心があたたまる、とても優しいホラーです
- ★★★ Excellent!!!
ジーンと心に染み入る、とても素敵な作品です。
妻と娘を亡くし、一人きりで残された主人公。彼はただ静かに、家族が残した『庭』の手入れを続ける。
そんな彼のもとに、ある日『変化』が訪れる。
『庭』というのは、とにかく手入れが難しいものです。日々雑草や害虫の駆除をしたり、季節によって花を植え替えたり。そんなマメな努力を続けることで、ようやく姿を保てるもの。
一人きりでそれを維持するというのは、相応の覚悟がいるもの。色々と勉強も必要になるし、真夏の暑い日なども早朝に起きて手入れしないといけないなど、かなりの労力が必要になる。
「元々庭は娘のものだった。娘が植えた沢山の花たちが、季節に合わせて美しく咲いている。そんな庭をなくしたら、きっと娘が悲しむと思ったのだ」
作中に出てくるこの一文に、主人公の想いがはっきりと表れています。きっと、大変な作業が必要になるから、庭を放置したいと思うことだってあるでしょう。でも、手入れそいなければ雑草だらけで見る影もなくなり、そうかと言ってコンクリートなど張ってしまったら、全てが消えてしまう。きっと、家族の思い出も一緒に。
そんな主人公の葛藤が、噛みしめれば噛みしめるほど伝わってきます。
だからこその、本編で起こる『奇跡』に心が打たれるのです。
これからの年月も、彼が孤独にならないでいられるよう、牡丹が咲き続けてくれればいい。
読み終えた後、きっとそんな願いを抱かずにはいられなくなります。