49 生と死の狭間

 19歳、夏。

 from北海道。

 

 ホストの彼氏と同棲中の同僚、ユウリちゃんと仲良くなり、待機中に色んな話をした。

 でも店の外で会うことはなかった。

 

 本屋店主のバツイチ子持ちの客、ショウタさんと、その友人達に誘われ海に行った。

 澄んだ綺麗な海、気の良い人達。

 最高の筈のその場を心から楽しめない自分に違和感を感じた。

 

 会社員で絵に描いた様に素敵で誠実なタカギさんと、シャンパンバーに行った。

 非の打ち所のない彼に、惹かれるどころか、何故かスッと冷めていく自分が分からなかった。


「何でサヨチンは、幸せから逃げるの?

 何でわざわざ自分から不幸に突き進むの?」

 

 酔っぱらってヘラヘラ笑っていたエリが、ふと真面目な顔をして言った言葉を思い出す。

 

 そういえば、母にも同じような事を言われた事がある。

「どうしてサヨは、現状に満足出来ないの?充分、幸せでしょ?恵まれてるでしょ?何で全てをぶち壊そうとするの?」

 と嘆かれた。

 

 そうだ。

 小6の担任だったフジムラ先生もため息混じりに、

「どうしたら、この子は満たされるんやろうな…」

 と呟いていた。

 友達も多いし、成績も生活態度も悪くないであろう、ごく普通の生徒である私にどうしてそんな事を呟やくのか…。

 

 でも…ギクリとしたのを覚えている。

 上手く隠していたつもりなのに、どうしてこの人は見抜いてしまったんだろうと…。

 

 私は幸せから逃げているの?

 自ら不幸に突き進んでいるの?

 どうして現状に満足出来ないの?

 どうしたら満たされるの?


 どうしたら幸せになれるの?

 

 私には無理なの?

 何処かがおかしいから?

 バカだから?

 愚かだから?

 たくさん人を傷付けてきたから?

 そういう運命だから?

 

 しかたない…。


 何かがぷつんと切れたようだった。

 

 秋になり、私は仕事を辞め、1人暮らしのマンションに引きこもった。

 

 結局、北海道まで来ても同じ事の繰り返しだった。


 寝ても冷めても酒を呑んだ。

 デリヘルで必要最低限の生活費を稼いだ。

 ビデオをたくさんレンタルして観た。

 

 毎日1人で泣いて、自分で自分を抱きしめた。

 

 いつしか酒も呑まなくなり、何も食べなくなった。

 デリヘルにもどこにも行かなくなり、ビデオも何も観なくなった。

 

 1人でベッドにうずくまり続けた。

 

 何日ほど立っただろうか…。

 

 身体はだるく、熱があるようだった。

 喉が痛く、唾を飲み込むのにも激痛が走る。


 助けてくれる人はもちろん居ない。

 自力で立ち上がる気力もなかった。


 このまま死ぬかも知れない思った。


 死ねば良い。

 

 これでようやく楽になれる…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る