2章 揺れる気持ち

 文化祭が無事に終わり、クラスの盛り上がりも落ち着き、日常の生活が戻りつつあった。しかし、私の心はまだ落ち着かないままだった。恭平と美咲との関係がどこか微妙なバランスを保ちながら進んでいるように感じ、心の中にわだかまりができていた。


 あの日、文化祭の後、恭平と美咲と一緒に過ごした時間は確かに楽しかった。けれど、ふとした瞬間に、彼らの距離が縮まっていることを感じることが増えていた。私と美咲が共有していた恭平との時間が、今はもう二人で過ごしているような気がして、何とも言えない気持ちになった。


 そんな日々の中、また放課後に三人で集まることになった。私は少し不安を感じながらも、今後のことを考えると、できるだけ気持ちを落ち着けようと努めていた。


 「放課後、カフェでお茶しない?」


 美咲がその日の昼休みに提案してきた。


 「いいね!」


 私は明るく答えるが、心の中では少し戸惑いがあった。美咲がこう言うのは、恭平と二人きりで過ごしたいという気持ちがあるからなのではないかと感じることが多くなっていたからだ。


 放課後、私たちは学校を出て、近くのカフェに向かった。カフェに到着すると、恭平はすでに席に座って待っていた。彼の笑顔が見えると、少しだけほっとする自分がいた。


 「お疲れ様、夏美。」


 「お疲れ様、恭平。」


 恭平と目が合うと、自然と笑顔がこぼれた。彼の笑顔は、どんな時でも心を温かくしてくれる。けれど、その笑顔が美咲に向けられることが多くなると、胸が少し痛んだ。


 「どうだった、文化祭?」


 恭平が話題を振ってきた。


 「楽しかったよ!みんなが一生懸命で、すごく盛り上がったよね。」


 美咲がそう言いながらも、どこか微妙な表情を浮かべている。彼女も、文化祭の後に何かを抱えているような気がしてならなかった。


 「ほんと、みんな頑張ったよね。」

 

 私は少しだけ、恭平の顔を見つめながら、言葉を続けた。恭平と一緒に過ごしたあの時間が、私にとっては特別で、心が少しだけ軽くなったような気がした。


 「夏美、恭平って本当に頼りになるよね。」


 美咲が、何気ないように言った言葉が、私の胸に突き刺さった。


 「うん、恭平は頼りになるよね。」


 私はできるだけ平静を装って答えたけれど、内心では不安が広がっていった。美咲のその言葉が、どうして今言ったのか、私には分からなかった。


 カフェでの会話は、どこかぎこちなさを感じながらも続いていった。その時、私の胸の奥では、美咲の言葉が何度も繰り返し響いていた。彼女は本当に、私と恭平の関係をどう思っているのだろうか。


 その日から、私たち三人は一緒にいることが多くなったが、どこか心の中で美咲と私の間に微妙な距離ができているような気がしていた。美咲はいつも通り明るく接してくれるけれど、私には彼女が何かを隠しているような気がしてならなかった。


 ある日の帰り道、私と美咲は二人きりで歩いていた。恭平は委員会の打ち合わせで少し遅れるというので、私たちは先に帰ることになった。ついに、私は思い切って美咲に聞いてみることにした。


 「美咲、もし恭平が、私たち二人のうち、どちらかを選んだら、どうする?」


 私の質問に、美咲は少し驚いた表情を浮かべたが、それでもすぐに笑顔を浮かべた。


 「え、何?どうしたの急に。」

 

 美咲は軽く流すように言ったけれど、その笑顔の裏には何か隠しているような気がした。私はその笑顔を見て、彼女が本当の気持ちを言えないでいるのだと感じた。


 「でも、もし恭平が夏美を選んだとしても、私は応援するよ。」


 美咲はそう続けたが、私の胸の中ではその言葉がずっと響いていた。彼女は本当に、私に対してそんなに優しいのだろうか?それとも、心の中で何かを葛藤しているのだろうか?


 その後も、私たち三人の関係は少しずつ変わっていった。恭平と過ごす時間が増えれば増えるほど、私は美咲のことが気になり始めていた。彼女が恭平に対して抱いている気持ちが分からなくなり、少しずつ自分の気持ちも揺らぎ始めていた。


 その日も、放課後に三人で集まることになった。私たちは近くの公園で散歩をしながら、話をしていた。恭平が少し前に「文化祭が終わったら何かしたいな」と言っていたので、私はその話を振ってみた。


 「ねぇ、恭平、文化祭が終わったから、みんなでどこか遊びに行かない?」


 「いいね、行こうよ。」


 恭平が笑顔で答えてくれると、心の中で少しだけ安心する自分がいた。


 でも、そのとき、美咲の表情がどこか曖昧だった。恭平に向けられた彼女の視線に、私は何かを感じずにはいられなかった。


 「行きたい場所があるんだ。」


 美咲が少しだけ目を伏せながら、そう言った。


 「どこに行きたいの?」

 

 私が尋ねると、美咲は少し迷ったように答えた。


 「えっと、特にないけど……」


 その答えが、私にはすぐには納得できなかった。美咲は、恭平と二人で行きたい場所があるのではないか、そんな気がしていた。


 その日の帰り道、私は気持ちが揺れる自分を感じながら歩いていた。美咲の言葉、恭平の優しさ、すべてが私の中で混ざり合って、どこか曖昧な気持ちにさせていた。


 それでも、私は少しずつ自分の気持ちに向き合っていくことにした。恭平に対する想い、美咲に対する想い、それらをどうするべきかは分からない。

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