とけこむ者たち

釣ール

人助け演技

 人間は助けをもとめて生きている。


 妄想ではなく現実を生かされている以上は生きている限り人は何らかの助けをもとめ、比較し続ける人生を死ぬまで送るしかないと洗脳せんのうしながら。


 これから人間は減り続けてくれる。

 何回も同じことを繰り返しすぎているくせに堂々と支配者を気取っているからこうなるんだ。


 逃げ場も居場所もなにもかも選択肢にしたっていつかは消える。


 ま、こちとら人間じゃないからどうでもいい話しだが人間や他の生き物、植物たちの『ルール』を研究しながら生きていくのは面白い。


 人間がいだく割に合わないのに手が届かない理想と現代で売られている誰かをはげますつもりで搾取さくしゅしようとする本も、インターネットで流れる話も全て人間が人間どうし支配を続けるための仕事になってしまった。


 ほっといても死んでいく人間のやり取りを見続けても退屈たいくつだ。


 を使える今のうちに少しだけ手を貸してみるか。


 たまたま通りかかった街の裏路地ろじうらでは

 ディストピアに耐えられない人間が弱いものを見つけてプレイをしている。


 今どきそんなこと人間はしないって?

 人間は多面的ためんてきかもしれない。

 でもかくせない野生の遺伝子いでんしに誰も逆らえない。


 ほら、声が聞こえる。


「うあっ。 や、やめて、ください……」


「金を渡せ。 お前みたいなやつを見ると殴りたくてしょうがない」


 ほらな理不尽りふじんだろ?

 馬鹿にしてるわけじゃない。

 十人もいればそのうちの一桁ひとけたにルールに必ず耐えられない人間がいる。


 それもおろかなことじゃない。

 むしろラッキーだ。


 人間が作る娯楽でよくみたシーンを実際にみるのは人間ではないおれ達からしても気持ちのいいものじゃない。


「ぐっ。 」


 殴られて倒れる十代後半か半ばの少年。


「う? なんだお前は? この事は誰にも……うっ、あっ」


 こうもろいとおれもこいつらと変わらないな。

 できるだけ人間を減らすためにもやらないといけないことだからこそ。


「さて割れ目へいれるか」


 気絶きぜつさせた人間を空間の割れ目へほうり込む。


「うずくまってるお前。 この事を思いっきり拡散してほしい。 でも約束だ。 詳細しょうさいはおれが指示をする 」


 少年からおれの事を通報されるか固まったままでいるかと思えば恐れと感謝の目で見上げていた。


「あ、あなたの個人情報を守って、いまさっき助けてくれたことをあなたの言う通りに伝えればいいんですよね? 」


 それもまた怖いな。

 ここは言い方を変えよう。

 おれが人間じゃないと怪しまれる前に。


「あの空間も種と仕掛けがある。 もちろん企業秘密きぎょうひみつだから言わない。 おまえを殴った人間はもとの家にもどってさっきまでのことを完全に忘れている。 それでもおれに殴られたやつは永遠に自分が殺される悪夢を見続ける。 そうでないと罪悪感ざいあくかんってやつが産まれない」


 少年はとくに何かうたがうこともなく、一言だけ質問をした。


「もう殴られない? 」


「あの人間からはな。 他のやつは知らないが」


 すると少年はだまったまま嘘の救世主物語きゅうせいしゅものがたりをインターネットで発信してくれた。


「さっき殴ってきた人はあなたの仲間じゃない?」


 まさか。


「誰が人間なんかと手を組むか」


 少年はその時だけ笑って『ありがとう』とまだ痛む腹をささえて裏路地うらろじから出ていった。


「たまたま起きたトラブルを解決と。 これでおれがただものじゃないと分かった彼はおれと関わるのをやめ、元の場所へ帰った人間はおれの幻影げんえい毎夜まいよ苦しむことになる」


 今日の夜から唐突とうとつに少年を殴ったさっきの人間へダメージをあたえる。


 そうやってじわじわと人間たちに恐怖をうえ付けて数を減らしてやるよ。


 また面白そうな人間を探す必要は出てしまったが。


「これも仲間たちを守るためだからこそ……か」


 人間との共存きょうぞんをしっかり経験しておけば、おれ達もまた次の世代か次の生き物におんを売れる。


 どうせ人間達はこれ以上の発展はってんをすることはない。


 それでもあの少年がまた困ったら助けてしまうかもしれない。


 少年への恐れを忘れてはいけないな。

 なんだってリスクはあるからさ。



【完】

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