心があたたまる、とても優しいホラーです

 ジーンと心に染み入る、とても素敵な作品です。 

 妻と娘を亡くし、一人きりで残された主人公。彼はただ静かに、家族が残した『庭』の手入れを続ける。
 そんな彼のもとに、ある日『変化』が訪れる。

 
 『庭』というのは、とにかく手入れが難しいものです。日々雑草や害虫の駆除をしたり、季節によって花を植え替えたり。そんなマメな努力を続けることで、ようやく姿を保てるもの。
 一人きりでそれを維持するというのは、相応の覚悟がいるもの。色々と勉強も必要になるし、真夏の暑い日なども早朝に起きて手入れしないといけないなど、かなりの労力が必要になる。


 「元々庭は娘のものだった。娘が植えた沢山の花たちが、季節に合わせて美しく咲いている。そんな庭をなくしたら、きっと娘が悲しむと思ったのだ」
 

 作中に出てくるこの一文に、主人公の想いがはっきりと表れています。きっと、大変な作業が必要になるから、庭を放置したいと思うことだってあるでしょう。でも、手入れそいなければ雑草だらけで見る影もなくなり、そうかと言ってコンクリートなど張ってしまったら、全てが消えてしまう。きっと、家族の思い出も一緒に。

 そんな主人公の葛藤が、噛みしめれば噛みしめるほど伝わってきます。
 だからこその、本編で起こる『奇跡』に心が打たれるのです。

 これからの年月も、彼が孤独にならないでいられるよう、牡丹が咲き続けてくれればいい。
 読み終えた後、きっとそんな願いを抱かずにはいられなくなります。