第2話:カフェ・マボロシの不思議なお客様たち
「ありがとう、ソーヤ」
イーデがおれいをいいました。
「よろこんでもらえてよかったよ」
「またお客がきたらどうしましょう」
「ぼくがまたつくるよ。楽しかったし」
ソーヤはいいました。
「いいの?」
「うん、まかせて」
そのとき、カランとベルがなりました。
「いらっしゃいませ」
ソーヤはすっかり、店員きどり。
とびらがあいて、黄色い羽の小鳥が飛んできました。いちばんはしっこの、いすにとまります。
でも、小鳥はなにもしゃべりません。
「……あの、ごちゅうもんは?」
イーデがきいてくれました。
「ご、ごえが、ぎ、ぎれいになるどりんぐをぐだざい」
ソーヤはびっくりしました。ひどいしゃがれごえなのです。
「うだいずぎて、ごえがでなぐなっで……」
と、小鳥がいいました。
どうやら、声がかれてしまっているようです。
「じゃあ、のどにいいドリンクがいいかなあ」
小鳥はこくこくとうなづきました。
「はちみつとか、いいんじゃないかしら」
「いいかもね」
ソーヤは『はちみつ』とかかれたびんと『レモン』とかかれたびんをとりだしました。
黄色い小鳥なので、にあいそうだと思ったからです。
ソーヤはグラスの中に、レモンジュースと、はちみつをいれてまぜました。
「いいじゃない、おいしそう」
イーデがそういってくれたので、ソーヤはできあがったドリンクをだそうとしました。
ですが、ふと、オオカミのことを思いだしました。もっと、小鳥がよろこぶものが、あるような気がしました。
ソーヤはききました。
「なんで、そんなに歌ってたの?」
「あ、あの、わたしうだがへだで、もっどうまぐなりだぐで」
しゃがれごえで、小鳥がこたえます。
「そっか、のどにいいだけじゃだめなんだ。歌がうまくなるようなドリンクじゃないと」
ソーヤは答えがわかったような、気がしました。
「歌がうまくなるような、ざいりょうってある?」
「そうねえ。『花のしずく』はどうかしら。願いをかなえるっていう、花の蜜なの」
「いいね、それにしよう!」
ソーヤは『花のしずく』のびんをとりだすと、ドリンクのなかにすこしすこしだけまぜました。
しずくがゆっくりとけ、キラキラと光っています。
「どうぞ、飲んでみて」
ソーヤはグラスを、小鳥の前におきました。
小鳥はは、グラスのふちに飛びあがると、くちばしでつついて飲んでいます。なんどもなんども、少しずつ。
そして、
「なんておいしいの! やさしくてすてきなお味!」
きれいな声がひびきました。
ソーヤは、びっくり。
その声は、さっきとは、まるでちがいます。
「声がもどってるわ!」
小鳥も、びっくりしているようです。
「すごくすてきな声だね!」
「だれの声だろうって、びっくりしちゃった」
ソーヤもイーデも、小鳥の声があまりにすてきで、おどろいてしまいました。
「いい歌が歌えそう。歌ってみてもいいかしら」
「ええ、よろこんで」
イーデがいうと、小鳥は歌いだしました。
かわいらしく、すてきな歌声で、ソーヤはうっとりしてしまいました。
歌い終わった小鳥は、なんどもおれいをいいながら、お店をでていきました。
「すごいわね、ソーヤ。このまま店員になっちゃえば?」
「へへ、それも楽しそうだなあ」
ソーヤは、うれしくなりました。
しばらくして、またカランとベルのおとがなりました。つぎのお客です。
「いらっしゃいませ」
ソーヤがいいましたが、お客は、なかなかはいってきません。
「どうぞ、おはいりくださいな」
イーデが声をかけると、ゆっくりとお客がはいってきました。
なんとドラゴンです。
長い首にするどいキバ、大きな翼とまっ赤なうろこ。
絵本でみたままの姿です。
「うわあ!」
ソーヤはおどろいて、大声をだしてしまいました。
「ひい!」
おどろいた声が、もうひとつきこえました。
ソーヤはおそるおそる、顔をだすと、そこには頭をかかえて、ふるえているドラゴンがいました。
ドラゴンがこわがっている? ソーヤはしんじられませんでした。ドラゴンは強いと思っていましたから。
「あの……お客さまですか?」
イーデがききました。
「あ、あの、はい、そうです……」
大きなからだなのに、とても弱々しい声です。
「ぼく、こわがりで……。このカフェのドリンク飲んだら、強くなれるかもって、思って……」
ソーヤの中でこわがっていた気持ちは、どこかにいってしまいました。
「そこにすわって。おいしいドリンクつくるから」
ドラゴンはテーブルまできましたが、いすが小さくてすわれません。しかたなく、そのまま立ってもらいました。
「ごちゅうもんは?」
すこしあきれながら、イーデがききます。
「……あの、こわがりをなおせるような、元気がでるドリンクを」
「こわがりをなおす、かあ」
むずかしそうなちゅうもんです。
「イーデは、どうしたらいいとおもう?」
「うーん、元気がでるだけじゃなくて、こわがりをなおすってなると……」
「そうだね……」
ソーヤは、なにか元気がでる飲み物は、なかったかなと考えます。
「あ!」
ソーヤはお母さんにつくってもらった、おさとうたっぷりの、あまーいミルクのことを思い出しました。とても元気がでたのをおぼえています。
「ミルクとおさとうはある?」
「ええ、あるわ。れいぞうこの中よ」
ソーヤは、ミルクをとりだしてイーデにそそぎ、おさとうをたっぷりとかしました。
これだけじゃだめだ、とソーヤは思いました。
こわがりをなおすには、もっと強くなれそうな、そんなざいりょうが必要な気がします。
ソーヤはなにかないかと、たなをさがして、ひとつのびんをみつけました。
『太陽の炎』
いかにもあつくて、強そうです。
「これだ!」
ソーヤは『太陽の炎』のびんをとると、ミルクの中にどぼんと中身をおとしました。
「わあ!」
ミルクの中の『太陽の炎』はまっ赤にもえて、冷たいミルクは、ぐつぐつあっというまにホットミルクです。色もまっ赤になりました。
「どうぞ! これできっと強くなれるよ」
ソーヤはまっ赤なドリンクを、ドラゴンの前におきます。
「だいじょうぶかな」
ドラゴンは、グラスを手にもつと、おっかなびっくり、ごくりと飲みます。
すぐに、ただでさえまっ赤なドラゴンの顔が、かあっと燃えるように赤くなりました。
そして、
――ごおっ
ドラゴンの口から、炎がふきだしました。
「あつい! あまい! とってもおいしい!」
ドラゴンがさけぶたびに、炎がふきだします。
「ドラゴンってほんとに、火をふくんだなあ」
ソーヤは目をぱちくり。
「すごく元気がでてきたよ! なんでもできそうだ!」
「うん、なんだかすごく強そうよ」
イーデがいいました。
「ありがとう! この店はすごいね!」
ドラゴンは翼を大きくひろげると、うれしそうに飛んでいきました。きたときとはまったくちがう、どうどうとした姿です。
ソーヤもイーデも、ドラゴンのあまりのいきおいに、大笑いしました。
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