カフェ・マボロシと虹色のグラス
季都英司
第1話:しゃべるグラスとカフェ・マボロシ
空をみあげたソーヤは、フクロウをみつけました。
フクロウは、夜飛ぶはずなのに、いまはまっぴるま。
不思議に思っていると、フクロウが、キラキラいろんな色に光るなにかをおとしました。
ソーヤは、走ってなんとかおいつくと、両手でうけとめました。
ゆっくり手をひらくと、それはコップでした。
形は少し細長くて、ラッパのように広がっています。
まわりには、赤や青や、緑と金色、たくさんの色で、もようがかいてありました。
「うわあ、きれいなコップだなあ」
ソーヤがおもわず、声をだしたときです。
「コップじゃなくて、グラスっていってくださる?」
そんな声がきこえました。
まわりにはだれもいません。ききまちがいかしらと思って、もういちどコップをみると、
「どこみてるの? わたしはここよ」
その声は、なんとコップからきこえています。
「わあ!」
ソーヤはびっくりしました。
「わたしはイーデっていうの」
「ボクはソーヤ。よくわかんないけど、イーデはしゃべれるコップなんだね」
「コップじゃなくてグ・ラ・ス! ……まあ、いいわ。ひろってくれてありがとう。われてしまうところだったわ」
「すごくきれいで、気になったから。まさかしゃべるコップ……じゃなくてグラスだとは、思わなかったけど」
「おれいに、ソーヤをわたしのカフェにおまねきするわ」
「え、カフェ?」
ソーヤはカフェが、おいしいものがでてくるところだと、しっていました。
「なにかごちそうするわ。いかがかしら?」
「いく! すっごく楽しそう」
ソーヤはとてもよろこびました。
「それじゃ、いきましょうか」
そういうとイーデは、光はじめました。
まぶしくてソーヤは、目をとじます。
次に目をあけると、そこに大きくてりっぱなとびらがありました。
とびらには『カフェ・マボロシ』とかかれています。
さっきまで、ぜったいにとびらなんてなかったのに。
「さあソーヤ、とびらをあけて」
「う、うん」
ソーヤは、おそるおそるとびらをつかみ、えいっとあけるのでした。
お店の中には、よこながのテーブルがひとつ、そしてその前に、いすがならんでいます。
「ここが、わたしのお店カフェ・マボロシよ。お客がしあわせになるドリンクをだすカフェなの」
イーデがいいました。
「イーデがつくるの?」
「つくるのは店長。わたしにそそいで飲んでもらうの。うつくしくて、最高においしいドリンクになるんだから」
イーデはじしんまんまんです。
「へえ、楽しみだなあ」
ソーヤはわくわくしてきました。
テーブルのむこうには大きなたながあって、たくさんのきれいなびんがならんでいます。どれもみたこともないものばかり。
「ちょっと、お店の中をみてもいい?」
ソーヤはきょうみしんしん。
「どうぞ」
「ありがと!」
ソーヤははずむように、テーブルのおくの、たなの前へ。
びんにはそれぞれ、名前がかいてあるようです。
上のたなには、
『りんご』『ぶどう』『レモン』とか
二番目のたなには、
『はちみつ』『バニラ』『チョコ』とか
そして、三番目のたなには、
『花のしずく』『月の光』『太陽の炎』
「え、これはなに?」
へんてこなびんをみつけたソーヤは、イーデにききました。
「ぜんぶドリンクのざいりょうよ。ここのお客は、おとぎばなしのじゅうにんだから、こういう不思議なざいりょうも、おいてあるの」
「わあ、すごいね」
「ここでしか飲めない、最高のドリンクなんだから」
「どんな味がするんだろう」
ごくりとのどがなりました。
「飲んでみてのお楽しみよ」
イーデは楽しげです。
そんなとき、カランとベルの音がしました。とびらのベルがなったようです。
「やってるかい?」
どうやらお客が、はいってきたようです。
そのすがたをみて、ソーヤはおどろきました。
オオカミだったからです。
二本足でたって、言葉も話しています。
ほんとにおとぎばなしだ、とソーヤは思いました。
オオカミは店にはいると、まんなかのいすにすわりました。
「おいしいドリンクをひとつ」
オオカミはソーヤをみていいました。
「え?」
「あんた店員だろ? ちゅうもんだよ」
どうやらオオカミは、ソーヤを店員とまちがえているようです。
「いや、ぼくは……」
ソーヤはちがうと言おうとしましたが、
「はやくしてくれよ。のどがカラカラなんだ」
オオカミはきいてくれません。
「どうしよう」
ソーヤは小声でイーデにいいました。
「しかたないから、なにかつくりましょう」
「ドリンクなんてつくれないよ!」
「わたしがおしえるから。お客をほっておくなんてできないわ」
「うーん、じゃあ、がんばってみる」
「ありがとう!」
ソーヤはイーデにたのまれて、ドリンクをつくることになってしまいました。
「えと、なにがいいですか」
こわいですが、ゆうきをだしてききます。
「なんでもいいって」
ソーヤはこまりました。ヒントがないとなにもわかりません。
「のどがかわいてるなら、リンゴジュースはどうかしら」
「うん、わかった」
ソーヤはイーデのいうとおりに、リンゴジュースのびんをとり、イーデにそそぎます。
グラスにそそがれたリンゴジュースは、とてもきれいですてきで、まるで宝石のよう。
これならよろこんでもらえるかもと、ソーヤはどきどきしながら、オオカミにグラスをだしました。
でもオオカミは、ひとくち飲むとグラスをおいてしまいました。
「オレが飲みたいのはこれじゃないな。すこしものたりないよ。なにかちがうものがいい」
ほかのものといわれても、オオカミがなにをよろこぶかなんて、まったくわかりません。
「どうしよう」
「うーん、店長はお客にあわせて、いろいろまぜてたけど……。オオカミがよろこびそうなものってなにかしら」
イーデもこまっています。
オオカミのきげんをそこねたら、たべられてしまいやしないか。不安でしかたありません。
いそいで、つかえるものをさがします。
「そうだ!」
ソーヤは『月の光』とかかれたびんをとりだしました。
オオカミは月の夜にほえると、本で読んだのを思い出したのです。
「それをつかうの?」
イーデは不安げ。
ソーヤは『月の光』のびんをあけます。銀色の光があふれました。
ソーヤは、リンゴジュースではなく、ぶどうジュースのなかに『月の光』をいれました。ぶどうの紫の中に銀色がまざって、イーデの中は、まるで夜空のよう。
オオカミもグラスをじっとみつめています。
「……えっと、どうぞ」
ソーヤがドリンクをだすと、オオカミはグラスをつかみ、ぐっと飲みました。
ソーヤもイーデもドキドキです。
「うまい! これは、オレが大好きな、月の夜の味だ」
オオカミは、とおぼえをひとつしました。お店の中に、オオカミの声がひびきました。
オオカミはあっというまに、ドリンクを飲みほしました。
さいごにオオカミは、
「最高の味だったぜ」
といって、笑顔でかえっていきました。
「なんとかなったみたいね」
イーデはほっとしています。
ソーヤは、オオカミのことばで、とてもうれしくなりました。
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