都内のとある教会にて
@SBTmoya
第1話
結局雪が一度も降らなかった冬が明けようとしている。
都内某所のカトリック教会の4月。今日はイースター。復活祭だ。
この教会もちょっとした料理を出し、ささやかな春の訪れを町内の皆様と過ごしていた。
教会の門は、何も信者だけのものではない。全ての人間に教会の扉は開かれている。
この教会で30年、主任司祭を務めているガブリエル篠田は、何よりもこの日が好きだった。
篠田は、ミサでも初めて訪れる人を見かけると必ず声をかける。そして10分、話を聞くのがライフワークだった。
この日訪れた方も、変わり者がいた……。
この青年は料理には手をつけず、あたりをキョロキョロとしている。
「何か、お探しですかな?」
篠田は青年に声をかけた。
「はあ……あのー……」
「お悩み事ですかな?よろしければ話してみてください」
「お悩み事……そうですね……」
「悩みを持つということは、決して恥ずかしいことではありません。辛い時は人間、上り坂に立ち向かっている証拠ですので」
「……じゃあ、いいですか?」
「どうぞ。私でよければ」
篠田は柔和な笑顔で青年を受け入れた。
青年はまだあたりを気にしている。
「薄々、間違えてるな……とは感じているんです……」
「ほほう。間違え、ですかな?それも良きことです。間違えと言ってもそれを決めるのはあくまで人間の事。
間違っていると表面では感じていても、裏面では必ずしも『間違い』ではないのです」
「はぁ……ところでその……ここって猫カフェですよね?」
「間違えてますね」
「え! 間違えてますか!?」
「なぜ、ここを猫カフェだと思ったのです?」
「だって、駅から見えるくらい大きい看板がありましたよ!?」
「ありません」
「なんだ違うのかよ……紛らわしいなあもう……あの、僕みたいな人、この中に結構いると思うんで、変えた方がいいですよ?」
「そのような方はいらしたことがございません。それなら貴方は入り口の十字架をなんだと思ってここを『猫カフェ』だと?」
「え……キャットタワーかなって」
「そんなシンメトリーなキャットタワーはございません」
「じゃあなんですか! 猫を探しにここにきた僕は、羊だったってことですか!」
「少なくとも迷える子羊ではあるようです」
「あんな看板大きく掲げて……じゃあここは何屋なんですか!」
「何屋、というものではございません。神と対話をする場所です」
「……結婚相談所ってことですか?」
「どうしてそうなるのですか」
「とにかく紛らわしいですよ!…… ……『猫中毒』なんて店名は」
「……まさか貴方、『Catholic』を、『Cat Holic』だと思って来たのですか?」
「間違えてますか!?」
「間違えてますね。あとここはお店じゃありません」
「……触らせてくれる猫ちゃんは?」
「いません」
「……じゃあ神父さん触っていいですか?」
「困ります。さて! もう10分経ったかな! よろしかったらお茶を召し上がっていってください。それでは」
青年は渋々、お茶を飲んで帰っていった。
すると会場中の人間が篠田の元に集まってきた。
「司祭さん! 今の方帰しちゃってよかったんですか!?」
「みたところ彼はまだ『にわか』ですな。十字架をキャットタワーだなんて、物を知らなさすぎる。あれは2匹の猫ちゃんの重なったしっぽです!
さて、皆様準備はよろしいか?
今日のターゲットは2丁目の『ゴンベちゃん』です。それはそれはもう太っちょな三毛猫ですよ」
「今日は触らせてもらえますかね!私、前のミサから触ってなくて、発作が……」
「『猫中毒教』の導きを信じなさい こちらが心をひらけば、猫もまた、その扉を開いてくださるでしょう」
都内のとある教会にて @SBTmoya
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