第4話 常連客
そういえば、僕は、ふと回想する。
この店で、毎日午後から、美味しそうにグラスビールを飲み、食事とおしゃべりを楽しんでいたおばあさんは、一体、どうしたのだろう。
かつて、おばあさんも、僕の事は覚えていて、やがて仲良しになった。僕は、よく、おばあさんに、ハムの盛り合わせやチーズセットをごちそうしてもらい、戦争体験談を聞いた。
「東京で空襲の時に、あたしは大いびきをかいて眠っていたのよ。家族は防空壕に逃げ込んでね。あたしは眠っていた。あたしは楽観的なのよ。ほほほほ。」
おばあさんは笑った。
「おじいさんは20年前に亡くなってね。あたしは93歳になるよ。子供たちと孫たちは出て行ってしまって、今は、一人暮らしよ。」
おばあさんは語る。
街角で、僕は、おばあさんにばったり出会った時もあった。おばあさんは、顔をほころばせて喜ぶ。
「あたしは、今、畑の帰りよ。これからうちに帰ってお風呂に入るのよ。あんたは、また、「ゴドス」に行くのかい?」
「ええ、腹ごしらえをしてきます。」
なんて、僕とおばあさんは、お喋りしたっけ…。
僕は、プリンを平らげると、水を飲んで伝票を持ってレジに向かった。そして、ウエイトレスさんに尋ねた。
「いつも来ていたおばあさんは、どうしたのですか?ビールをいつも美味しそうに飲んでいたけど。」
「ええっ、知らなかったの。実は、今年の5月のゴールデンウイークに亡くなったのよ。93歳だったわ。」
「そうかー。やっぱりね。いつも僕がコンビニに行く途中で、おばあさんの邸宅の前を通ると、誰か男の人が庭を手入れしているから。」
「うん。亡くなった旦那さんの弟さんが来て、後片付けをしているのよ。いいおばあさんだったから淋しくてね。」
ウエイトレスさんは、悲しそうな表情をした。
「そうだね。明るくて、いいおばあさんだったね。淋しいね。じゃあ、また、ここに来ますね。」
「お気お付けて。体を大事にしてね。」
僕は、店を出た。玄関にコーヒー殻の入った灰皿があったが、いつもは一服するのだけど、今日は素通りした。
夫婦経営「ゴドス」は、出会いもあれば別れもある、素敵なイタリアンレストランだった。今日も、僕が、コンビニに行くときに横を通る「ゴドス」の駐車場には、色とりどりのたくさんの車が止まっている。
夫婦経営レストラン「ゴトス」 トシキマイノリティーライター @freeinlife
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★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2話
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