学校のかいだん

みあかろ

学校のかいだん

僕は小林はる、中学二年生、どこにでもいるような男子だ、スポーツなんかは好きじゃなく、心も弱くてトラウマも多い弱くて頼りない奴だ。


 「ねぇはる君、今日こそ行こ!」


 そうやって僕に話しかけてきたのは唯ちゃん、僕の幼馴染だ、こんな僕にも今まで通り接してくれるやさしい女の子、彼女はいつも夏の時期になるとそういうホラー系の話に興味を示す。


 「えー、なんか怖いしいいよ」


 僕が通う中学では、誰も訪れないボロボロの旧校舎がある、そしてその校舎にある階段にはとある噂がある、それは日が沈んだ夜の時間帯、階段を登って降りるをして六十六回往復した後、かつてその校舎で死亡した少女の幽霊に出会うという噂だ。

僕は唯ちゃんとは真逆でホラーには全く興味がない、というか苦手だ。

 すると唯ちゃんが僕の手を強く掴んで言う。


 「大丈夫!私がいるし、何かあったら逃げれば良いもんね」


 まっすぐな眼差しで、僕の顔に顔を近づける、まぁこれだけ明るい子が隣にいてくれれば、確かに精神的にも安定していられるかもしれない。


 「何かあったら逃げようね?絶対だよ??」


 僕の返事を聞いた唯ちゃんは満面の笑みで嬉しそうだ。


 「じゃあ夜の八時になったら旧校舎集合ね!」



 ***



 夜、待ち合わせに丁度一緒の時間に来た僕達、どちらかが遅くなることなくピッタリだった。


 「よーし、行くよ!」


 唯ちゃんに手を繋がれ引っ張られながら旧校舎の中に入って行く、廊下は真っ暗なため懐中電灯をつけた。

 ポタポタと水が落ちる古い水道の蛇口、きしむ木の床、埃で汚れた窓、ライトに照らされた場所の様子は全て不気味で、僕は早く逃げ出したかった、次第に足の動きが遅くなる僕に対して唯ちゃんは真逆のようにぐんぐんと進む。


 「ちょっと、引っ張らないでよ」


 唯ちゃんがこちらを振り向いて言い出した。


 「だって、こんな所歩くだけでも僕はもう限界だよ〜」

 「じゃなくてスカート!」


 唯ちゃんが言ったのは手ではなくスカートの方だった、しかし僕はそんな所掴んですらいない、そんな破廉恥なことするわけがない、そんな余裕今の僕には無いから。


 「僕、スカートなんて触ってもいないよ?」

 「え?」


 現在その部分はライトに照らされておらず、どうなっているのか見えない、とりあえず確かめずそのまま放置して歩き始める僕ら、見るのが怖かったのだ。歩き続けながら僕は前の唯ちゃんに小声で聞く。


 「ねぇ、まだ引っ張られてる?」


 唯ちゃんは何も答えない、ただずっと黙々と歩き続けるだけだった。

 そしていつの間にか階段の前へ着いていた、階段は踊り場があり二階へ続いている。


 「唯ちゃん?」


 彼女の方をそっと覗き込むように見てみると全然平気そうな顔で階段を見ていた、そしてこちらの方を向く。


 「大丈夫よ!ちょっと怖かったけど、結局何も無かったみたい」


 唯ちゃんが笑顔で答える。


 「そっか、よかった、じゃあ早く済ませて帰ろ?」

 「もう、怖がりすぎ、どうせ何も無いんだから!行くよ」


 僕らは一緒に階段を登り始めた、一段一段踏みしめ登って行く、最初の方は何もなく、ただ淡々と階段を往復するだけだ、しばらくして三十回目の往復で唯ちゃんが話を始めた。


 「ねぇ、はる君は将来何になりたいの?」


 階段を下りながら将来の夢の話になった、しかし僕には何も夢と言えるものはない。


 「えー、何って言われても何も考えてないなぁ、唯ちゃんは?」

 「私は…お嫁さんになりたい…かな」


 予想外の返答が返ってきた、それに僕は黙ってしまう、なんだこの空気、突然しおらしくなった唯ちゃんにドキッとする。

 しかし突然唯ちゃんは意味不明な話をしだす。


 「あの時はお互い大変だったよね、家庭のこととかさ、でもはる君今も大変だよね」


 話はどんどん分からない方へ進んでいく、そして三十五回目、下りの途中、踊り場へ唯ちゃんがジャンプして、真っ赤に光る窓を背にこっちを振り向き言った。


 「だからきっともう大丈夫、はる君も幸せになれるよ、ごめんね、階段の話本当は嘘なの、はる君をここに呼びたくて、ね、思い出した?」


 唯ちゃんは僕に手を差し出す、僕はなんとなくこの手を取ってはいけないと思った、これは唯ちゃんじゃない、きっと別の何かなんだ、自分の胸にそう言い聞かせて唯ちゃんを押し退け走る。


 「待ってはる君、私達ずっと一緒だって言ったじゃん!」


 さっきからずっと何言ってるんだ。

 僕は構わず無視して走り続け、その後ろを唯ちゃんが追いかけて来る。しかしその後、きしむ床につまずき倒れてしまった。

 振り向くと唯ちゃんがすぐ近くに僕の足をまたぐように立っていた。


 「私、お嫁さんになりたかったなぁ、はる君の」


 体をクネクネさせてから顔を近づけてきた、とっても気持ち悪い動きだ。僕はたまらず体を起き上がらせ逃げる。


 「どうしたんですかー?」


 どこかから声がする、そう思ったら目の前に明かりが見えた、警備員が懐中電灯を持ってこちらを見ていた、良かった、これで助かるかも、僕は警備員に向かって走りしがみついた。


 「たたた、助けて!」


 震えた声で助けを求めた、警備員は最初何か分からないような顔をしていたが、僕の顔を見て何かに気づいたように喋り出す。


 「ん?んー、あ!小林さん!また来ちゃったんですか?もーしょうがないんだから」

 「え?…」




 警備員に助けてもらった後、僕は病院に連れて行かれ、なぜかベッドへと寝かされた。

 病院の先生は僕の話に親身になって聞いてくれる。


 「つまり、小林君とその幼馴染の浅田唯さんの二人で肝試しをしたと」

 「はい、でもまさか唯ちゃんが幽霊に取り憑かれちゃうなんて…あの、唯ちゃんは!?」


 僕はその後の唯ちゃんがどうなったのか知らない、故にとても心配な気持ちでいっぱいだった。


 「安心してください…別の病室で安らかに…眠っています、次期に目覚めるで…しょう」


 先生が掌を出して前屈みになる僕を制止して言った、何か歯切れが悪い様子だ、だが嘘をつく必要はないだろう、先生が言っているなら信じよう。


 「良かった…あの、僕、こういう体験初めてで、う、うぅ」

 「大丈夫ですよ、ここにいれば私達がすぐに駆けつけますからね」


 隣にいた看護師さんが僕の手を握って落ち着かせてくれた、あぁここはなんて居心地がいいんだろ、皆自分の言ったことを否定したりせず肯定的だ、なんだか、ずっとここにいたような気がするくらい落ち着く。



語り手:三人称



 とある中学校の教室、ホームルーム前、仲良し男子三人組が噂話をしている。


 「そういえばまたあのおっさん来たらしいな」

 「おっさんって?」


 一人の男子、”健”が聞いたことない話を言い出した。


 「知らないのか?旧校舎の不審者だよ、八年前からだったかな、毎年精神病院から抜け出して、この学校の旧校舎で階段をぶつくさ独り言言って登り降りしてんだってさ、全校で噂になってるぜ?」

 「えー、こわ、ホラーじゃん、てか病院の人達も見張っとけよな」


 話を聞いた”剛”は興味を持ちながらも怖がっている様子だ。


 「それがなんかいつも目を離した隙にいなくなっちまうらしいぜ」

 「ふーん、どうだか、サボってんのを嘘ついてるだけじゃねぇの?」

 「その話ならもっとやばい噂知ってるぞ!」


 三人目の”明”が元気よく話に入ってきた。


 「明?なんだよ、それ以上なんかあるのか?」


 健が興味津々な様子で聞く、剛は一言も発さなかったが、同じく興味を持って前のめりの様子だ。


 「なんでもあのおっさん十八年前この学校に通ってたらしいんだよ」

 「えー、先輩かよ」


 健が眉間に皺を寄せ言った。


 「そんでさ、おっさんの家庭環境がだいぶやばくて、片親で金も無くて虐待受けてたんだってさ、そんで偶然にも同じような境遇の女の子がいて、その人と仲良くはなるも、お互い家庭に耐えきれなくなって、あの校舎のベランダから飛び降り自殺」

 「ちょっと待て」


 剛が話を遮った。


 「自殺したんならその今いるおっさんはなんなんだよ」

 「まぁまぁ、話は最後まで聞け」


 明が話を続ける。


 「もちろん、おっさんは生きてるよ、でも一緒にいた女の子は死んじゃったんだってさ、きっとその人に対する自責の念で押し潰されて、精神にトドメが刺されたんだろうな」


 健が机に頬杖をついて考えたような表情を見せ、喋り始めた。


 「ふーん、じゃあおっさんはその女の子の幻覚でも見て、毎年旧校舎に来てんのかな」

 「多分そうだよな、なんかちょっと可哀想になってきた」


 剛が健の話に返した、すると明はまた話し出す。


 「幻覚かどうかを決めるのはまだ早いぞ、あのおっさん、毎年どうやってか見張りから逃げて必ずここに来るんだろ?そんなん普通は無理だ」

 「え?まさか」


 健の体が震える、そんな健の様子を見て剛が言った。


 「そんなわけねぇだろ、病院の看護師とかがサボってんの言い訳にしてるだけだっつうの」

 「そ、そうだよな」


 健が少し安心した様子だ。


 「そうかなぁ、うーん」


 納得いかない様子の明だが、話をすぐに切り替えてしまった。


 「そうだ、今日カフェよってかね?」

 「おー、賛成」


 健がさっきの話を忘れ去って楽しそうにしている、明が剛にも聞く。


 「なぁ、剛は?」

 「俺?まぁ、今日暇だし、いいよ」


 少し後味の悪い話に心に整理がつかないのか、元気がない様子の剛だった。

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