頭痛キャット
「それでは猫さんに質問です」
「む?」
エスプレッソを飲み干すと私はポンと手をうち、メモ帳を取り出します。お家に帰すにも知らなければならないことがたくさんです。
「猫さんの祠はどこにあるんですか?」
「わからぬようになった、壊れたからの」
「……何県とか」
「わからぬ、なんじゃ県って」
「ミヨちゃんの家はどこでしょう?」
「わからぬ」
「なぁ~」
「オーマイキャット。いきなり打つ手無しです」
これは困りました。一番肝心な場所がわからないとなるとただのOLの私には打つ手がほとんどありません。
「な、何かわかることは……」
「そうじゃな……ワシの祠は森の中にあったの」
「情報が少ないっ」
「おぉ、そうじゃ。ミヨはたしか帰省中であったの。他の童子と森に遊びに来とる最中にワシの祠を蹴飛ばしたのじゃ」
ということは、猫さんの祠の近くにはミヨちゃんの家は無いということです。さらに状況が悪くなった気がします。
「ところでミヨちゃんはどういう状態なのでしょう?」
「む?」
「親御さんが心配して探していたりとかすると思うのですが」
私はふと思い浮かんだ疑問を猫さんに投げ掛けます。
ミヨちゃんはパッと見、10歳前後。今は11月半ばで祠を壊してしまってからもう3ヶ月です。普通なら行方不明で警察が動きそうです。
ですが、地下鉄で見た異様な景色がミヨちゃんが普通の状態で無いと示していました。
「そうじゃなぁ……ミヨは一種の神隠しにあっていると言えような」
「神隠し……」
「左様、ミヨはワシと混じり人の世と神の世、その境の存在になっておるのじゃ。お主のように知覚できるもので無ければ知覚できず、人の記憶からも徐々に忘れられような。ミヨの親御も、ミヨという子がいたことすら忘れておるだろう。そのうち完全に神の世の存在になってしまうじゃろう」
「そんな! まずいじゃないですか!」
「だからこそワシも早くミヨを人の世に還してやらねばと思っておる」
「むむむむ」
こうなると警察や探偵を頼るのも難しそうです。
八方塞がりかと思ったその時、カランカランとドアベルが鳴り、喫茶店にお客さんが1人やってきました。カウンター席に座ったおじさんの頭には三毛猫が一匹乗っています。
「猫……あの猫!」
「む、お主あやつらも視えておるのか?」
「はい、
「なんじゃその頭の痛くなるような名前は」
「頭痛キャットさんは頭痛キャットさんですよ! ってそうではなくて、頭痛キャットさんはそこら中にいるじゃないですか。猫さんからミヨちゃんのことをあの子達に尋ねたりできませんか?」
私は名案だと猫さんに提案します。ところが……。
「ぃやじゃ」
「え?」
「いやじゃと言うた」
「なんでですか!」
「ワシ、あやつらとは仲が悪いんじゃもん」
「えぇ……」
「どうしても尋ねたいならお主が尋ねればよかろ、ほれ」
「え、うわわわ」
わがままを言う猫さんに私が呆れていると、猫さんの尻尾が複雑に宙を走り何か印のようなものが浮かび上がります。それが私の額に吸い込まれていきました。
「それであやつらにも触れるし言葉もわかるはずじゃ」
「お、おぉ! おぉおお!」
なんということでしょう。いま猫さんはなんと言いましたか? 今まで視ることしか出来なかった頭痛キャットさんに触れる? しかも言葉がわかる? ヤバすぎます! 素敵過ぎます!
「ちなみに猫さんに触ったりしてもいいですか?」
「ダメじゃ」
「ケチです……」
「はよ尋ねてこんか」
「あ、そうですね」
よし、と気合いを入れて私はカウンターのおじさんの頭上の三毛猫さんに近づきます。
「あの~、すいません」
「え? 何ですか」
「なんにゃ?」
「はぇ?」
思わず間抜けな声が漏れました。
だって声をかけたら三毛猫さんだけじゃなくおじさんまで返事を返してきたのです。
「あ、えーと……ひ、人違いでした!」
私はおじさんにペコペコと謝り、慌ててテーブル席に戻ると猫さんに詰め寄ります。
「普通におじさんにも気づかれたんですけど!」
「それはそうじゃろ。お主は人の世の存在なんじゃし」
「……あれ? じゃあ今の私って何もない空間に話しかけてるように見えたりしてます?」
「そうなるじゃろうな」
チラっとカウンターの方を見れば、喫茶店のマスターとおじさんがこちらに変なものを見るような目を向けていました。
「オ、オーマイキャット!」
私は急いでミヨちゃんの手を掴むとお会計を置いて店を飛び出すのでした。
頭痛キャット 雪月 @Yutuki4324
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