第1話

「なぁ。朝比奈さんこれはなんなんだ?」


 俺は目の前に置かれているモノを指さす。


「おや? これにご興味が? 中々お目が高い。これは我が国の最先端技術を取り入れたフルフェイス型の仮面で――」

「いや、コレのことを知りたいんじゃなくて、なぜここにあるのかってことを聞きたいんだ」


 俺が指摘すると、朝比奈さんはつまらなさそうな顔をして溜息を一つ。


「はぁ……黒鉄さんが被るからに決まってるじゃないですか」


 朝比奈さんは腕を組み、どこか見下すような目線で説明を始める。


「第一。妹さんの前で素顔で出ていくつもりですか?」

「うっ……それはちょっと」


 最愛の妹にはついてこないでよねと言われているし、俺が攻略者であることは政府の秘密だ。もちろん妹にも秘密にしている。心配かけたくないしね。

 ということで正体がバレるのは非常にまずい。


「今更なんだが、用務員とかじゃダメなのか……?」

「あー……。それに関してなんですが、上からは絶対に教師にしろと」

「なんで⁉」


 教師なんて目立つだろうし、秘密にしたいのに矛盾してそうだが。


「攻略者学校の義務化に伴って教師の数が足りないんです。それも実戦経験豊富な教師が」

「あー……」


 ってか国が準備もできていないのに見切り発車したせいじゃねーか!


「上の者が、ごめんね☆この国の為にも正体を隠して彼らを鍛えてあげて。とのことです」


 俺の無茶ぶりから始まったこの話だけど、一発ぶん殴りたくなってきたな?


「でも実技とかはともかく、知識とかは無理だぞ?」


 俺は何とか、別の方法にできないかと粘るが、朝比奈さんはどこから眼鏡を取り出しスチャリとかける。


「ご安心を。知識は副担任である私が受け持ちます。これからよろしくお願いしますね黒鉄先生」


 どうやら逃げ道はないらしいです。




 結局俺は諦めて、仮面を被って廊下を歩く。

 幸いなことに生徒たちはみな教室に集合しているようで、人通りのない静かな廊下を歩く。

 仮面というから閉塞感あるのかと思ったけど、呼吸もしやすいし視界も開けている。なんなら視界の端には心拍数とか各種データが表示されている。結構便利だなコレ。

 見た目が不審者になるという欠点を除いては。


「私はもう生徒たちと顔合わせているので、黒鉄先生……いや、名前がそのままだとマズイですかね? まぁアドリブで行きましょう」

「え⁉ ちょっ……」


 いつの間にか、教室についていたようで朝比奈さんはドアを開き入っていく。

 俺も、置いて行かれないように後を追う。

 教壇に登り改めて教室を見渡す。

 みんな怪訝な表情で俺のことを見つめる。そんな視線の中にたった一人を見つける。


 最愛の妹だ。


 制服姿の妹も素晴らしいな……。もし仮面がなかったら表情が崩れていたかもしれない。そう言った面では感謝できる。


「諸事情で遅れていましたが、改めて皆さんに紹介します。先生お願いします」


 どうしよう。妹に見惚れていて何も考えていなかった!

 適当にブラックとか名乗るか?

 そう思って口を開こうとした瞬間、妹と目が合い俺の頭に一つの考えがよぎる。


 果たして、ブラックと名乗ったところで妹を誤魔化せるだろうか?

 逆に最愛の妹が顔を隠して、配信とかしていたら俺は気づけないのだろうか?

 否。話し方や声、性格で間違いなく分かる。

 ならば、俺のすべきことは別の人格を演じるしかない!


「我輩は暗黒より来たりし龍。名はブラック・トワイライトルシフェル・ドラグニル。ブラック先生と呼ぶが良い」


 な――なにやってんだ俺ぇぇぇぇぇぇぇええええええええええエエエエ‼

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