第2話
やばいヤバイYABAI
思いっきりしらけてんじゃねーか! やべーよこいつって視線がガンガン俺に突き刺さる。やめて! 最愛の妹にまでそんな目でみられたら壊れちゃう。
朝比奈さんは隣で顔を背けて笑い堪えてるし! 誰か助けてくれ!
しょうがないじゃん! 俺がパッと思いついた別の人格が中二病のころに考えた人格なんだから!
そんなことを考えていると、一人の女子生徒が手を挙げていた。
「そこの少女よ。発言を許可する」
何言ってんだ俺!
いや、でも今更普通に戻れないんだが⁉
「私は『配信部』の加賀美恋歌と言います! ブラック先生に質問いいですか?」
「うむ」
頼む! まともな質問してくれ! どうにかここから軌道修正できるような質問を!
「先生のご出身は闇と仰いましたが、具体的な地名はどこですか?」
そう質問する加賀美の目はどこからおもちゃを見つけた子供の様にキラキラしていた。
「……ニブルヘイムだ」
「なるほど! では、龍と仰っていましたが、龍なんですか人なんですか?」
やめて……。
「我輩は前世が偉大なる龍だ。あまりの強さに退屈してこの世へと転生し人になったがな」
「ふむふむ。ちなみに顔を隠しているのは?」
お願いだから止まって……。
「我輩の目はすべてを魅了する魔眼だ。それの拘束具だな」
「ほぉ~。なるほどなるほど。ちなみに必殺技とかって?」
頼む……。
「ヴォイドフィスト……全てを虚無に返す我が必殺の一撃だ」
「おぉ! カッコイイですね! ちなみにブラック先生を記事にしたいのでカッコイイポーズお願いしても良いですか?」
誰か止めてくれ……。
「うむ。我輩の威厳が伝わるよう頼むぞ」
この俺の黒歴史を……。
自己紹介を終えた後、職員室に戻るのではなく個人的に用意された部屋へと戻っていた。
「ぁぁぁあああああ!」
思わず叫びたくなる衝動に駆られる。
恥ずかしすぎる! なんだよブラック・トワイライトルシフェル・ドラグニルって!
ルシフェルとかドラグニルとかいろいろ要素詰め込みすぎだろ!
「いいじゃないですか。ブラック・トワイライトルシフェル・ドラグニル先生」
「笑いながら言うのやめてもらっていいですか?」
朝比奈さんの声の端々に笑っているのが見て取れた。
「あんな強烈なキャラクターなら妹さんにもお兄さんだと気づかれませんよ」
「それはまぁ……確かに」
余りに喪った物が多いような気もするが……。
「それにもう掲示板でも話題になってるらしいですよ?」
朝比奈さんは、スマホの画面をこちらに見せてくる。
そこには仮面を被りポーズを決めた俺と、それに対するコメントが書き込まれている。
スクロールすると気になるコメントを見つける。
「ブラック労働に堕ちた暗〇卿とか言われてるんだけど?」
朝比奈さんはブフっと噴き出す。
なんだよブラック労働に堕ちた暗〇卿って……。
「い、いいじゃないですか。お似合いですよ暗〇卿」
「嫌だが⁉ なんだよ、そのうち妹に『俺がお前の兄だ』って展開になりそうじゃん!」
朝比奈さんは顔を隠して悶絶を始める。
「笑わせにくるのやめてもらっても良いですか?」
俺だって、こんな中二病キャラにしたくなかったよ……。
思わずため息が出る。
「誰だよ焦ってこんなキャラ設定にしたのは……」
そうぼやくと、朝比奈さんは思い出したかのように胸ポケットから何かを取り出す。
俺の目の間に置かれたそれは手鏡だった。
「いや、俺だってことは知ってんだ!」
「あら。ご存知でしたか」
はぁ……。マジで過去の俺をぶん殴りたい。
「ヴォイドフィストで?」
おい俺の傷を抉るんじゃあない。ってか心の声にツッコミを入れるな。
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