第35話【ランク】

 馬車の車輪が石畳を鳴らしながら進むと、揺れとともに村の景色が少しずつ遠ざかっていく。人間の長が特別に用意してくれた馬車には、木箱に包まれた重厚な荷物がいくつも積まれており、見知らぬ土地からやってきた金兵衛の持ち込んだ道具類が独特の存在感を放っている。


 馬車に自分達の馬を使用することになったため、馬車の中には、金兵衛とルーク、ティアが座り、雑談をしており、自然と話が盛り上がっていた。昼下がりの柔らかな陽光ようこうが馬車の窓から差し込み、仲間たちの顔を温かくらしていた。


「それにしても、貴殿は随分と荷物を持ってきたな。」


 とルークが苦笑混じりに声をかけると、金兵衛は少し照れたように肩をすくめた。


「まぁ、なにが役に立つか分かんねぇからよ。少しでも必要なもんだと思ったものは全部持ってきちまったが、それにしても重すぎたな。


 それにしてもよ、こっちの国の王様は本当に性格悪そうな奴でよ.........」


 金兵衛がまた語り始めると、ルークも興味を引かれたのか、少し身を乗り出した。


「そういえば、貴殿はアーモンド王国に転移されたって言ってたな。それって具体的にはどんな状況だったんだ?」


「そうだな、自分の家から出た瞬間に気づいたら、だだっ広い豪華そうな場所に立ってたんだ。訳も分からねぇまま、あっちの王と名乗る奴が俺をじろじろと見てきたんだ。


 で、隣にいる全身真っ黒の服を着たやつが『鑑定』て呟いた後、俺のランクが低いと言われてよ、そしたら急に王が怒鳴り声をあげて、あっさり追い出されちまったよ」


 と金兵衛は苦笑しながら語る。ただ、彼も自分の価値を低く見られたことには多少の不満を抱えているようだった。


「鑑定…か」


 ルークは思わず呟いた。彼自身、鑑定スキルを使った時に新しく「ランク」という表示が出ていたことを思い出し、頭をかしげた。


「そういえば、俺の鑑定スキルにも『ランク』ってあったけど、あれってなんなんだろうな?」


 その質問に、静かに耳を傾けていたティアが、穏やかに口を開いた。


「ルーク様、『ランク』についてですが、私が詳しいと思うため、説明させて頂きます。

 ランクというのは、天使教の教会に行くことで上げてもらえるもので、ランクを上げることで、以前より見違えるほど戦闘能力が上がります。」


 ティアはゆったりとした調子で説明を続ける。


「私の知る限りでは、ランクは1から始まり、最高で7まであります。


 ランク1は一般人や一般の兵士のレベルにあたりますが、ランク2になると小隊長から中隊長レベルとなり、指揮を執る役割が増えるのです。


 そして、ランク3は中隊長から大隊長を務めるほどの実力者、ランク4はさらに上級の大隊長レベルとなります。


 ランク5になると将軍の力があり、ランク6に至っては、国に2、3人しか存在しない大将軍クラスであるとされています。


 そして、最も高いランク7は『英雄』と称され、世界においても数少ない存在です」


 ルークは彼女の説明を聞きながら、改めて彼女を鑑定してみると、表示されるランクは「5」――将軍に匹敵する強さを持つことを改めて確認した。日常では物静かなティアがこれほどの力を持っていることに驚き、そして尊敬の念が胸に広がった。


「それにしても、ランクが上がればそれだけ力も格段に上がるということか」とルークは呟き、少し複雑な顔をした。これまで自分が培ってきた戦術や策略が、ランクの力によって覆されてしまう可能性を恐れたのだ。


 特に、ランク7のような英雄と呼ばれる人たちは、一騎当千に近そうな存在になるかもしれない。そうなるといくら戦略を巡らせても、物理的な力の前には無力になりかねない可能性もある。


 自分と仲間の力を底上げする必要性を強く感じたルークは、一刻も早くその方法を探さなければならないと感じた。


「それとなのですが、魔族の地にも天使教の教会はあり、牧師の魔族もいるため、ルーク様もいずれ、教会でランクを上げられる時が来るかと思います。


 自分がランクアップできるかどうかは感覚的に分かるので、その時が来るまでは訓練や戦闘経験を積んでおくのが無難です。


 ランクアップの際は、教会にある丸い水晶を使用し、牧師が魔法を使用することで、初めてランクアップできますよ。」とティアは微笑みながら教えてくれた。


「詳細な説明ありがとう。...ところでランクアップする条件っていうのは決まっているのだろうか?」


「いえ、実ははっきりとは分かりません。ただ、兵士はある程度訓練と戦闘経験を積めばランクは上がるのですが、兵士ではない一般の人でもランクが上がったりします。」


「そうなのか.........。丁寧に教えてくれてありがとう。」


 ティアにお礼を言い横に視線を向けると、まだ話足りなそうな金兵衛が、アーモンド王国の愚痴や自分に鉄砲の素晴らしさについて次々に語りだしたため、ティアと一緒に話を聞いてあげることにした。


 馬車は村の入り口に差し掛かった。夕暮れが辺り一面を薄紅色に染め、遠くの山々は徐々に影を落とし始めていた。空にはオレンジ色の雲が浮かび、陽が沈むごとにその色合いは深みを増していく。


 辺りが静かに包まれ始める中、集落が近づくと、見張りのオーガ兵士が慌てた表情で馬車に駆け寄ってきた。その顔には明らかな緊張と焦燥が浮かび、微かに赤みがかった光が彼の表情をさらに険しく見せていた。息を荒げ、鼓動の音までもが伝わってくるかのようで、辺りに漂う夕闇の静寂を破るその様子が一層不穏な空気を漂わせていた。


「ルーク様!」


 兵士は息を整える間もなく声を上げた。


「オークの兵士たちがこの集落にやってきました!」

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異世界にオーガ転生!鑑定士のスキルと仲間全員に経験値を分配するスキルで、人間と魔族の共存を目指して戦争を終わらせる! @narimasa1129

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