第2話 公式は自分で作れる
深月にとって終わりのチャイムは目覚まし時計。うーん、と腕を伸ばして欠伸する。
「深月、さっきの解き方おもしろかった。他にもなんかない?」
聞くと深月はオレの席の方に体を向けて、
「ないことはないけど、なんか書くもんある?」
オレが差し出したノートの端に深月のまるっこい数字が並ぶ。見かけによらず可愛い字だなといつも思っているが、そんなこと言うと殴られそうだから黙っとく。
「さっきのと大して変わるもんじゃないけど、こういうのもありかなと思う」
深月は言って、シャーペンを動かす手を止めた。
(2+5)(30+6)
「うえ、なんか( )が増えてる……」
「でもこれ、見た目が違うだけで7×36と同じことだぞ」
「え? ああ、7を2+5って書いただけか」
「そういうこと。( )が増えても同じようにひっ算できんのかなあって気になってやってみた」
「できたのか?」
「うん」
「どうやって?」
(2+5)
×(30+6)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
6×5=30
6×2=12
30×5=150
30×2=60
「足して252」
「さっきと同じ答えだ」
「これを文字に置き替えると、こうなるだろ?」
(a+b)
×(c+d)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
db+da+cb+ca
「このままでもいいけど、できればアルファベット順にしたい。それぞれの要素はかけ算だからdbをbd、da を adって計算しても答えは同じ。つまり入れ替えてオーケー。cbとcaも同じように入れ替えて」
bd+ad+bc+ac
「足し算も入れ替えて計算しても答えは変わらないからアルファベット順に並べ替えてオーケーってことで」
ac+ad+bc+bd
「 (a+b)(c+d)= ac+ad+bc+bd 」
「なんか公式っぽいな」
「ぽいじゃなくて、これは公式だよ。俺たちは今、自分たちで公式を作ったんだ」
いやオレは何もしてないけど、と思いつつ、オレの自慢の友達が何かすごいことを成し遂げたような気がしてオレの胸は高鳴った。
「でもさ、深月。公式って自分で作れるものなのか? 教わって覚えるもんだと思ってた」
「作れるよ。この世に存在する公式はどれも人が作ったものなんだ。俺たちに作れないって決まりはない」
そう断言する深月はめちゃかっこよかった。
深月くんの斬新な数学 あしわらん @ashiwaran
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