エピローグ
多少の怪我人は出たものの、王国軍の人員は誰一人欠けることなく帰ってきた。神獣たちが大活躍したお陰だ。勿論、動物たちも元気である。
あの後皆には、動物が食べられるご馳走をアメリアが出ずから作って、労いのパーティーをした。動物たちは大喜びだった。
国境線ではできる限り、帝国によって魔獣にされていた動物たちを探し、騎士団で保護をした。今は王宮の敷地内で傷を癒している。
野生に返せるものは返し、残りは飼育していく予定だ。国王に掛け合い、この世界では初めての動物園を作る予定となっている。
オリヴィエは無事捕えられ、王国で裁かれることになった。今までも様々な情報を他国に漏らしていたようで、死罪は免れないだろう。
レオンはそのことについて、特に何も言及しなかった。アメリアも黙って彼に寄り添った。
ミストラル王国はタンザ帝国に対して、今後百年こちらへの侵襲不可という、驚くほど一方的な協定を結んできた。兄アルフレッドとアンリが一体どんな手を使ったのか、アメリアすらも知らない。
ただ、兄を怒らせてはいけないと言うことは、今回はっきりと分かった。
この吉報に、ミストラル王国は国中がお祝いムード一色となった。長らく開戦が心配されていた帝国との戦が起こらずに済むと、はっきり明示されたからである。
♦︎♢♦︎
「アメリア…………綺麗だ」
レオンは、その日何度目か分からない賞賛をアメリアに送った。今日は和平協定締結を記念する、大きな夜会なのである。
アメリアは深い藍色のドレスを身に纏っていた。胸元には小さなダイヤモンドが沢山縫い付けられており、天の川のように光り輝いている。一方、オーガンジーが重ねられたスカート部分の裾には、同色の藍色の糸で精緻な刺繍が施されていた。
光を浴びると上半身が輝き、下の刺繍が立体的に見える仕組みだ。
「またこんな立派なドレスを仕立ててくれて、本当にありがとう」
「アメリアが主役なんだから、当たり前だ。今日の夜会は、君自身がもぎ取った勝利を祝うものだから」
「そうかしら……?頑張ったのは動物たちよ。それに、神獣化のアイテムを作ったテオとジゼル、あとは……あんな協定を結ばせたお兄様とアンリの働きが、どうにも大きすぎるように思うのだけど……」
「それも、君の勇気がなければこの結果にならなかった。全ては、アメリアが動物たちと信頼関係を築いてきた結果だ」
「うーん、レオンは私に甘すぎるんじゃないかしら……」
どうにも納得がいかないアメリアであるが、ひとまずはそういうことにしておくことにした。
しばらく歓談していると、テオとジゼルが楽しそうにやってきた。
「アメリア!とっても素敵なドレスね〜!」
「ジゼルも、水色のドレスがとっても良く似合ってるわ」
「ふっふっふ。これ、なんと、テオが贈ってくれたのよ〜!!」
ジゼルはちょっと赤くなりながらも、くるっと回ってみせた。テオは呆れ顔で言う。
「婚約者なんだから、ドレスくらい当たり前だろ」
「当たり前なんて思えないもん。嬉しいんだもん」
「まあとにかく、今回はお疲れ様、レオン。勿論、アメリア様も」
テオは照れ臭そうにそっぽを向いて言った。ジゼルのことを溺愛しているのは丸わかりなのに、まだ恥ずかしいようだ。
「今回のことは、テオとジゼルの発明あってこそだわ」
「その発明がなぁ…………。対外的には秘密にするっていったら、国王がものすごく心配しちゃって。何か、すごい額の報奨金もらっちまった」
「それだけ素晴らしいものだからな。本来なら歴史の教科書に載るレベルだ」
レオンが生真面目に頷く。神獣たちの圧倒的強さを思い出し、アメリアも大きく同意した。
「せっかくなんだし受け取った方が良いわよ。テオは無欲すぎるわ」
「本当にそうよね!でもね、その報奨金を一部使って、新婚旅行に行くことにしたの!すごく楽しみ!!」
「おいジゼル、あんまり言いふらすな」
「新婚……旅行……」
レオンがピシャーン、と雷に打たれたような表情になった。
「そういえば、俺たちは行ってない…………新婚……旅行…………」
「お前は将軍なんだから、留守にできないだろうが」
「そうよレオン、おうちでゆっくりしましょう?」
「アメリアと……旅行に行きたい………………」
アメリアもフォローしたが、レオンは長考モードに入ってしまった。これは是が非でも、実現しそうな気配がする。レオンは有言実行の男なのだ。
呆れ気味のテオと、うきうきとしたジゼルと挨拶をして別れる。
すると、ダンスホールがわっと盛り上がったのがわかった。
「あの、物凄い美人、一体誰だ!?」
「アンリ様と踊ってる彼女だろ?あんな美人、見たこともない…………!!」
周囲が騒めいているのが聞こえる。
アメリアが顔を向けると、アンリと踊っているのは瓶底眼鏡を外したオデットだった。心底幸せそうにアンリと見つめ合って踊っている。どうやら無事に想いが通じ合ったようだ。アメリアはほっとした。
「オデット、全部解放すると、やっぱり目立つわね……。あの水色の髪に、ラピスラズリの瞳…………まるで、水を司る妖精みたいだわ」
「いや、アメリアの方がずっと美人だよ?」
「…………レオンは、そう言ってくれるだろうけど…………」
ここまでくると、贔屓目もすぎる。オデットは本当に絶世の美女なのだ。傾国レベルと言ってもいいだろう。
しかしレオンの目は、真っ直ぐにアメリアしか映していない。彼はいつだって本当に、アメリアだけを愛してくれるのだ。アメリアはそれが幸せだった。
「俺たちも踊ろう、アメリア」
レオンは大きな手をアメリアに差し出した。そっとそこに手を載せる。
二人はホールへと進み出て、お互いを熱心に見つめ合いながら踊り始めた。レオンの金の髪がなびき、夏の空みたいな青い瞳が輝いている。綺麗だった。
「レオン。私、貴方が大好き」
「アメリア……俺も、心から愛してるよ」
踊りながらぎゅっと抱き寄せられる。逞しい胸板に頭を預けながら、アメリアはうっとりと呟いた。
「貴方と結婚できて、本当に幸せだわ」
「うん…………俺も本当に幸せだよ」
「もう心配事はなくなったし。これからも……ずっと一緒にいてね?」
「勿論」
こうして二人は、いつまでも幸せに踊り続けた。
アメリアのお腹に、新しい命が宿っていると分かるまで、あと一ヶ月。
レオンを初めとする侯爵家の人々が、感動して大泣きするまで、あと一ヶ月である。
平和になったミストラル王国で、将軍とその褒章の妻は、いつまでもいつまでも、仲睦まじく暮らしたのだと言う。
攻略対象の将軍に褒章で降嫁したんですが、何か愛されているみたいです……? かわい澄香 @kawaiwai
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