第8章 鍛錬

 夜が明けた。それでもなおボイドは薄暗さを保っていた。朝、ケトラーがいないことを知り散歩がてらテントから離れると、練習場には、ケトラーとサベルト総長がいた。


「ようやく起きたか快斗。これからお前を鍛えてやる。闇騎士の基本の動き方だ。今日は頑張ってくれ。」


サベルト総長は元気よく言った。


「まずはナイフの使い方についてだ。お前、ナイフは持ってるか?」


俺はポケットの中からケトラーから貰ったナイフを取り出した。


「よし、ナイフについて一番の実力を持つやつに協力を得た。しかしやつは…」


俺は唾を呑んだ。その時後ろから知らない声がした。


「すまない。どうもここでは睡眠が足りないようだ。」


「遅れるなよ。快斗、こいつが闇騎士で一番ナイフの扱いが上手い男、テルストだ。」


「よろしくお願いします。」


すると、テルストはゆっくり歩いて近づいてきたが、その顔に笑顔はなかった。手が届く位置まで近づいてきたその時だった。


テルストはナイフで静かに、俺の耳の数センチ横にある空気を切り裂いた。次の瞬間俺の耳を爆音が劈いた。俺は恐怖に取り憑かれた。その時テルストは静かな大きい声で呟いた。


「よろしく。」


テルストの顔には笑顔が戻っていた。


「ナイフを使う争いはスピードが求められる。そして、斬りかかる直前まで敵意を見せないのが技術の一つだ。ナイフが付いている右腰からナイフを取り出せ。そして前に突くのだ。まずは100回。」


「100?!」


「ふん、テルストもなかなかスパルタだな。いつからそうなった。」


「知らん。ケトラー、その話は夜にでもしようや。さあ、快斗、頑張ってくれ。」


俺は心の中で多いと文句を言っていたが、それでもいつか来る戦いのための練習と思い、頑張った。


時々、もっと早く、だとか、もっと強く、とか、いろいろな言葉が飛んできたが、なんとか百回を終えた。テルストは言った。


「だいぶ形になってきたな。100回でこれができるとは大したもんだ。」


「さて、ナイフの持ち手の端には穴が空いている。その穴にはベアリングが搭載されているため、ナイフを回転させることができる。素早く回転させて、持ち手をつかんで回転を止めろ。100回!」


「はい。」


このスパルタメニューにもだんだんと慣れてきた。俺は頑張ってコツをつかみながら100回をやり遂げた。


「よし、ナイフはいいところだろう。実際これ以上教えることもないしな。ナイフを回したり止めたりして、切り裂いたり突いたりして、戦うんだ。素早い動きを身につけると、さらに強くなるぞ。最後に俺と戦ってみろ。これでどこまで習得できているか見てやる。」


「お願いします。」


俺は言われた通りにゆっくりと近づき、もう少しというところでナイフを取り出しながら距離を詰め、回転をかけた。


しかし、テルストはナイフを出したかと思うと、俺の髪の毛を一本切り裂いた。手も足も出なかった。俺が落ち込んでいると、テルストは言った。


「うん、基本はよくできているじゃないか。今日俺が出る幕はこれで終了だな。」


「次はホール投げだ。教えるのはこの俺、サベルトだ!」


サベルト総長が威勢良く言うと、ケトラーは呆れた顔をした。


「とは言え、ケトラーが要所要所で教えている。俺が話すことはこれっぽっちしかないがな。人間をこいつで一発で仕留めるやり方を教える。まずは小さな穴に針を強く刺す正確さだ。あの的を狙ってみろ。」


サベルト総長は、奥の的を指差した。距離は少し離れていて、的は直径3センチといったところか。とりあえずケトラーに言われたとおりに投げてみた。


ホールは的の少し左を通っていった。


「投げ方の基本はできている。ただ、目が悪い。あの的は何センチだ。何メートル離れている。」


「的は直径3センチ、距離は16メートルですか?」


「いや、18メートルだ。距離は目でわかるようにしろ。さあ、もう一回やってみろ。」


俺は、合わせて投げた。今度はしっかりと、中心を射抜けた。


「やはり距離がわかれば行けるのだな。よし、人間の体について教えよう。内部はあのようになっている。」


そう言うとサベルト総長は、大きな人体模型のパネルを指差した。心臓の周りには、肋骨が張り巡らされていて、心臓が正面に出ている部分は極僅かだった。


「肋骨は硬くて通らない。心臓を撃ち抜くためには、あの肋骨をかいくぐらなければならない。いいか、あいつをこれから動かす。心臓を10回連続で射抜け。」


「はい!」


動きは速く、滑らかだった。いろいろなデータを元に作った機械らしいが、これも元闇騎士団が作ったものだという。元闇騎士団がどれだけの力を持っていたのか知らないが、機械は現実世界の現代をも凌ぐ凄さだ。

そんな事考えていても仕方がない。俺はホールを持つ指先に全神経を集中させて、一気に力を解放させた。ホールは心臓をきれいに貫いた。


「わかったぞ!」


俺は、言葉では説明ができないが、感覚が全てを理解した。サベルト総長も首を縦に振っていた。


集中していると、連続10回は、あっという間に過ぎていった。


「よし、そろそろ昼だな、終了だ、よく頑張った。次は、闇騎士の動かし方や作戦について話をする。お疲れ様!」


「はい、ありがとうございます。」


俺の腕は、パンッパンだった。


「きょうの昼めしはなんだい?サベルト」


「今日は、ビーフシチューにでもするか?」


「いい趣味してるじゃないか。」


俺は疑問が浮かんだ。


「ボイドでも、食べ物は同じなんですか?」


「新しいものを作るのは正直面倒だ。また、作るのだとしたらある程度複雑になる。その為難しいのだ。結局。現実世界と同じ形を適用している。」


「クリーチャーは?」


「あれは食べられない。あくまで元の闇騎士団の兵器がいまだに残っているだけだ。」


理にかなっているが、この世界特有のものがないのは少し寂しい気もした。

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