私と神棚のお猫様
花沫雪月 (元:雪月)
頭上キャット
私には猫が視えるのです。
え、当たり前? それはその通りですね。
私も当たり前のことをわざわざ言ったりはしません。
なので、私に視える猫は当たり前の存在ではありません。
霊的存在、といえばいいのでしょうか?私が視える猫には実体がありません。加えてどういうわけか他人の頭の上に乗っているのです。
しかもどうやらこの猫達はあまり良い存在ではないようで。頭痛のタネといえばいいんでしょうか? ただ頭が痛い人の頭には白猫が、悩みがある人の頭には三毛猫が乗っているのです。
頭痛の酷さや悩みの大きさによって猫のサイズや数が変わるみたいで私が視た最高記録は三毛猫6段重ねでした。その方は総理大臣だったのでさもありなんという感じです。
猫が頭痛や悩みを引き起こすというよりは、頭痛や悩みがある人には猫が乗るようで。白猫を乗せた友人に頭痛薬を上げたら白猫は“な~ぁ”と鳴いて飛び下りていきました。
そんなわけで私、
しかし、そんな平穏は今しがた開いたドアから乗り込んできた異物によって脆くも崩れ去ってしまいました。
それは小さな女の子でした。おかっぱ頭に黒ぶち眼鏡、黒いぶかぶかのパーカーが膝辺りまで隠しています。
おかしいですよね? 今は大の大人ですら涙ぐむ出勤タイム。そんな小さな女の子の全身が見えるわけが無いんですよ、普通。その女の子の周りはなぜかぽっかりとスペースが空いていました。まるで無意識に離れたくなる存在であるかのように。
先ほどまで埋まっていた私の目の前の座席も一気に3人分スペースが空いてしまい、その真ん中にチョコンと女の子が座ります。私はつり革に捕まって女の子を見下ろすような形になりました。
私が女の子から目が離せないのは、その異様な雰囲気と何より、その女の子の頭の上には……真っ暗な闇色の黒猫が乗っていたからでした。
猫が視える歴=人生の私ですが、黒猫を乗せた人は初めてです。なのでこの黒猫が何に由来する猫なのか全くわかりませんでした。
おまけに猫の尾っぽは二又に分かれていてゆらゆら揺れていました。
黒猫は何かヤバげな存在なのかとか、真っ暗な中に浮かぶ金色の瞳が美し過ぎる! とか、別々に揺れる尾っぽがプリチー! とか目の前の黒猫に思考のほとんどを持って行かれていた私は揺れる尾っぽを目で追っていたようでした。
「おい、お主。もしかしてワシが見えるのか?」
「え? はい」
「そうか! やっと、やっと見つけたぞ!」
ふいにかけられた可愛らしい女の子の声に思わず素で返してしまった私は数瞬後にその声が女の子ではなく、頭の上の黒猫から発せられたのだと気づきました。
じっとこちらを見つめる金色の瞳と目が合い私が固まっていると猫の下のおかっぱの女の子が大あくびと共に“な~ぁ”と猫そっくりの鳴き声を出すのでした。
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