song 004

僕は1年3組だった。

シドは久保海斗と同じ1年4組だった。


もちろんシドは入学初日に生活指導を受け紫色のパンクヘアを正された。


意気消沈したシドが翌日、真っ黒に染めた髪で通学したんだ。


そして、シドと久保海斗との初接触はその日その朝、真っ黒になったシドの髪を事を見て、


「似合うじゃん。」


と言われ、サッと肩を叩かれたらしい。


シドは、入学式の日にイキり過ぎて、調子に乗って、そしてあっという間に正された自分が恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがなかった中、朝一番に放たれた久保海斗の言葉に救われたのだと。

その一言があったおかげで自分がクラスの腫れ物にならなくて済んだのだと。そう言っていた。


それから4日が過ぎた。


1年3組は、4組と合同での体育の授業だった。


体育は男女別の授業で、1年3組で男子が着替え、1年4組で女子が着替えていた。


尚、教室のドアのガラス部分はジャージをかけることで目隠しをし、バルコニー部分は『誰も覗いてはならない』という紳士協定のみというザルセキュリティだった。


しかも、4組の連中からしたら、自分の机で女子が着替えているのだ。


今の時代ならスマホひとつで……なんて想像したりもする。


話を戻す。


シドと一緒に体育の授業の着替えをしているときに驚きがあった。


久保海斗がブレザーを脱ぎ、ネクタイを外し、パリッとしたワイシャツを脱いだときだった。


久保海斗が着ていたのは、LONDON CALLING/The ClashのTシャツだった。


僕とシドは目を見合わせた。


モーニング娘。の全盛。

ロックが好きだと言えば、

「L'Arc~en~Ciel派?GLAY派?」と言われた時代。

そんな時代の高校生がThe Clashなのだ。


これをシドが見逃すはずがなかった。


「久保海斗くんだよね?放課後少し話さない?」


シドの積極性には感心する。

自分が相手を求めるとき、シドには躊躇がない。


久保海斗、僕、シドの三人で学校が終わった後、学校のすぐ近くの天竺てんじくという昔ながらの中華料理屋で飯を食いながら話すことになった。


この天竺は、気のいいマスターがいるお店で、今では信じられないがぼくたちのようなちょっとヤンチャそうな吉祥寺南校生がくると「おうっ」といって奧の個室座敷に通してくれるのだ。


そこで、すっと灰皿をもってきてくれるという気の使いよう。


僕とシドは入学二日目の昼休みに来てから、まだ入学五日目だというのにもう常連と化していた。


久保海斗は天竺にくるのは初めてだったみたいだ。

それはもちろん。彼は、力強い目をしていて、往年のエロール・フリンのようなエレガントな雰囲気がある。そんな久保海斗にとってはヤンチャなやつらのたまり場は無縁のことだった。


そして、座敷に通されて、名物のカレーラーメンを3つ頼んだところで、春休みに煙をすいはじめたシドが、まだまだなれない手つきで煙草を取り出し、慣れたような雰囲気をだしながらたどたどしく煙草に火をつけて話し始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

稀代のボーカリストと凡庸なロックバンドの記録。僕が忘れてしまう前に。 ミサト テルヤ @sakaioffice351

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ