第4話 外伝 ヘイトとアラン

理想に近いな。

おお!バッチリだな。


東側に断崖絶壁。そこから、はるか遠くまで広がる草原。理想的だった。

なにが理想?この世界でも太陽は東から登る?もしくは、太陽が昇る方角を東とよんでいるのか?


まあ、どちらでもいい、つまり朝日が昇る頃に敵が草原に攻め込んで来ても

太陽が超遠距離スナイパーの俺を隠してくれる。

おまけに、戦闘時間を限定するイマジンで明日の戦闘許可時間はAM5:00~PM6:00に限定されている。

開戦間もないこの時期、血気盛んな将校なら開戦と同時に攻め込んでくるだろう。

だから、ここは理想に近いんだ。


「よっし!じゃあ俺は飯食って寝るからさ、お前は、てきとーな時間になったら配置に付けよ!」


イマジンの中とは言え、戦時中にキャンプ気分全開のアホ。

こいつの名は、ジキル・ヘイト。


俺の相棒だが、自由過ぎる。この前のイリウス王国とザナ部族との戦闘でなんかコイツは毎日2日酔いで、テントから一度も出なかった。夜戦が禁止されていたこの戦いで、ヘイトは夜になると毎日酒を飲みに出かけ、これまた毎日。二日酔いでゲロゲロ~。

*イマジンではテント内は安全地帯と定義され一切の攻撃を許されない。


ヘイトを目的に参戦した猛者どもはヘイトがテントから出ないと知るや否や怒り狂い。収まらない怒りの矛先をテントに向けた。だから、ヘイトのテントは落書きだらけだ。

お陰で、どんなに沢山のテントが並んでいても、ヘイトのテントは一目で解るようになった。


戦争に来て戦争をしないなんて。自由過ぎだろ。しかもヘイトは傭兵だ。それでも、大金を積んでジキル・ヘイトを雇おうとする国が絶えないのはコイツが強すぎるからだ。本気で動けば、戦局をひっくり返しかねない程の力をだす。強すぎる力を持つ厄介者。それがヘイトだ。あいつの名前もそこから来ている。


敵国からすれば、あいつが居なければ勝てるのに

いつも邪魔しやがって!だからあいつは嫌いだ!hate!


味方からすれば、あいつが動けば勝てるのに、いつも寝てやがって!

大金払ってんだぞ!Hate! 


戦士たちは・・・。またあいつか!Hate! 


だから、あいつの名前はヘイト。

全世界の人間がそう呼んでいる。ジキル・ヘイト。


        *****ヘイトの災難な一日*****


さ・さ・寒い!誰だよ草原でキャンプなんて言いやがったのはよ~。寒くて眠れやしねえ。

時間は・・・。朝の4時。クソ。早く起き過ぎたぜ。これじゃあ戦闘参加するしかねえじゃねえかよ。

ブツブツ言いながらテントから出て、フライパンを火にかける。

途端に耳の中に埋め込んだ超小型通信機がコールし、同時に網膜に通信相手を知らせるディスプレイが起動した。


ヘイト「なんだよ。」

アラン「お前・・・。何してんだ?」

ヘイト「朝飯の支度だよ!」

アラン「お前・・正気か?もうすぐ戦闘許可時間だぞ。

    それじゃあ簡単に熱感知されるだろ!」

ヘイト「俺の役目は?」


アラン「おとりだが・・・。」


ヘイト「ならいいだろう。おとりは目立つ方がいい。

    俺を見つけたアホが草原に入ったら、お前が遠距離射撃で仕留める。

    そんな作戦だったはずだが?何か問題でも?」


アラン「そんなに目立ったら警戒して、誰も来ないだろうが!」


ヘイト「大丈夫だ!テントに『うぇるかむ』って書いてある。」


確かに豪勢に落書きされたヘイトのテントはどこかの傭兵が書いた『うぇるかむ』があるけど・・・。

そんなん、小さくて見えねえだろ!っと思ったが・・・。ヘイトのテントは今や世界中に、一つしかないカスタムテント。(ヘイトのテント以外落書きはない。)ヘイトがここにいま~す。って言っているのと同じだ。・・・。ならいいか。


アラン「OK。ヘイト。戦闘時間まで余裕がある。

    長距離射撃の弾道修正に付き合ってくれ。」


ヘイト「メシ食ってからな。」


アラン「ダメだ。時間が無い。

    食いながらでいいから、手伝ってくれ。」


ヘイト「わかったよ。さっさと終わらせてくれよ。

    どうすればいい?」

アラン「そうだな。あっ。ヘイト朝飯はなんだ?」


ヘイト「チーズホンデュ。」


アラン「具材は?」


ヘイト「チーズ。」


アラン「お前・・・。相変わらずアホだな。

    クラッカーとか無いのかよ。」


ヘイト「あるよ。クラッカー?って。お前~ェ。

    俺のクラッカー的にするつもりかよ!

    このクラッカーは5万Pyriするんだぞ!」

アホか!そんだけあれば家が買えるっての!


アラン「高いな。どこで買ったんだ?そんな高額クラッカー?

    さぞかしウマいんだろうよ!」


ヘイト「義経爺さんのとこだ!」

やっぱりアホだ!義経爺さんに、家一軒分ボッタくられやがった・・・。クラッカー1個で。


アラン「いいからやってくれ。後で買ってやるよ。高額クラッカーをよ!」


ヘイト「ちぇっ。ホントに買ってくれよ!ほらよ!」

ヘイトはしぶしぶ腕を伸ばし、俺からクラッカーを見えるようにした。


俺は愛用ライフル。シュトレック・マーク5をエアー弾に切り替える。エアー弾とは空気銃のようなモノだが、弾丸自体に高圧ガスが充填されている特殊低速弾だ。発射直後の弾速をギリギリまで落とすことで、ほぼ無音で狙撃できるから位置が特定されにくい上に、ある程度の距離を取れば殺傷能力も充分。その上、魔力放出も無いから索敵魔法にも感知されない優れもので、今回のような遠距離友軍サポートではかなりの威力を発揮する。


マーク5から、発射された弾丸は高圧ガスを噴出しながら加速して約400mで音速を超える。音速を超えた弾丸はソニックブームを起こした後さらに加速。2000mまでが有効射程だ。

今、俺が装填したのは弾道計算用のプラスチック弾だから音速を超える事はないが、700m以上であれば対人戦闘弾としても有効だ。俺とヘイトの距離は355m。その距離でクラッカーを手にヘイトは朝飯を食っている、ヘイトが俺に絶対的信頼を置いておる証拠だ。


俺に狙撃されるなんて微塵も考えず。的を外すとも思っていない。さすがだ、ヘイト! 

俺も、お前を信頼しているぜ!喜んで引き金を引く。


シュッと発射音がした瞬間。わずかだが、銃身を支えていた岩が崩れた。ポロポロっと2~3ミリの小石が落ちた。だけ・だけ・ど・さ。ヤバ。って思ったんだよね。違和感を覚えた俺はスコープ画像を再生した。


最近のスコープは高性能で、標的検索機能の他に画像録画機能も付いている。しかも、標的付近の音声まで拾ってくれる。スコープの記録画像には、笑いを堪えきれず学校給食の牛乳を口から吹き出す小学生のようなヘイトが、音声付きで記録されていた。音にすると。ブッ。


口から出たのはチーズホンデュ。ヘイトはブッ。?・?もう一度、画像を今度はスローで再生する。

映像の中のヘイトは何かに弾かれたように上を向き、空に勢いよくチーズホンデュをまき散らしている。

それチーズだろ?どんだけ口に入れたんだっ!てっ、くらい豪勢に吹き出している。

音にするとブッ。ね。・・・。う~。ミスったな・・・。

発射から約一秒後、弾丸は狙ってもそんなに綺麗にあたるか!って位にヘイトの額、ど真ん中にヒットしていた。


岩陰に隠れながら

「ゴメン!ヘイト!外しちまった!」無線でヘイトに呼びかける。



当然、怒りが頂点に達したヘイトが怒鳴り散らすものと思って身を縮めていたが・・・。返事がない。

ヘイト。・・・。おーい!ヘイトー!。


あれ?気絶した?当たり所が悪かったかな?ちょっとだけ身の危険を感じ涙目になっていたけど、ヘイトからの返事はなし。冷静に今の状況を考えると・・・何であたった?ヘイトの使途は?

戦闘中であればヘイトは瞬時防御マークでライフル弾くらいなら当たっても、イテ。で終わりのはず。

瞬時防御マークが起動していなくても、サブシステムの皮膚硬化でプラスチック弾位なら当たっても、弾が砕けて終わりのはず・・・。


なのに・・・。返事がない。どうして?(';')


俺はスコープを重力レンズモードに切り替え、倒れているヘイトの顔を確認する事にした。もちろん、岩陰に隠れたままで。


仰向けに倒れているヘイトの顔を直接見る事は出来ないが、スコープの重力レンズを使えば光を屈折させて、大の字になって寝ているヘイトを確認できる。ちょっと手間が掛かるが、ヘイトの近くまで行くより断然早くは無いかもしれないが・・・。安全だ!もしかしたら、死んだ振りしるかも・・・そうだ!

間違いない!アイツは俺が近づいた途端に・・・まあ、それもなんだ、近寄らなければ全て解決っと!

ヘイトのアホずら見てからさっさと逃げよう!戦闘・・・そんなもん知るか!

敵軍より怒り狂ったヘイトの方が危険だ!


スコープにヘイトの顔が映・・・。


アホずらのヘイトの額には、弾丸が刺さっている。(ToT)/~~~

コミカルに刺さった弾丸から血が流れ、白目をむいてアホづら下げて、ヘイトは寝てる。ん~。

何でぇ~?ヘイトの使途は?


「コノ野郎、ヘイト‼

 俺をからかってるな‼ 騙されるか!アホ! さっさと起きろ!」

無線でいくら怒鳴ても返事はない。返事の代わりに機械的な女の声が耳から聞こえる。

〔アテンション、アテンション。

 ピー。ジキル・ヘイト死亡確認中。情報審査要。 審議中。〕


えっ。何で?信じられず携帯端末で情報確認しても同じ情報しかでない。俺、意味・解らない。


え~と。クラッカーを狙った俺の弾は・・・銃身を支えていた岩が・・・ボロっと。

んっで、エア弾がヒューって飛んで、クラッカー?じゃなく、ヘイトにヒット。

っで、ヘイトはブッ!ん~。ここまでは認める。それじゃあ・・・。なんで死亡確認中なんだ?


スコープが違う映像流している? ん~ニャ!映っているのはヘイトだ。ブ!って言ってたし・・・。

ヘイトが死んだ?・・・ない。ない。ギガドム食らってもアフロヘアになるぐらいで済むようなヤツがプラスチックぐらいで。ん~。解らない。


何気な~く。顔をぬぐった俺は、ある事に気付いた。


それは、手が鼻にかかった時だった。鼻に痛みが走った。何だろう。そう思って鼻から異物を取る。

見てみるとそれはエアー弾だった。あ~。オレ、ふざけて鼻に弾丸刺してた。

あは。しかも、この弾丸。プラッチク弾じゃん。プラ弾・・・装填するとき、ふざけて鼻に入れて。

装填したつもりで、そのまま撃っちゃった。

あは。おれ・・・銃じゃなくて鼻にプラ弾装填しちゃった。


ヘイト!ゴメン。この償いは必ずするから・・・。

マジもんのエアー弾を撃った。この償いは必ず、するから。

また、左耳に機械的な女の声が聴こえる。

「ビンガー照射確認。コーション・ブルー。」

左耳に埋め込んだ端末が危険を知らせてきやがった。


クソ!こんな時に~! どうする!どうするよ!俺! 一人じゃねえかよ!


「コーション・イエロー。 交戦意志表示確認。

 告知敵兵力143名。戦闘を許可しますか?」

その数では、一人じゃ無理だ。俺は端末に叫んだ。周囲に応援要請!


「受諾。応援要請送信。・・・周囲100㎞圏内に友軍なし。

 コーション・イエロー。敵軍より、兵力申告要請。兵力申請しますか?」

一番近くの友軍は何処だ!


「北北東150㎞。アビー少尉。兵力200名。」

到達予想時刻と救援人数は!


「予想到達時間。500秒後に5名。1時間30分で45名。合計50名。」

完全に負ける。兵力差は3倍だ。

敵が交戦意志を送信したからにはに後退しながらでも戦うしかない。こうなったら、やるしかない!

兵力申請200名!180秒後開戦。ステルス許可90秒後。ビンガー照射!


「受諾。コンプリート。敵、分布図モニター表示開始。コーション・レッド。」


今のやり取りは、イマジンでの決まり事だ。

コーションはブルー、イエロー、レッドの順で進行し始まりはビンガー照射だ。

(敵の潜伏する位置を半径3メートル以内の誤差で捕捉する。)

従って、ブルーは敵に捕捉された事を意味する。コーション・ブルーの間なら逃避も可能だが

ステルス(自分の位置を確認不能にする事。)は使えない。


ビンガーの有効距離は半径3㎞。自軍か不利だと判断したならコーション・イエローが発動される前にビンガー有効圏内から離脱すればセーフ。交戦するなら、ビンガーで得た情報を元にブルーの間に敵兵力や自軍、敵軍の近隣兵力を考慮に入れながら検討する。だが、どちらかが、コーション・イエローを発動するか

捕捉された側がビンガー照射をした場合は逃避不可となり、最低40分の戦闘が義務付けられる。


イエロー発動後は速やかに自軍の兵力を敵軍に知らせなければいけないのも付け加える。最も兵力は人員だけで、戦闘員のみ申告義務があり過小申告は許されないが、俺のように過大申告は許される。と言うのも、申告数は最大兵力を示している。増援部隊の事だ。申告した数より多くの増援部隊が来ても戦闘に参加する事を許されない。俺の場合は、増援部隊が50しか見込めなくても200と申告しておけば、誰かが駆けつけてくれれば200までは戦闘に参加できるってことだ。今は、一人しかいないが・・・。


コーション・レッドはイエローを発動した側とブルーでビンガーを打ち返した側には発動権はない。

つまり、交戦意識の低い方にしか発動できない。レッド発動権を持っている側には幾つかの優先権も与えられている。


1.戦闘開始時刻指定権利 ビンガー照射後最大180秒まで遅延可

2.ステルス許可時刻指定権利

また、レット発動権を持っている側が600秒間レッド発動をしない場合は相手側に発動権が移動する。


んあ。600秒?しまった!


600秒放置すれば・・・。イヤ。500秒待ってからレッドを発動すれば・・・。

最低5名の援軍が来たのに・・・。あー!やっちまった。

最低戦闘の40分を生き延び戦闘離脱する事ばかり考えて、気付かなかったぁ。


「コーション・レッド。ステルス使用まで20秒。」

え~い!やってやる。やってやるよ。アフロのヘイトがなんだ~。泣きながら誤れば何とかなる!と、開き直り戦闘準備。ステルス使用1秒前と0.05秒前にビンガー照射。敵兵力の固有マーキング開始。


「受諾。」

「ビンガー照射。・・・再照射。固有マーキング・コンプリート。

 敵兵力60を確認。」

60か・・・。粒子デコイを残し移動。

「受諾。デコイコンプリート。ステルス展開。」


ピート!俺の危険を察知したら即、防御反撃しろ!

「イエス。マスター。」


ピートは、使途で遠距離射撃が主になる俺がおろそかになる防御をカバーしてくれる尻尾付ヒューマノイド型。(魔族種精霊目)最も、今回の敵は人間オンリーだからピートの力は制限され、彼らの言葉で言うラーフとドム。人類的に表現すると弾丸程度を何とか防げる防御マーク4個に人間を蹴散らす程度の衝撃波だけだ。もっと、解りやすく説明すると弾丸の威力を弱めてくれて(マークしきれない弾丸は別。)

危険な敵を吹き飛ばせるが、戦闘不能にも追い込むことは出来ない。その程度でしかない。


コーション。アウトブレイク。10m後方に被弾多数。

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