揺れる心、隠された気持ち
やまもどき
序章
4月の新学期が始まったばかりの朝、教室の窓からは満開の桜が風に舞う様子が見えた。春の優しい陽光が差し込み、あたりには新しい季節の匂いが漂っている。まだ少し肌寒い空気が、初々しい始まりを感じさせていた。
私は、自分の名前が書かれた席に静かに座り、新しいクラスメートたちの顔を見渡した。2年生になったことでクラス替えが行われ、ほとんどが初めて会う顔ぶれだった。少し緊張しながらも、このクラスでの新しい生活に期待を抱いていた。隣の席の女の子が何やら楽しげにスマホをいじっているのが目に入るが、私は窓の外に目を向けた。
その時、教室の扉が音もなく静かに開いた。思わず私はその方向に顔を向ける。そこに立っていたのは、背の高い男子生徒だった。
「
心の中で彼の名前を叫んでしまった。中学時代から同じ学校に通っていた彼だが、これまで一度も同じクラスになったことはなかった。彼はいつも周りに友達がたくさんいて、いつの間にかクラスの中心にいるような存在だった。
彼が教室に入ってきた瞬間、私は思わず視線を外した。自分が彼を見つめているのがバレるのが怖かった。だけど、心臓の鼓動が一気に早くなっていくのを感じてしまう。恭平のことを意識し始めたのはいつからだったのだろう。いつの間にか、彼の存在は私の中で特別なものになっていた。
恭平は相変わらずクラスでも人気者だ。誰にでも優しく、自然に接することができる彼の性格は、中学時代から変わらない。そのため、クラスの女子の中にも彼を好意的に見ている子が多いことは知っていた。けれど、私は今までずっと心の中に彼への想いを秘めていた。
授業が始まるまでの時間、クラスのみんなは次々と自己紹介をしていく。そして、ついに恭平の番がやってきた。教室中の視線が一斉に彼に集まる。彼は少し照れくさそうに笑いながら、短い自己紹介をする。
「えっと……、南恭平です。サッカー部に入ってます。趣味はゲームとか……まあ、そんな感じで。よろしくお願いします。」
彼の言葉は短いものだったが、その中に彼の飾らない性格がにじみ出ていた。彼が照れくさそうに頭をかく仕草や、ほんの少し微笑んだ表情を見ていると、私の胸の奥が温かくなるのを感じた。これから、彼と同じクラスで過ごす毎日が始まると思うと、自然と心が躍る。
しかし、そんな私の気持ちに気づかれないように、そっと顔を伏せた。これまでと同じように、何でもない振りをして過ごすのが一番だ。彼とは幼馴染でも友達でもない。ただ、同じ学校に通う生徒同士。そんな関係を壊したくない気持ちも、どこかにあったのだ。
その瞬間、私の隣の席に静かに座ったのは、美咲だった。彼女は中学からの親友で、何でも話し合える存在だ。
「
元気いっぱいの声で美咲が話しかけてきた。
「うん、私も!今年もよろしくね!」
私は彼女の明るいエネルギーに自然と笑顔を返した。
美咲とは本当に何でも話せる友達であり、彼女がいてくれるだけで、学校生活が一層楽しく感じられる。彼女の明るさに救われたことは何度もあった。そんな彼女が今年も一緒のクラスにいることは、私にとって大きな喜びだった。
そして、美咲と話している間に気づいたことがあった。美咲は恭平と幼馴染なのだ。中学時代に聞いたことがあったが、当時はあまり気にしていなかった。でも、今は違う。彼女と恭平の関係が、私にとって少しだけ気になる存在だった。
授業が始まり、私は気を引き締めて黒板に集中しようとした。しかし、恭平が教室の中にいるという事実だけで、どこか落ち着かない。彼が近くにいるだけで、私は一気に緊張してしまう。
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