第9章 ボイドの話

 昼飯は、現実世界とそこまで変わらなかった。だが、それが一番美味しかった。午後になり、今度はサベルトによる作戦の講習が始まった。


「闇騎士は、全部で200いる。そしてそれぞれが、ナイフとホールを持っている。この大前提を忘れるな。いいか?」


「はい。」


「よし、まずはボイドの地形と環境についてだ。現実世界と比べて、かなり特異な地形をしている。それについて知ることだな。まずボイドは、球じゃないんだ。」


「はい?それって地球のように丸くないということですか?」


「そう。地図を描いたところ、上と下も繋がっていたんだ。」


「あ!」


俺はピンときた。どこかで同じような話を聞いたからだ。はっきりとは覚えていないが。


「わかったか?ボイドはドーナツ型になっていると考えられる。最も、確認することはできないがな。」


「次に地形についてだ。まあ色々あるが、この地図を見てくれ。」


この地図に総会議場は記されていなかった。


「総会議場は…」


「描かれていないよ。隠しているのさ。そもそも、この総会議場を囲んでいる死ノ森は、ボイドの中で2番目に危険な場所だ。一番危険な場所だと逆に目をつけられる可能性がある。また、闇騎士自体がそこを越えられるかがわからない。だからあえて2番目を選んだ。要するに、一番敵が敬遠しそうな場所を選んだんだよ。拠点選びの時は実践してみてくれ。といっても活用できるタイミングはわずかだがな。」


「わかりました。」


「次に、ボイドの地形だ。バイオームと呼ばれる各場所の名前で区別している。平穏なる丘から行こう、あそこは…」


俺はサベルト総長が、熱弁しているところを見て、サベルト総長のボイドへの愛が伝わってきた。


「そして、一つ一つのバイオームには、クリーチストというクリーチャーの中でも強い奴がいる。その場所の主って言われているんだ。死ノ森だったら死ノ森の主って感じ。」


「死ノ森で出会ったでけぇやつがまさにそうだったな。あれはクリーチストの一種だ。」


ケトラーは口を挟んだ。俺は一気に理解が深まった。


「主って一匹だけなんですか?」 


「いや、主も生き物だから、家族を作って子を持って、毎日を生きている。だから、危険だからといって無差別に殺してはいけない。」


「クリーチストっていうのは全て強いんですか?」 


「ああ。強いからクリーチストなんだ。ただ、全てが敵対的なわけじゃない。落ち着いた場所や、クリーチャーの数が少ないような場所は、その場所の主が比較的温厚な場合が多い。勿論敵対的なやつもいるがな。そして、主以外にもクリーチストはいるんだ。例えばいろいろなところを飛び回るドラゴンとか。奴等は強い。明確な定義はないが、しっかりと定められたクリーチストリストもあるぞ。」


「面白そう。」


「今度見てみると良い。」


「そして、ボイドの一番の難点について話そう。それは、現実世界との行き来に時間がかかることだ。」


「昔の闇騎士団はもっと遅かったんだぞ。」


「そうなのか?ケトラー」


「ああ。奴等は移動に2分の時間をかけた。元々捕まった闇騎士団のひとりが、ボイドに逃げたことで、判明した。そこに生まれたタイムラグをなくすためにその後研究が行われた結果、闇騎士がコンピュータの中の、モールス信号の音声データを発見した。そこには数字が表されていた。その数字を『アケステトラー・フラニスタリス』のページに当てて、あの言葉が見つかったんだ。」


感心していたサベルト総長は言った。


「歴史は知っていると面白いが、マニアック過ぎると役に立たないぞ。話を戻そう。昔よりは早くなったらしいが、それでもタイムロスが生まれる。その時間をどう削る、またどう活かすかが問題だ。すまないが俺はいいアイデアが思いつかない。君の頭を動かすところだぞ。」


俺は黙った。そうして時間が10分ほど経過した。サベルト総長は言った。


「そう短い時間ではわからんだろう。また考えればいい。ここまで、俺がグダグダとボイドのことを喋ってしまったが理解できたか?」


「はい。本当に分かりやすかったです。」


「どのくらい?」


サベルト総長はケトラーの方を向いてニヤけながら言った。俺は流れに乗って答えた。


「ケトラーの2倍くらい。」


「サベルト、あまり調子に乗るな。そして快斗。とりあえず黙れ。」


俺はサベルトとケトラーがじゃれ合っているのが面白くて仕方なかった。

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