バーチャル三行半

白川津 中々

◾️

「おぉ?」



倉庫整理をしていたら懐かしいゲームが出てきた。

ミッシングマリッジ。結婚生活を体感できるシミュレーションゲーム(VR対応)である。


そういや買ったなこんなの。


突然嫁が駆け込んできて「籍入りましたー」とトンチキなセリフをいうのが話題となったこのゲーム。致命的なバグで速攻回収&生産終了したバカゲーにもなれないクソ欠陥品である。バグ意外にも妙に生々しいというか嫌なリアリティがあって、プレイしていて全然楽しくないからそっとしまっていたのだった。なんで「何食べたい」って選択肢で冷やし中華選んだらキレられなあかんねん。「冷やし中華作る工数なめてるでしょ」じゃねーんだよだったら俺に作らせろ何年一人暮らし(継続中)してると思ってんだ。



……なんか腹立ってきたな。



ミッシングマリッジにはDVやモラハラの実行の他、離婚を突きつける機能もある。思い出しムカつきを抑えられなかった俺は嫁に痛い目をみせてやろうとゲームを起動。だが、肝心の嫁がいない。代わりに、離婚届けと手紙がテーブルの上に添えてあった。


"いつまで待っても帰ってこない。もうほとほと愛想がつきました。法廷で会いましょう"


先手を打たれた。

悔しさに歯軋り。そこへゲーム内電話が鳴る。


「はいもしもし」


「どうも。私、弁護士の花田と申します。今回は離婚調停についてお話を……」



ガチャ切り。ゲーム終了。続けていたら泥沼でストレスが確実に溜まる展開。やはりこのゲームは頭おかしい。

そんな事を思っているとリアルアカウントにメール。件名、花田弁護士事務所の花田です。内容は協議日程の確認。

おいおい確かにアドレスと紐付けたがこんなご案内は求めてねーぞと怒り心頭。販売元に文句言ってやろうと勢いでクレーム送ってやったら"夫婦間の問題ですので"とか返信してきやがった。いかれてんのか。



こうなったらもう……徹底的にやるしかねぇな……!



ゲームを再起動し、貯金を確認。心許ない。スケジュールを労働で埋める。弁護士を……凄腕の離婚調停専門家を雇うためだ!



勝つ。

絶対に、勝つ。



静かなる固い決意。

俺はあらゆる手段を使い、慰謝料を払う事なく嫁と別れてやると誓った。リアルでの結婚は、多分永遠にできない。

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