第3話:カフェ・マボロシとのお別れと約束

 夕方になるころ。カランとベルがなりました。

「いらっしゃいませ」

 あいさつにも、すっかりなれました。

 はいってきたのは、どこかでみたことのあるフクロウ。

「店長! おそいわよ!」

 イーデがおこっています。

「すまない。すっかりおそくなった」

 それはこのカフェ・マボロシのフクロウ店長だったのです。

 ソーヤがみた、イーデをおとしたフクロウでした。

「なんでイーデがいるんだい? 君をさがしてたんだよ」

「ソーヤにひろってもらったの。お店もてつだってもらったんだから」

 フクロウ店長は、ソーヤに気づいて、あわてて頭をさげました。

「ソーヤくん、ありがとう。たすかったよ」

「ううん、とても楽しかったから」

「それはよかった。おれいに、好きなドリンクをなんでもごちそうするよ」

 ソーヤは、そういえばごちそうしてもらうんだっけ、とイーデとの約束を思いだします。

 気がつけば、ソーヤはまだなにも飲んでいません。フクロウ店長につくってもらうドリンクは、きっとおいしいことでしょう。

 でも、ソーヤはいいました。

「じぶんでつくってもいいかな?」

「うむ、かまわないよ。いいのかい?」

「せっかくだから、じぶんでつくって飲んでみたいんだ。だって、たくさんつくったのに、ひとつも飲んでないんだもの」

「ソーヤなら、きっとおいしいドリンクをつくれるものね」

 イーデがいいます。

「そうなのかい?」

 フクロウの店長は、おどろいています。

「みんなよろこんでいたわ」

「それはすごい」

 ソーヤは、ふたりにほめられて、てれくさそうな顔をしました。


「じゃあ、つくるね」

 ソーヤは、じぶんが大好きなサイダーで、なにかつくってみたいと思いました。

 ざいりょうのたなを、はしからはしまでながめます。いっぱいなやんで、たくさんつくったドリンクたち。

 じぶんが飲みたいものはなんだろう?

 さがしているうちに、みおぼえのないびんがあるのに気づきました。

 そこには、こんな名前がかいてあります。

 『虹の想い出』

 ソーヤは、すいよせられるように、そのびんを手にとりました。

「はて? そんなのあったかな?」

 フクロウ店長が、不思議そうにしています。

 ソーヤは、イーデのなかにまずサイダーをいれました。そして『虹の想い出』のびんをあけてそそぐと、サイダーはゆれるように、色を変えていきました。

 虹のようにきれいなイーデのなかで、ソーヤのつくったドリンクが虹のように光っています。

 とてもきれいでした。

「すてきなドリンクね。わたしにまけないうつくしさだわ。さ、飲んでみて。ようやくごちそうできるわね」

 イーデが、じょうだんっぽくいいました。

「うん」

 ソーヤは、じぶんのつくったドリンクを飲みました。

 ごくり。

 おいしい!

 口の中が、とってもしあわせになる味でした。しゅわしゅわのサイダーのすっぱさと、あまい味、そして虹の色のように、たくさんの味がはじけました。

 ソーヤはそのひとつひとつが、今日の楽しい思い出の味のような、そんな気がしました。

「どうだった?」

 イーデがききます。

「とってもおいしかったよ。最高に楽しい味だった!」

 ソーヤは、元気に答えるのでした。



 ソーヤが、カフェ・マボロシから、帰る時間になりました。

「びっくりしたけど、とっても楽しかった」

「わたしも。ありがとうソーヤ」

「てつだってもらってすまないね」

 イーデとフクロウ店長がいいました。

「ねえ、ぼく、またきてもいいかな? とっても楽しかったし、またドリンクをつくってみたいんだ」

 ソーヤはいいました。

「もちろんよ!」

 イーデがいいました。

「いつでもおいで」

 フクロウ店長もいってくれました。

「これをあげよう」

 フクロウ店長がくれたのは、小さな虹色のスプーンでした。

 赤や青や、緑と金色まで、たくさんの色をつかった、まるでイーデのようなもようのスプーン。

「きれい! もらっていいの?」

「ああ、このスプーンがあれば、いつでもカフェ・マボロシのとびらがひらくよ」

「ありがとう! たいせつにするね」

「またすぐ、きなさいよね」

 イーデのこえは少しさみしそうでした。


 ソーヤは、イーデとフクロウ店長にさよならをいうと、外にでました。

 とびらにかかれた『カフェ・マボロシ』の名前をみて、ゆっくりとしめるととびらはすうっと消えていきました。

 さみしくはありません。

 ソーヤにはすてきな思い出が、そして約束のスプーンがあるのですから。

 ソーヤは少しだけ空を見て、おうちにむかって走り出しました。

 次に『カフェ・マボロシ』でドリンクをつくる、その日を楽しみにしながら。

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カフェ・マボロシと虹色のグラス 季都英司 @kitoeiji

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