50 蘇生

 死にたいと思っていた。

 

 だけど、こんなに痛くて苦しくて…。

 苦痛に悶えながら死ぬのは嫌だ。

 

 嫌だよぉ。

 痛いよぉぉ。

 苦しいよぉぉぉ。

 

 でも、もう起き上がれなかった。


 どれくらいの時間が経ったんだろう…。

 携帯の充電が切れて日時が分からない。

 充電する気力もない。

 

 死にたくて、飛び降りようとした事もあったけど出来なかった。

 手首を切った時も、どうしても浅くしか切れず死に切れなかった。

 

 だけど今、私は死のうとしている。

 

 死ぬために何かをする必要なんてなかったのだ。

 

 何もしないでいれば、いつか人は死ぬ。

 



 サヨは苦しみから逃れ、無の世界に今度こそ本当に旅立ちます。



 皆様さようなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …お母さんのご飯が食べたい…。

 

 

 

 後一歩で死ねる。

 嫌でも死んでしまうであろう、その一歩手前で、ふと芽生えた思いに戸惑った。

 

 私は母が苦手だ。

 母の言動には違和感を感じる事が多々あるし、極力会いたくなかった。


 でも、おそらく2週間ほど全く何も食べていない、究極の空腹時に心身が求めたのは母の手料理だった。

 

 不本意だが、衝動は押さえられなかった。

 

 母に電話するため携帯を充電しようとコードに手をのばすが届かない。

 

 立ち上がろうとするが熱のせいか、それともずっと何も食べていなかったせいか、体に力が入らなかった。

 

 ベットから転がり落ち、床を這いつくばって携帯をコードにつなぎ、なんとか母に電話をした。


「おかあさぁーん!」

 酷くかすれた声だった。喉が焼けるように痛くて、息をするのも辛い。それでもなんとか続けて声を絞り出す。

「お母さんのご飯が、食べたいよぉ…。

 そっち帰ってもいいかな?」

 思わず号泣していた。

 

 今すぐ、そっちに行く。と言う母の有難い申し出は断ったが、貯金は底をついており、引っ越し費用はおろか、当面の生活費もなかったので、送金してもらうことになった。

 

 何が旅人だ。

 結局親に頼るしかない、家出少女のままの自分が情けなかった。

 

 それでも私は生きる事を選んだのだ。


 まずは病院に行こう。

 確か徒歩10分ほどの場所に内科があったはずだ、なんとか立ち上がり、財布を掴んで、歩き出したが、玄関で倒れ気を失ったー。



 

 こんな風に1人でひっそりと倒れるのは3度目だ。

 1度目は10歳のとき。

 インフルエンザの高熱で自室で倒れた。

 おそらく1、2時間後…。

 自力で目覚めベットに這い上がった。

 

 2度目は16歳のとき。

 酷い頭痛の為、鎮痛剤を大量に流し込んだ後、これまたやっぱり自室で倒れた。

 その時はおそらく半日程経って…。

 自力で目覚めベットに這い上がった。


 父と兄も家で倒れた事がある。

 どちらも家族の目の前で倒れたので、救急車を呼んだ。2人とも大したことはなかったはずだ。もう詳しい原因も覚えていない。

 

 でも、この人達は人前で倒れられるのだ。と愕然としたのは覚えている。

 

 本当は人前でバタンと倒れ、皆に心配され、介抱されたい。

 でも…どうしても出来ない。

 物心ついた時からそうだった。

 どんなにしんどくても、

「大丈夫…」

 と笑って、1人になった瞬間倒れた。


 今回もそうだ。

 後少し頑張って玄関の外に出ていれば、誰かが助けてくれたかもしれない…。

 薄れ行く意識の中で冷たいドアに手を当てた。





 でも、いつもそうだったじゃないか。

 1人で倒れて…。

 

 そして1人で立ち上がってきた。

 

 今回も大丈夫。

 

 私は、1、2時間ほどで目覚め、立ち上がり、傘を杖代わりに歩き、病院に向かった。

 

 たった1本点滴を打って貰うと、驚くほど回復した。

 

 1週間ほどで体調はすっかり戻り、引っ越しの手配も全て済ませると、逃げるように実家に帰った。

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性と死の狭間で生きる~元家出少女Sの告白~ 元家出少女S @moto_iedesyoujyoS

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