1章 仲良くなる3人

 新学期が始まり、数週間が経過した。私はクラスメートとの交流を深める中で、恭平との距離も少しずつ近づいていることを感じていた。美咲と共に彼と過ごす時間が増えるにつれ、心の中に芽生えた想いは一層強くなっていった。


 「放課後、図書館に行かない?」


 ある日の昼休みに美咲が提案してきた。


 「恭平も来るって言ってたよ。」


 え、恭平が?


 内心ドキドキしながら頷いた。


 「うん、いいよ!」


 笑顔を作るが、その笑顔の裏では、恭平と美咲が近づくことに少しの不安を感じていた。私は自分の気持ちを押し殺しながら、友達として恭平と接することにした。


 放課後、図書館で勉強をすることになった三人は、静かな空間でそれぞれの課題に取り組んでいた。恭平が真剣に問題に向き合う姿を見つめながら、彼の優しさや誠実さに心を奪われていく。時折、彼が振り向いて笑いかけるその瞬間が、何よりも幸せな瞬間だった。心臓がうるさい。


 「夏美、これ分かる?」


 恭平が私の方を向いて手を伸ばす。突然のことで心臓が高鳴る。彼の手元には、私が悩んでいた問題の答えが書かれていた。


 「え、ああ、えっと、これね……あ、うん、分かる!」


 必死に返事をする。


 言ってしまった。どうしよう、何にもわかんない…。


 その様子を美咲は見守っていた。恭平と話すのが楽しくて、時間があっという間に過ぎていった。


 図書館の帰り道、恭平は話しかけてくる。


 「そういえば、うちのクラス、文化祭何やるんだっけ?」


 「なんだっけ?」


 美咲が私に尋ねてくる。


 「うーん……何か楽しそうなことだといいな!」


 心の中で考えを巡らせた。恭平と一緒に何かを作り上げることができたら、それはとても嬉しい。


 そんなある日、放課後に三人で喫茶店に行くことになった。お互いの好きなメニューを注文し、笑い合いながら楽しい時間を過ごす。


 「それにしても、恭平は本当に面白いね!」


 笑いながら言うと、恭平は少し照れくさそうに笑った。


 「俺も夏美と一緒にいると楽しいよ。」


 その瞬間、心は温かくなったが、その後の美咲の視線に気づいた。彼女の目には微妙な光が宿っていた。彼女もまた、恭平のことが好きなんじゃないかと、その時初めてはっきりと感じた。


 それからも、私たちは放課後に一緒に過ごすことが増えた。けれど、どこかぎこちない瞬間が増え始めていた。私は恭平と話すたびに、少しだけ美咲の視線を気にしてしまう。彼女が何か言いたそうな、でも言えない何かを抱えているように見えてなら

なかった。

 

 ある日、私と美咲は二人で帰ることになった。恭平は委員会の打ち合わせで少し遅れると言っていた。私は勇気を振り絞って美咲に聞いてみることにした。


 「美咲、もしかして、恭平のこと……」


 私の言葉に彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。


 「え、何言ってるの?私はただの幼馴染だよ。恭平とは昔からの友達だし、そんな風に思ったことないよ。」


 彼女の言葉は軽く流されたようだったが、その笑顔の裏に隠された本当の気持ちは、私には見えなかった。


 それからも、美咲はいつも通り明るく接してくれたが、私はますます彼女の本心がわからなくなっていった。恭平と話すたびに、彼女の視線が気になり、言葉の裏に隠された感情を探るようになった。


 文化祭が近づくにつれ、クラスの準備も本格化していった。演劇の配役が決まると、私たち三人は主要な役を任されることになった。練習を通じて、恭平との距離がさらに近くなり、時には彼の優しさや面白さに触れるたびに、私の気持ちはどんど

ん強くなっていった。


 しかし、その一方で、美咲もまた、私と同じように恭平と過ごす時間を楽しんでいるように見えた。私たちの関係は少しずつ変わっていく。心の中で、私はいつしか美咲に対してわずかな嫉妬を感じるようになっていた。


 けれども、彼女は最後までその気持ちを隠し続けた。どれだけ私が探ろうとしても、彼女の笑顔の裏にある本心を知ることはできなかった。


 そして文化祭の本番の日が訪れた。緊張と期待が入り混じった中で、私たちは舞台に立った。演技を通じて、私は恭平と一体感を感じ、心が満たされていくのを感じた。彼の優しさ、誠実さ、すべてが私にとってかけがえのないものだった。


 しかし、ふと舞台の裏で、美咲と目が合った瞬間、彼女は何か言いたげな目をしていた。それが何を意味していたのか、私は知ることができなかった。

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