-2- 返信
手紙を出して数日が経った。相変わらず、潮風はベタついていて、空は重い。相反するように原稿用紙は白いままだった。
ここ数日、ずっと手紙のことが気にかかっていた。謎めいた手紙に、奇妙な返信先の指定。それは非日常めいていて、小説のようだと思っていた。
退屈で、体を伸ばした。風の音だけが窓を叩く。
カタン。
郵便受けの方からの、音。──手紙の返信か?
逸る心を抑えて玄関へ向かう。扉の前で耳を澄ます。音は無い。緊張のまま、郵便受けを開けた。
青い手紙。それは、数日前見たままの。
急いで玄関を開けた。周囲に人影はない。扉を閉め直して、手紙を見つめた。
相変わらず、宛名は無い。切手もなく、おそらくは書き手がそのまま投函したのだろう。ということは、近所に住んでいるのだろうか。
慎重に封を開けた。うっすらと、潮の香りがした。
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こんにちは。お返事ありがとう。あなたは新しい人ですね。みんな返信してくれないので、うれしいです。仲良くしましょう。ながく、ながく。
かしこ
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結局、投函の理由は書かれていなかった。落胆の気持ちとともに、返信を書くことにした。
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返信ありがとうございます。
確かに、私は最近引っ越してきました。もしかして、引っ越してきた人全員に手紙を出しているのですか。あなたは近くに住んでいるのですか。もしよろしければ、会ってみませんか。
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どうしてそんな手紙を書いたのか。鬱々とした日常に対する、好奇心の発露だったのかもしれない。あるいは、人と接触せずに生活してきたことに苦痛を感じだしていたのかもしれない。
ともかく私は、また散歩ついでに灯台の下の祠に手紙を置いて帰ってきた。
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手紙 先崎 咲 @saki_03
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