腹痛キャット
「勝江とミヨであったな、火車から話は聞いておる」
「はい、よろしくお願いします。タマちゃん」
「な~ぁ」
「うむうむ。それと……久しいの、ミヤ?」
「フシャーッ」
猫さんはミヨちゃんに抱き抱えられながら毛を逆立ててタマちゃんに威嚇していました。
「ミヤ……猫さんのことですか?」
「うむ。そやつは
「ふん……思い出したわ思い出したわ、その憎ったらしい顔でな」
タマちゃんとミヤさんは遥か昔、さる徳の高い僧侶に飼われていた猫さんなのだそうで、なんと長生きして猫又になったそうです。そして僧侶が亡くなった際、二匹とも神獣として召し上げられたということです。
「あっちは福を招き癒しを与える神として」
「ワシは厄を喰らい祓う神として」
「ま、主様のもとでの生活がそのままご利益になったわけじゃの。あっちは寺にくる客を可愛らしい~仕草で癒しておったし、そやつは寺に巣くう鼠や虫を取っておったのじゃ」
「ふん……だからワシはそやつが好かんのじゃ。誰彼構わずゴロゴロ喉を鳴らしおって……」
「そうかえ? あっちはお主のことも好いておるよ」
「……ふん」
タマちゃんが言うにはミヤさんがミヨちゃんに憑いてしまったのは名前が似ているからだろうということです。
「ミヨもおそらく“美夜”と書くのじゃろう。名が縁となり祠を壊してしまったおり、くっついてしもうたんじゃな」
「なるほどです」
「な~ぁ」
「あの、ところで……」
私はふと思い付いたことを聞いてみることにしました。
「ミヤさんはなぜ祠に封じられていたのでしょう? 厄を祓う神様なんですよね?」
「くくっ、それはじゃの」
「な! タマ! 言うでない! 言うでないぞ!」
「まぁよいではないか。ミヤはむかしっから毛玉を吐き出すのが下手っくそでの? 毛玉が溜まるたび主に背中を叩いてもらっておったのじゃ。 その癖が神になってからも抜けぬで、溜まった厄の滓を吐き出せんと腹痛を起こしおって……くふっ、もがいて暴れまわったところを退治されて封じられたんじゃよ」
「それは……なんとも」
「な~ぁ」
「~~!?」
あぁ、ミヤさんがプルプル震えていらっしゃいます。人間なら耳まで真っ赤に染まっていることでしょう。穴があったら入りたいというやつです。
タマちゃんもカラカラとたいそう愉快だと大笑いしています。
ひとしきり笑うと涙を指で掬いながらタマさんが切り出しました。
「すまぬすまぬ。さてさて、それでミヨのことじゃったな」
「はい、なんとかなるでしょうか?」
「家に帰すだけなら造作もないの」
「本当ですか!? 良かったですね、ミヨちゃん」
「な~ぉ♪」
「……」
タマちゃんは一旦キセルを吹かして煙をぷぅっと吐くと少し声を落としました。
「じゃがその前にミヨからミヤを引き剥がす必要があるの」
「あ、そうでした。それもタマちゃんなら出来ますか?」
「うむ。出来るには出来るが……今のままではミヤが消えてしまうかもしれん」
「え……」
私はミヨちゃんに抱かれて黙ったままのミヤさんに思わず目を向けるのでした。
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