの愚かなドライブ。自分の人生を振り返って幾度このようなことがあっただろうか。

「こんなこと何度もあってたまるもんかよ」

と、思わず独り言ちる。そんな悪態も車体を叩きつける雨音の中では余韻を残すこともなくかすれて消えていった。ずっと海の近くを走っているせいなのか知らないが、時折横風に車体をもっていかれそうになるくらいの風をハンドルに感じた。何故僕がこんな事になってしまったのか、なんでいつも自分ばかり、などと考えても仕様のないことばかり考えてしまうのは、この退屈と緊張の上で悪路を走り続けているからだろう。こんなこと、一週間前の自分にはまるで想像もつかない、とんでもない週末になってしまった。

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