テクニックはパッションの助詞にしかならない。
- ★★★ Excellent!!!
アントン・チェーホフ。
44歳にして早逝するまでの間に、数多くの劇、短編小説を仕上げた、世界的に有名なロシア人作家である。
この作品ではチェーホフの代表作「かもめ」の随所より台詞を取り上げ、背景の説明をしている。
その一節一節には、なるほど、お洒落でどこか人の機微を感じさせるものがある。
しかし、文章のどこにその理由があるのかが分からないのだ。
どこにも掴みどころがない。だが、実際に目の前にある。
読み進めるとそういったもどかしさを何度も経験する。
少なくとも自分にはとても真似できないと感じられてくるのだ。
どうしてかを考えた時、恐らくこれらの台詞は特別な意図、テクニックをもって描かれたものではないからだと思った。
「小説」を愛した人が技巧を尽くして描いた作品よりも、「人」を愛した人の平易な作品の方が面白いことがある。
プロット、伏線、整合性、レトリック。それらは確かに作品を強固にし奥深さを与えるだろう。
しかし、それらは皆、パッションを飾るための助詞でしかないのだと思った。
極端な話、「私 あなた 愛」だけでも人はその内容を把握し、感情を読み取ろうとする。
これらの台詞達からは、空回りする人物達のパッションが伝わってきた。
だからこういった作品に「結局作者は何を伝えたかったのか」という問いをするのは、いささか無粋なのかもしれない。