第30話 エピローグ

 ――魔王討伐の8年後 エルムデールの街


「お母さん、今日も魔法を教えて!」


 屋敷のリビングで、明里あかりが唯にせがんでいる。

 唯はニコニコと笑顔で娘の頭を撫でた。


「おっけーだよ。 じゃあお庭に行こう!」


「やったー! お母さん大好き!」


 唯と明里あかりが元気よく庭に飛び出して行く。


 最近、明里は魔法の練習に夢中になっている。

 俺はいまだに魔法が使えないので、魔法の先生は唯だ。

 仲間外れでちょっと寂しい。


 庭に出ると、唯がアースウォールの魔法で大きな壁を作っていた。

 明里の魔法の的にするのだろう。


「それじゃ、昨日の復習でアイスアローの魔法を撃ってみようか」


「うん。あいすあろーー!」


 明里が可愛い声で魔法を唱えると、可愛くない威力のアイスアローが壁にドスドスと突き刺さる。

 とても5歳児の放った魔法とは思えない威力だ。


「やったー! お父さん、お母さん、見ててくれた?」


 明里は満面の笑みでこちらを振り返る。

 その笑顔は、まるで天使のようだった。


「ああ、見てたぞ。明里、すごいな。もうこんなに上手に魔法を使えるようになったのか」


 俺は、明里の頭を撫でながら褒める。

 明里は、得意げに胸を張った。


「えへへ~。お母さんに教えてもらったんだもん!」


 唯は、明里を抱き上げると、頬にキスをした。


 魔法の才能って遺伝するものなんだなぁ。

 唯からは魔法の才能が、俺からは剣の才能が遺伝したら、将来はスーパー魔法剣士になるんじゃないだろうか。


 そんな親バカなことを考えていたら、


「ご主人様、シャーロット様がいらっしゃいました」


 とメイド長のクララさんから声をかけられた。


「シャーロットが来たのか。奥の間に通しておいて下さい」


「かしこまりました」


 クララさんは一礼をして屋敷の中に戻っていった。

 どうやら久しぶりにシャーロットが遊びに来てくれたらしい。楽しみだな。


「明里、シャーロットお姉ちゃんが来たみたいだよ」


「シャーロットお姉ちゃん! やったー!」


 明里は練習そっちのけで、キャッキャッと喜ぶ。

 シャーロットのことが大好きなのだ。


 俺達は奥の間に向かい、シャーロットと合流した。


「こんにちは、アキラ。ユイも明里ちゃんも、お久しぶりですわ」


「シャーロットお姉ちゃーん!」


 シャーロットに明里が飛びつく。


「明里ちゃん、魔法の練習をしてたのね。どんな魔法を使えるようになったの?」


「シャーロットお姉ちゃん見ててね!」


 明里はそう言うと、中庭に走って行ってアイスアローを放った。

 鋭い氷の矢が宙を舞い、土の壁に突き刺さる。


「まぁ、すごいわ明里ちゃん! もう立派な魔法使いですわね!」


「えへへ、ありがとーお姉ちゃん」


 シャーロットに褒められて、明里はとても嬉しそうだ。


「明里はこの前、レベル20になったんだよ。そろそろBランク冒険者とでも渡り合えるんじゃないかな」


 唯がそう言うと、シャーロットは驚いた表情を見せた。


「将来有望すぎるわね……」


 レベル20ぐらいではまだまだ心配だ。

 早くレベル50くらいになって、魔王にも負けないくらい強くなって欲しい。


「そろそろお昼の時間だね。シャーロットも一緒にどう? 今日はメイドさんに和食を作ってもらってるんだよ」


 唯がそう提案し、俺達は一緒に昼食を取ることにした。


 うちのメイドさん達には、唯から日本の調理技術を伝授している。

 だからうちの食事はとても美味しく、大抵のお客さんから絶賛されるのだ。


 みんなでテーブルを囲み、和気藹々とおしゃべりしながら食事を楽しむ。

 幸せなひと時だった。


 食事を終えた頃、クララさんが今度はブラッドリーさんが来訪したと告げに来た。


「ブラッドリーさんが来たの? 何かあったのかな?」


 唯がいぶかしむ。

 ギルドマスターがわざわざやって来たということは、それなりの何かがあったんだろう。


 俺達はブラッドリーさんを応接間に通し、事情を聴いた。


「アキラ、ユイ、仕事だぜ。王都からの指名依頼だ」


 ブラッドリーさんから依頼書を受け取る。

 何でも王都近辺にサイクロプスの群れが現れたらしい。

 Aランクの指名依頼で、依頼者はソフィアとなっている。


「ソフィアからの依頼なら問題なさそうだな。唯、これ引き受けていいかな?」


「うん。引き受けよう。明里も一緒に行く?」


「うん。行く!」


 普段は屋敷で子育てをしながら、時々冒険者の仕事をする。

 とても充実した日々だ。


 日本と比べて不便なことは一杯あるけど、こっちの世界には唯と一緒に自由に暮らせる日々がある。


 この世界に来て良かった。

 これからも唯と一緒に、明里と一緒に、街のみんなと一緒に、この街でまったりと暮らしていこう。


 ~ おしまい ~

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可愛い妹のためなら、異世界で魔王を倒すくらい朝飯前です。 さきがけ @sakigake2029

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