第8話

 文也さんとお付き合いするようになってから、四ヶ月が過ぎました。


 四月も中旬になり、季節は春になっています。下旬に入ったら、初夏で。わたくしはゴールデンウィークになったら、文也さんと二人で二泊三日の旅行に行こうと話し合っていました。けど、わたくしも三十九歳になっています。早めに結婚を考えないと、四十になってしまいますし。焦りの気持ちが日増しにに大きくなっていました。


 今日も弟一家が来店しています。弟の章、奥さんの次美さん、息子の哲哉君、娘の捺月ちゃんの四人が窓際の席にいました。章や次美さんがホットコーヒー、哲哉君はオレンジジュース、捺月ちゃんも同じ物を飲んでいます。

 ちなみに、文也さんもカウンター席の端っこにいました。


「それにしても、智津ちゃんに彼氏ができるとはな。まあ、俺としては一安心だけどさ」


「うん、本当にね」


「智津ちゃん、結婚は考えていないの?」


「……いきなりね」


「まあまあ、すみません。智津子さん」


 慌てる次美さんをよそに章はわたくしをじっと見つめます。仕方なく、答えました。


「いいわよ、あまり気にしていないから。そうね、考えてはいるわ」


「へえ、智津ちゃんも早めに彼氏さんには言っといた方がいいぞ。あっという間に四十になっちまうからな」


「さすがに言い過ぎだよ、章。ごめんなさい、智津子さん」


 次美さんが謝ると、わたくしは曖昧に笑いました。


「気にしていないわ、むしろ心配を掛けていたのね」


「まあな、智津ちゃんはさ。彼氏さんと結婚した後はどうするつもり?」


「……私は。続けていきたいと思っているわ」


 そう言うと、文也さんがこちらをじっと見つめているのに気がつきます。ちょっと、気まずくなりました。


「……あ、章。もう、そろそろ帰ろうよ!」


「うーむ、そうだな」


 二人は立ち上がると、哲哉君や捺月ちゃんをそれぞれ抱き上げます。お会計を手早く済ませて帰ってしまいました。

 後にはわたくしと文也さんだけが残ります。しばらく、沈黙が降りたのでした。


 一時間もしない内に文也さんは端っこから、立ち上がります。そのまま、こちらへやってきました。


「智津子さん、その。章君が言ってた事だけど」


「うん」


「俺さ、智津子さんとはゆっくりで良いと思ってた。けど、智津子さんも俺も良い年だし。結婚、そろそろ考えていきたいな」


 わたくしも口をつぐみながらも考えます。どうしたものやら。それでも、答えました。


「文也さん、分かった。しよっか、結婚を」


「うん、一人だけだと色々と大変だろ?」


「そうね、文也さんが手伝ってくれたら。大助かりだもの」


 笑いながら言います。文也さんも照れ笑いをしながらもわたくしに片手を差し出しました。自身からも、右手を出します。意外と強い力で握られました。

 しばらくはそうしていたのでした。


 それからはてんてこ舞いの忙しさになります。ゴールデンウィークになり、旅行に行きましたが。ここまでは良かったんです。

 帰って来た後、双方の両親に挨拶に行きました。まずは文也さんのご両親、次にわたくしの両親となります。文也さんのご両親もとい、義両親は好意的に迎えてくれました。

 義父も義母も文也さんがなかなか、彼女さんを連れて来ないから心配していたと言っていて。ちなみに、文也さんのお兄さんや奥様にも会わせてもらいました。お兄さん夫妻は既に、高校生になる娘さんと中学生になる息子さんがいるとか。

 また、来たら挨拶してほしいと言ってくれたのでした。


 わたくしにとって、難関だったのは実の両親です。父や母と会うのは十数年ぶりになりますが。緊張しながらも文也さんと二人で実家に向かうのでした。

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喫茶店〜sea ​​cove〜 入江 涼子 @irie05

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