3章 揺れる思い、踏み出す一歩

 放課後、いつものように恭平と美咲と一緒に帰ろうとしたが、私は少し戸惑っていた。最近、二人の関係が変わり始めているような気がして、その変化を素直に受け入れられない自分がいた。美咲はいつも通り明るく振舞っているけれど、私には彼女が何かを隠しているような気がしてならなかった。そして、恭平もまた、私が気づかないようにしているのだろうけど、何かしらの思いがその顔に見え隠れしているように感じていた。


 「ねぇ、夏美、大丈夫?」


 美咲が私を気遣うように声をかけてきた。その優しさが、私をますます苦しませる。


 「うん、大丈夫。」


 無理に笑顔を作りながら答えたけれど、内心ではその言葉がどれだけ空虚に感じていたことか。


 その日は、恭平が突然「今度、みんなで映画に行こう」と提案してきた。私たちが仲良くしているうちに、映画に行くのはよくあることだったけれど、今回は少し違って感じた。


 「いいね、楽しみにしてる!」


 美咲が元気よく答えた。もちろん、彼女のその反応は自然だったけれど、私の胸の奥ではその返事が少し痛かった。


 その夜、家に帰ると、私はベッドに倒れこんで考えてしまった。最近、美咲と恭平の距離が縮まっている。そして、どうしても心の中でその二人の関係が気になって仕方がない自分がいた。私は、彼らのことをどうするべきか、何を考えればいいのか分からなかった。


 「私はどうして、こんなに悩んでいるんだろう?」


 自分自身に問いかけても答えは返ってこない。


 次の日、学校でもその気持ちは変わらなかった。美咲はいつも通りの笑顔で接してくれたし、恭平も私には優しくしてくれた。でも、どこかしら距離ができているように感じた。これが、三人で過ごす時間の中での微妙な空気だった。


 放課後、恭平が「映画、どこに行こうか?」と話を振ってきた。私はすぐに答えを出すことができなかった。


 「どうしようか…」


 私は少し考え込んだ。


 「じゃあ、ホラー映画とかどう?楽しそうじゃない?」


 美咲が明るく提案する。その言葉に、私はつい反応してしまった。


 「ホラー映画か…うん、面白そう!」


 恭平も少し微笑んだ。けれど、その笑顔もまた、どこかぎこちなく見えた。私はその理由が分からなかった。


 その週末、三人で映画に行くことが決まった。私はその日のことをどこか心の中で楽しみにしていたけれど、それと同時に不安も感じていた。美咲と恭平の関係が深まっているのではないかという思いが、私の胸を締め付けていたからだ。


 映画館に着くと、恭平と美咲は自然と隣同士に座った。私は少し遅れて座席に着き、二人の間に差し込まれる微妙な空気を感じていた。その時、ふと恭平が私に向かって微笑んだ。その笑顔が、私にとっては少しだけ安心できるものだった。


 映画が始まり、暗闇の中で映像が広がると、次第にその世界に引き込まれていった。恐怖と緊張が交錯する場面で、美咲は恭平に肩を寄せていた。恭平もまた、少し照れくさそうに笑いながら、美咲の反応に答えていた。


 私の目線はどうしても、二人に向かってしまう。二人の間に流れる微妙な空気に、私はどうしても居心地が悪く感じていた。


 映画が終わり、明るくなった映画館の中で、私は自分の思いがまたさらに揺れ動いている。美咲が笑顔で恭平に話しかける姿、恭平がその笑顔に答える姿。それを見ていると、私はどんどん自分が遠くに感じていった。


 「楽しかったね。」


 恭平が言ったその一言に、私は素直に「うん」と答えることができた。しかし、そ

 の後の言葉が続かなかった。


 「次は何しようか?」

 

 美咲が嬉しそうに言ったその言葉を聞きながら、私は心の中で自分の気持ちを整理しようと必死だった。


 すると突然美咲が口を開いた。


 「ああ、ごめん。この後ちょっと恭平に用があるんだ。だから…ごめん」


 美咲は手を合わせて私に言ってきた。その言葉に私は思考が止まっては加速する。


 「ん?そうなのか?」


 恭平は知らなかったように答えた。私は邪魔者だと思い「それじゃあ、また明日」手を振り、二人から離れていった。振り返す美咲の手とただ手を挙げている恭平の手にまた心がチクチクする。


 その帰り道、私は一人歩くことになった。恭平と美咲が話している後ろ姿を見つめながら、私は自分の心に問いかけていた。


 「どうして私はこんなに苦しいんだろう?」


 その答えが見つからないまま、私は自分の足を進めていた。


 家に帰り、部屋に入ると、私はしばらくその場に立ち尽くした。鏡を見つめながら、何度も自分に問いかける。


 その答えが分からないまま、私はベッドに横になった。頭の中はまだ、恭平と美咲のことがぐるぐると回っている。それでも、私はどうにかして、自分の気持ちを整理しなければならないと感じていた。

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