第1怪:狐に包まれる!?

2020.4.17.PM17:00



「……嫌だ…嫌だ…!死にたくない…!」



2020.4.17.AM6:30


妖火「…ふぁ〜…よく寝た…」


風も気持ちいい春の頃、少年、夢爽妖火は目を覚ます。新しい1日の始まりである。

いつものように起きて、着替えて、下へ降りて、兄妹弟達に挨拶をする。


妖火「戦にぃ、桜良、おはよ〜、」

戦「お、妖火起きてきたか。おはよ、」

桜良「おっはよ妖にぃ!」

妖火「桜良は、元気いっぱいだな〜、」

戦「…そうだな。…ほら、飯出来てるから二人共食べときな、」

妖火・桜良「は〜い!」


妖火と桜良、二人揃って元気いっぱいに返事をして机につく。その間に戦は、三男と末っ子二人を起こしに席を離す。


妖火「いただきま〜す、」

桜良「美味しそうだな〜!」


二人揃っていただきますをして、綺麗にトーストにかぶりつく。少し静かになるが、それを壊して会話を始めたのは、妖火だった。


妖火「…桜良、中学は楽しいか?」


桜良は中学一年生になったばかり。そんな彼女を心配しての質問に、桜良はちゃんと食パンを飲み込んでから答える。


桜良「ん?うん!すっごく楽しい!」

妖火「…そっか…よかった〜…」

桜良「も〜、相変わらず妖にぃは心配性だな〜。ウチは大丈夫なの!!」


突然の兄の、少し可愛い心配に思わず笑ってしまう桜良。それを見て妖火は少し嬉しそう。…こんな感じで、ずっと普通の日常が続きますようにと、妖火は心の中で願った。


桜良「でもなぁ…たまには、なんか刺激のあることしたいな〜。それか起きてほしい!」

妖火「おいおい…口は災いのもとだぞ〜…」


桜良の自分の心とは真逆の願いには、最初は困惑してしまったが、その突拍子の無さに思わず笑ってしまう。

30分ほど経って、戦が戻ってきた。


桜良「あれ、戦にぃ戻ってきた。」

戦「アイツラ起きねぇから一旦諦めた。」

妖火「えぇ…。」

戦「あと妖火、本田、来てんぞ、」

妖火「あれ!?もうそんな時間!?」

戦「そんな時間だぞ〜、」


本田というのは、妖火の友達。3年間ずっとクラスが一緒で、仲が良い。


妖火「まじかよ行ってきます!桜良後でな!!」

桜良「あ、行ってらっしゃ〜い」

戦「気をつけろよ〜、」




妖火が玄関から外に出ると、茶髪のツインテールの女子中学生が立っていた。彼女が本田真凜〈ホンダまり〉である。


妖火「本田さんおはよ!!」

本田「あ!妖火君やっときた!」

妖火「ごめんね…談笑し過ぎた…。」

本田「全く!遅刻しちゃうよ!?」

妖火「わぁぁごめんんん…」


本田は普段はしっかり者で元気ハツラツな子。いつものんびりしている妖火の飼い主的な面も持ち合わせている。

学校でも仲良しで、友達の少ない妖火にとって心の支えとなっている。


本田「もう!急ぐよ〜!」

妖火「あ!待って〜!」


こんな感じで、いつも二人でイチャつきながら登校している。旗から見るとカップル。



2020.4.17.AM7:30


妖火「よし!学校到着〜!」

本田「間に合ってよかった〜。」


学校に着くと、二人でハイタッチをする。いつも無意識のうちにやっているらしい。そしてそんな2人を見てクラスメイトの男子が冷やかす。


クラスメイト「や〜い未来の夫婦〜!」

妖火「うわ出た…」


他人との会話が基本苦手な妖火にとっては地獄である。わかりやすく嫌そうな表情を浮かべる隣で、本田はキッパリ言う。


本田「いや、ペットが良いことしたらみんな褒めるでしょ?それと同じだよ?」

妖火「え?」


顔的にマジの言い方である。


クラスメイト「人間扱いすらしてないのかよ…。」


言い出したクラスメイトも流石に困ってしまった。思わず、固まっている妖火に同情の肩ポンをしてましうクラスメイトであった。


2020.4.17.PM16:00


学校が終わり、妖火と本田は帰っていく。


本田「あぁ〜!今日も疲れた〜!!」

妖火「だね〜…。…まだ火曜日か〜…。」

本田「まぁまぁ!気楽に行こうよ!」

妖火「出た、本田さんの口癖、」


妖火はクスッと少し笑う。こんなふうにいつも、何の変哲もない話をしながら、2人は足踏みを揃えて帰っていく。だが今日は少し会話の内容が変わっていた。


本田「…気になるね、噂。」

妖火「あ、やっぱり本田さんもそれ気になる?(…まぁ俺はお化け嫌いだからホントはあんまり関わりたくないんだけど…)」


噂、というのは最近クラスで話題になっている話。なんでも、近頃この街のどこかで謎の化け物が現れるとかなんとか…。お化けの類が怖い妖火は早く収まってほしいと思っている一方、本田は寧ろワクワクしているらしい。元気ハツラツというかなんというか…。


妖火「まぁでも、噂程度だから気にしすぎるのもねぇ…」

本田「えぇ〜、そういうもんかなぁ、」


怖いから内容を無理やり変えようとしているだけである。少し納得行かない本田であった。


妖火「…ん?」

本田「…?妖火君?どうかした?」


妖火には、何か聞こえたようだ。ドロドロの液体が這い回るような音が聞こえたのだ。そして、人の悲鳴も一緒に聞こえてきた。平和主義の妖火は、無意識に動いていた。


妖火「…ごめん!本田さん!ちょっと学校に忘れ物した!」

本田「…?あんなに確認してたのに?」

妖火「うん!だからごめん!先に帰ってて!!」


妖火は駆け出した。


本田「えぇ!?あちょっと!」


嘘である。絶対に巻き込みたくなかった。

一瞬にして妖火はいなくなる。

まだ何が起きているかはわかっていない。だが、普段聴くことはない音と人の悲鳴。明らかに何か尋常じゃない事が起きている。


本田「…行っちゃった…。」




妖火「…音が聴こえたのはこの辺…。一体どこか…ら…!?」


人のいなさそうな路地裏に着いて、周りを見回すと、妖火の目には恐ろしいモノが映り込んできた。壁や床にある血痕、そして地面に転がる、もげた人の体。あまりの惨状に、妖火は口を手で抑える。目を背ける。


妖火「…誰が…こんなこと…。」


恐怖する妖火の後ろに、答を示すように謎の生物が現れた。ドスン、ドスン、と足音を立ててコチラにやってくる生物は、体中がドス黒い液体のような姿をしており、目を爛々と赤色に光らせ、童話の『鬼』のような姿をしていた。


妖火「!?…だ、誰だ…!…なんでこんな事をした!!」


妖火の問に、化け物は小さく呻くだけ。どうやら言語能力は手に入れてないようだ…。


妖火「…コイツがきっと…噂の正体だな…」


ゴクリとツバを飲む。こんな生物…いや、化け物は見たことがない。それに、周りの余りにも酷い絵面。妖火は内心恐怖していた。


妖火「…お…お前なん…ガッ…!」


何かを言おうとした矢先、化け物は妖火に殴りかかった。人そのものよりも2倍以上巨大な拳で。当然普通の子に耐えられるわけがない。妖火は激しく近くの壁にぶち当たる。

ぶつかった音が強く響く。


妖火「…ッ…。…はぁ…!?…痛い…!…死んでた…今のを背後から喰らってたら…!」


次の瞬間、妖火は動けなくなる。ぶつかった痛みもあるだろうが、それ以前に、生きてて初めて直面した死の恐怖に対して怖くなった。だが、そんなことはお構いなしに化け物はもう一度拳を振るう。避けられるわけがない。


妖火「アガッ!?…ガッ…あ…!!」


再び近くの壁に激突する。今度は血も吐き出す。身体中が痛む。怖い。痛い。辛い。


妖火「…マズイ…!…死ぬ…!…こんなところで…!」


最後の一撃だろうか、化け物は思いっきり振りかぶって拳を振り下ろす。


次の瞬間、眩い謎の光が結界のように妖火を守った。


〈力を貸してやろうか、夢爽妖火よ、〉

妖火「…!?誰だ!?」

〈今気にしている場合か?〉


爽やかな青年の声が、妖火の脳内に響く。

声は、淡々と聞いてくる。


〈…まぁ、ソナタの好きにしろ。命を落とし家族を悲しませ、目の前の化け物によって人々の命が奪われても良いのならば、な。〉

妖火「…俺の…家族…!」

〈あぁ、そうだ。お前が奴を倒せなければ、お前の守りたいものは何も守れない。平和などと語って、世は終わる。我は何か間違えているか?〉


妖火は平和主義だ。そうなったのは、周りの環境が平和だったから。事件事故もなかった。喧嘩も起きなかった。兄妹弟は仲良しで。だから、命の価値が分からなかった。自分の命がよくわからなかった。死ぬ事がどういうことなのか、わかっていなかった。今初めて直面した死への恐怖、弱音を吐いた。


妖火「…!…嫌だ…そんなの嫌だ…!それで死ぬなんて…!…死にたくない!!!」

〈…よかろう。契約、成立と見做すぞ。〉

妖火「…!…頼む!」


了承した途端、彼は狐を模した炎に包まれた。


妖火「なんだこれ!?火!?」

〈安心するがいい、コレはオーラのようなものだ。誰が触れても怪我をすることはない。…ただし、〉


化け物が、先程弾かれた拳を振りなおして炎のオーラに触れた。すると、化け物の体も炎に包まれる。だが妖火とは違って暑がっている。


妖火「…ん!?」

〈…あくまでも、『契約を邪魔する意志がなければ』の話だがな。…まぁそんなことはどうでも良い、妖火よ、見せてやれ。〉

妖火「え?何を…?」

〈…まぁ、最初だしな。それもそうだな。唱えてみろ、『本領覚醒!!』〉

妖火「…?お…おう…。…本領覚醒!!」


妖火が唱えると、彼の身体から炎が消えた。そして彼の姿は変わっていた。黒い髪には赤色の模様が入っているし、両目も紅蓮に染まっている。頭には狐の耳が生えている。手には赤い模様が入った白色の刀を握っている。


妖火「…えぇ!?なんか姿変わった!!すげぇ!何これ!?尻尾もあるじゃん!!」

〈…目的、忘れるなよ。〉

妖火「…あぁ、そうだったそうだった。…狐炎刀!」


刀を片手に、妖火は化け物に斬りかかる。すると化け物の腕は見事に斬れてしまった。


妖火「おぉ〜!何これ!超いいじゃん!!」

〈…フッ、〉


少し自慢げな脳内ボイスさんであった。


妖火「…そんじゃまあ…一気に決めんぜ!

妖術!狐火封じ!!!」


刀に炎を纏わせ、思いっきり角の部分をぶった斬った。次の瞬間には化け物は呻き、苦しみ、身体が崩壊していた…。


妖火「…勝て…た…?」

〈…初戦とは思えぬ戦いだったぞ、〉

妖火「…へへん!でしょ!…あ、そうだ…」


褒められてご満悦になってから、妖火は直ぐ様別の方へ向き直る。命を奪われた人の所へ歩いていき、膝を着いて自身の両手を合わせる。


〈…(この者は、我が天国行きの判決を出してやるとするか…。)…本当に平和主義だな。〉

妖火「…あのー…どなたかはまだ知らないんすけど、脳内だから考えてることまで全部聞こえちゃってんるんですよ…。」


妖火は苦笑いを浮かべていた。




2020.4.17.PM20:00


戦「妖火!!」


血相を変えた戦が警察署に飛び込んできた。


戦「大丈夫だったか妖火!?怪我は!?」

妖火「大丈夫!壁には思いっきりぶち当たったけどね!」

戦「それは大丈夫って言わないんだぞ!?」


あの化け物退治のあと、駆けつけてきた警察官により事情聴取を受けることになった妖火。幸いにもこの地域の警察官は頭が柔らかいようで、妖火の話もすんなり聞いてくれた。


警察官「すいませんお兄さん…こんな時間に…」

戦「いやいや!いいんですよ!」

警察官「…にしても、まさか化け物の噂が本当だったとは…」


やたら親切で柔軟な警察官の方に、戦は気になっていたことを聞いてみる。


戦「…あの、なんで弟の事そこまで信じてくれるんですか…?…俺が言うのもあれですけど…こういうのってその、普通は信じてもらえないと思うんですが…」

警察官「…あぁ…ワタクシも最初は、信じることができませんでしたよ…。ですが、近年余りにも例の噂が多過ぎること、SNSでの『化け物』と呼ばれているものが写された写真の投稿が多い事、その写真に写った場所で、前後してはいますが行方不明事件や殺人事件が起きていることが引き金で…」

戦「…なるほど…。」


戦は頷きながら聞いていた。


警察官「…何はともあれ、この子のおかげで化け物は一体は退治されました。ありがとうございます。」

戦「…はい、こちらこそ…。」

妖火「…(…『一体は』…?)」


妖火は首を傾げたが、時間が時間だったのでさっさと戦と共に帰ることにしたのだった。




戦・妖火「ただいま〜!」

狸眼「あ!二人共おかえり!」

桜良「遅い〜!」

翔大・治手「そうだそうだ〜!!」

戦「あはは…ごめんごめん…。」

妖火「ごめんなぁ…色々あって…。」


一先ず、下四人には自身の経験したことを秘密にしておく妖火であった。いつかは必ず話すと決めているが、それがいつになるかはわからない。それでも、守るための、平和のための力が手に入っただけでも嬉しかった妖火だったとさ。




2020.4.17.PM23:00


「…妖火のやつ、力が発現したのか…。…そんなら…いずれは…。…はぁ…。」

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〜人群れる所、怪異あり〜平凡な日常を送りたかった俺、なんか厄介事に巻き込まれた! ケイズん @2K6ss4

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