第5話 外伝 ヘイトの使途

------------------------------------------------------------------------------------------------

使途:魔族種妖精目又は精霊種に属する。

純魔族でさえ知ることが出来ない世界で生を受け、何故こちらの世界へ訪れ実体化するかは不明。使途は契約したマスターより、魔力供給されることで食物を摂取する事なく生きている。マスターの真似事で食物を摂取することはまれにあるが、魔力供給により生きる使途にとってエネルギー補給となるのか、味覚があるのかさえ不明である。

------------------------------------------------------------------------------------------------


ウォーニング!小型ミサイル3。発射確認。6秒で現在地に被弾。


が!無我夢中で逃げ、被弾を避けた俺は敵の目の前に出ちまった!

ブーン重低音が響いた。

ピートの防御マークが弾丸をネットに飛び込んだウサギのようにとらえると同時に

敵を吹き飛ばす。


瞬時防御マーク!対戦闘皮膚硬化!

受諾。起動まで2秒。・・・・・・コンプリート。


ダン。危なかった。起動と同時に被弾しやがった。


「ピート!当ったぞ!」

「申し訳ありません。マスター。」

限界か!


接近戦に切り替える!

ジェミニ来い!

「イエス。マスター。」

「ヤダね。死にそうじゃんかよ。」

いいから!言うことを効けよ。

ジェミニはピートと同じく俺の使途で、双子のカルとポルの総称だ。

従順なのが、カル。小憎らしいのがポルだ。

結局は要求を呑む癖にポルは一々逆らいやがる。

それが戦闘中でもお構いなしだから厄介いなんだ。だけど、俺の貴重な相棒だ!

コイツらは剣に姿を変える。

生きている剣だから敵の剣を受ける時は柔軟になり攻撃を受け止める。

そして、切りたい時にだけスッパっと切れる。切れ味抜群のなんとか剣みたいに

いつでもスパスパ切れたら敵の攻撃を受けた途端に敵の剣は折れ、先っぽがざっくり脳天に刺さりお陀仏。な~んて事に成りかねない。

だから、金属から作った剣なんて誰も使わない。

それがイマジンの常識だ。ブーン。腹に響く重低音。


「って!ポル!言ってる先から敵の剣、切りやがって!

ピートが居なかったら死んでるぞ!」


「だってコイツ嫌いなんだよ。」

敵の剣が嫌い?あった事も無いくせに。大体、お前が好きな奴がいるのかよ!

すんでのところでピートが折れた剣を防御マークし、俺はカルで敵を貫いた。

余程、驚いたのだろうポルの野郎が敵の剣を切るところを目撃し、周囲の空気が凍りついた。あの状況で敵の剣を切るなんて暴挙はあり得ないからな。

だが、一瞬でも固まったら命取りだ。


凍りついた空気の中、俺は一人だけ動いている。周りがスローモーションに見える。

ポル、カルを一閃。ステップバックで後方5mに飛び、3人をなぎ倒した。


だが、敵が凍りついてくれたのはごくわずかでしかなかった。

銃弾3発をピートがマークし、かわし切れなかった敵の一撃を軽く二回受けた。

背中から血。左脚からも血。その他軽傷多数。戦闘用皮膚硬化でもダメージがデカすぎる!敵は低速レールガンを使ってやがるな。あんなでっかい兵器持ち歩くかよ?。

くっそ!俺達を狙ってやがったのか!監視されていたんだ。

昨日のうちに俺達は見つかっていた。

そして敵は俺達に狙いを定めレールガン設置した。厄介だな。

今のうちにレールガンを破壊しないと生き残りも厳しくなる。何処に設置した?


弾丸と違いレールガンは放物線を描かない。レザービームと同じだ。

だから、ある程度の高台から狙撃するしかない。

敵がレールガンを設置した場所は戦闘可能範囲ギリギリの高台。

そして俺が撃たれた方向と上下角を考えると。あそこだ。

魔力制限が無ければポルに破壊させるのに・・・あっ。な~んだ。

方向が解れば後は熱感知で特定できる。左、熱探知開始!


受諾。コンプリート。高熱源反応有り網膜に位置転送します。


目標に小型ミサイル発射。6秒後にステルスミサイル飛ばせ!


受諾。発射。5・・・0発射。初弾撃破されました。

次弾、高熱源反応に着弾確認。

ざま~みろ!せこい手使うからだ。レールガン撃破!

だが、疑問が残る。

敵はレールガンまで用意した割りには人数が少なすぎる・・・

そんな事はこのさいどうでもいい。今どうするか?だ。

ボロボロだ。何とか隙を作り回復魔法を使わなければ・・。

回復魔法を使うには8秒静止しなければ発動できない。

今、8秒静止したら。即。死ぬな。


500秒で駆けつけるはずだった友軍は戦闘可能範囲に入る前に

ビンガー照射とコーション・レッド発動。

そんなことすたら~。と思っているうちに、小型ステルス・ミサイルと

超長距離射撃で撃破。友軍の助けは初歩的ミスで消えた。


戦闘開始から16分ちょい。俺の所に小型ミサイルが飛んでくるまで、11人狙撃。

接近戦で5人。上出来だ。そろそろヤバくなってきた。


光学迷彩起動。ジェミニ戻れ!ピートは衝撃波で地面を破壊。煙幕を作った後。

光学迷彩起動後、6秒間敵を引き付け、戻れ!


承諾。光学迷彩起動。(姿を目にみえずらくする。近代科学技術)

イエスマスター

イエス!

イエス臆病者!


ポルの野郎~。光学迷彩を起動しても使途を隠す事は出来ない。

当然、使途は一時退却。


俺の作戦は光学迷彩で30秒時間を稼ぎ、ヘイトのテントまで退却。

テントに逃げ込みたい所だがドラキュラルールにより逃げ込む事は出来ない。

(主の誘いが無ければテントに入る事が出来ない。)


テントまで1500m走って19秒。8秒使って、回復魔法発動。


残り時間でヘイトの武器シュナイダーのプロトタイプ『スパイダー』を拝借する。

シュナイダーは魔法を使わない近代兵器。2本~4本の柔軟でゴムのような

6メートル程ある軟性ブレードで視界に捉えた敵を切り刻む。

シュナイダーの難しい所は操作がオートじゃない事だ。

視界にとらえた敵を片っ端から切り刻む事は出来ず、装着者の意志で攻撃をする。

多数の標的を同時に認識判断できる能力と高度な神経伝達速度が要求される最新鋭の近代兵器だ。中でもスパイダーはブレードが8本あるプロトタイプ。

これさえあれば接近戦で怖いものはない。一気に形成逆転もある!


俺は脱兎のように走りだした!

医学的な痛み止めを戦闘服から受けてはいても走力は鈍る。

それでも14秒でテントに着いた。

敵はまだ俺を見つけられない。5、6、7、8!回復魔法発動。

順調だ。プロト・シュナイダーはヘイトの脇にあった。

額に刺さったままの銃弾を抜く。

わり~。ヘイト借りるよ。シュナイダーを手に・・・。

ふと、標的に使うはずだったヘイトのクラッカーが目に入った。


5万Pyri。家一軒分もするバカ高いクラッカー・・・。


義経爺さんから買ったのが気になるが、ヘイトは死んでるし・・・。

どうしてもクラッカーから目が離せない。5万Pyri。旨いのかな?

ゴメン。ヘイト。誘惑に負け、ヘイトのクラッカーを

一口かじりして全速で走り出す。

走り出さずにはいられなかった。ぐえ~。ゲロまず!視界がゆがむ程まずい。

ヘイト。お前はやっぱりボッタクられたぞ。

軽くゲロ吐きながら、そう思った・・・。


口の周りのゲロを拭きながら、光学迷彩が起動していてよかったとも思った。

そして、呟く。


光学・迷彩・解除と同時にぃ~シュナイダーぁ~起動ぅ。

受諾。2、1。シュナイダー起動。


シュナイダーの威力は絶大だ。敵のど真ん中に突っ込んだ俺は

視界に入った動くものすべてに、柔軟に伸びるブレードを叩き込む。

14、16人目。歩くだけで敵を蹴散らすこの威力。さすがだ。


ウォーニング。敵。増員70。

さすがに敵も増員してきたか、俺一人に半分以上やられたら意地でも引けないだろう。

俺は安全策で後退しながら敵を迎え打ち、安全を確保出来たら長距離射撃で時間を稼ぎ

最低戦闘義務の40分が過ぎた時点でコーション・ブルー発動。見えた!勝利と生存確定が!


ウォーニング。神経接続異常。シュナイダーの負荷に耐え切れません。

シュナイダーシステムダウンまで76秒。75・・・


まずい。このままでは・・・。4ブレードにすれば負担がへる。


シュナイダーを4ブレードに切り替える。

稼働限界時間を再計算。


稼働時間変わらず。ブレード1,3,5,7は稼働していません。

2ブレードに切り替えますか?


なんてこった!始めから半分は稼働できなかったのか・・・。


ウォーニング。ビンガー照射確認。敵数70。すべてアランに集中。

生存確率6%。シュナイダーを破棄し撤退を。


何処に撤退するんだ・・・。

ここまでか。限界までシュナイダーを稼働させろ。

ピート!来い!撤退する。後ろを守れ!

イエスマスター。


戦闘義務がまだ半分以上ありやがる!

逃げ切れるか・・・。

ビンガー照射。安全領域を捜せ!

受諾。ビンガー照射。進行方向左22度。距離3000。安全領域確認。

到達時間は?

予測時間120秒。

ルートスキャン!ナビゲーション!

受諾。コンプリート。網膜にルート転送します。音声ナビは使用しますか。

出せ!

受諾。ナビ。スタート。


ウォーニング。シュナイダーダウンまで8、7・・・

ジェミニ!ボムを使って独自展開。目的は安全領域への撤退!

イエス。

根性なし!


ポル・・・この野郎~。ボムだ!ボムを使え!

(ボムとは爆竹に毛が生えた程度の爆弾のような発行体、魔力が続く限りいくつでも出せる。)


ウォーニング。被弾3。戦闘力36%ダウン。

構ってられるか!安全領域までもう少し。あそこまで辿りつけば何とかなる。


マスター!

この先にオートミサイルポット確認!

ポルだ。感謝するぜ!たまには役に立つな!


ウォ!そこは!安全領域だろ!いつの間に持ち出しやがった。

ビンガーでは敵しか感知できない。ミサイルポットのような大型機械でもだ。

ヤバい。どうする・・・。


考えた。残存兵器と魔力。敵分布。一番近い敵は後方20m。ピートの防御マークも敵数70では・・・


ウォーニング。小型ミサイル発射確認2秒で被弾。前方向に回避。

小型ミサイルの殺傷範囲からわずかに離れた瞬間。重低音が響いた。ピートの防御マークだ。

1、4、7発。俺の瞬時防御マークが弾丸をはじき、鈍い痛みが走る。

瞬時防御マークの同時マーク数は6・・・後は皮膚硬化と急所を外れてくれることを祈るだけ。

敵の一斉射撃。まんまと罠にはまってしまった。死ぬな・・・。

残念だ・・・。


ウォーニング。瞬時防御マークダウン。皮膚硬化30%低下。

終わりだ。あっけないもんだな・・・。ぱお~ん。


ぱお~ん。?え。


俺、もう終わりだな。幻覚が見えて来た。ゾウが・・・走ってくる。

死を前にしてゾウの幻覚とは・・・あっ。猫。ネコも見えてきた。走ってる。

何てコミカルな幻覚だ一斉射撃の中・・・ネコ早っや。ゾ・ウ・抜いたぁ。

銃弾が減った?なんでぇ~。

あ。ミサイル・ポット・に・ゾウが・突っ込んだ~ぁ?あっはは。ゾウが・・・

ミサイルポットに負けたよ。ゾウ。怒ったはあれ。

ミサイル鼻で・持ち・上げて・八つ当・たり・してやんのぉ。


ネコは?ネコがこちらに来るよ。助けに来てくれるのか。ありがとう。

でも、お前は小さくて助けにならないな。気持ちだけもらって・・・えっ。

ええ!ネコ・・・でか!俺の前に来たネコは3メートル以上ある巨大なネコだった。

気付けば、弾丸が全部マークされている。なんだ?


痛て~え!

アラン「何しやがる!・・・ヘイトぉ?はぁ?なんで?

    おお!へいと~!助けに来てくれたのか!」

ヘイト「まあな。」


ミサイルポットに飛び込んだゾウも、バカでかいネコもヘイトの使途だった。

ぼ~っとしてたんだな。ヘイトの使途は何度も見ているのに

よく見れば、でっかいネコに乗ったヘイトも見えたろうによ。

助かった。それからたったの80秒程でヘイトは敵を半数以上、始末しやがった。

これが、ヘイトの力か・・・。敵を一撃で仕留めたと思うと残像を残しヘイトが消える。

次に現れたヘイトは視界の端だ。敵はヘイトが現れた後に次々と倒れていく。

早すぎるんだ。初めの敵を倒してから次にヘイトが現れるまでの一瞬であいつは

数人の敵を倒していた。夢のようにその光景が繰り替えされる。が・・。その合い間に、ぶ。


ヘイト「お前。」

アラン「ぶっ。」

ヘイト「俺を」

アラン「ぶ。んっぶ。」

ヘイト「打ったろ!」

アラン「ブっ。っぶ。」


アラン「ヘイトちょっと待った。ンブっ。ゴメン。っぶ。岩がボロッと・んぶっ。」


ヘイト「な~にが、岩がボロだ!お前がボロだ!俺を打ちやがってこの下手くそが!

    しかも実弾じゃねーかよ!」

悪態をつくヘイト。

そうです。ヘイトは敵を攻撃する合い間、合い間に俺の所に戻り1、2発殴ってから

また敵を蹴散らしに行ってました。


俺は、義務戦闘時間が終了するまでの間、ヘイトの場違いな使途。

バカでかいネコとゾウに敵から守られヘイトが敵に攻撃する合い間、合い間に

数秒間だけ戻るヘイトに殴られ続けた・・・。ブっ。


ウォーニング 皮膚硬化85%ダウン。

もうヤメてくれ!ヘイトぉ!ヤバい。ヤバイってェ~。ブッ。

ウォーニング 皮膚硬化92%ダウン。

あっ。オレ。死ぬは・・・。

これが、例え遊び半分でも、たった一人で戦争を終結させる力を持つ男。ジキル・ヘイト。

俺はこの日から、ヘイトの力よりも性格の方が問題だと思うようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヘイト! 穂積蓮 @hozumiren

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画