青い手紙

-1- 海の見える街

 この海が見える街に引っ越してきてはじめに感じたのは、思ったよりも風がベタつくという事実だった。冬の空は重く、優雅な生活とは程遠い。


 小説は処女作を除けば鳴かず飛ばずで、運が良かったのだと気づいた時には、すでに同世代たちの人生は先に進んでいた。

 さりとて、社会人になるには遅すぎた。あるいは、文筆業のプライドでも心のどこかにこびりついているのか。だらだらと処女作の名前を振りかざして、小さな雑誌の小さなコラムで糊口ここうを凌いでいた。


 ある日のことである。郵便受けに手紙が入っていた。宛名のない手紙。青い封書。両親と出版社の他に連絡を取り合う相手もいない。ちょっとした野次馬根性。あるいは純粋興味から、その手紙を開けてみることにした。


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 こんにちは。お話しませんか。もし、お返事をくださるならば、灯台の下の祠にお手紙を置いてください。


 かしこ

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 実に奇妙な手紙だった。送り主の名前さえない。それでも、興味が勝ち、返信することにした。


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 手紙ありがとう。私でよろしければお話しましょう。なぜ、直接手紙を投函したのですか。よろしければ、理由を伺わせてください。

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 灯台は窓からも見えていた。古びた灰色の灯台。散歩ついでに寄ってみる。すると、たしかにそこには祠があった。祠の中に手紙を置いた。返信は来るだろうか。

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