ダンジョンと胸の高鳴り

「アルスくん起きてください。ご飯できましたよ。」

僕はそんな声を聞きベッドから上体を起こし寝ぼけ眼を擦りあくびを一つ。部屋から出ると美味しそうな朝食がテーブルに並んでいた。

「おはようございますアテナ様。なんだかとても豪華ですね。」

「おはようございます、アルスくんの冒険者生活の始まりなんですから当然です!」

アテナ様はそう言って、僕に席に着くよう促す。

「アルスくん、昨日私が言ったことは覚えていますね?」

「もちろんです。サテラさんの説明をよく聞くこと、それとダンジョン内では慎重に行動すること 、ですよね?」

僕がそう問いかけるとアテナ様は、上出来と言わんばかりに笑顔で頷いてくれた。

「では、朝食を済ませたら一緒にギルドに向かいましょうか。私のバイト先はギルドの近くにありますし、勤務時間までまだ少しありますので。」

アテナ様はそう言うとまた朝食に手を付け始めたので、僕も朝食を摂りはじめた。

そして朝食を食べ終え諸々支度を済ませギルドまで向かう。

ギルドに到着し早速サテラさんから、ダンジョン探索における基本的なルールや注意などを一通り説明を受けた。

「説明は以上となります。ご不明な点などありましたでしょうか?」

「いえ、とてもわかりやすかったです。ありがとうございます。」

僕がそう言うとサテラさんは、こちらこそ真剣に聞いてくれてありがとうございますと、笑顔で返してくれた。

その後すぐサテラさんは、大事なことを忘れていましたと言い僕に一本の短剣と軽装の防具を手渡してくれる。

「こちらはギルドからレベル1冒険者に支給される装備一式になります。」

説明によればこの装備はダンジョン10階層レベルなら問題なく使用できるほど質の良いものらしい。装備を買う手間とゴルドが省けてとても助かる。

「アルスくん、早速装備してみてくださいよ。アルスくんの晴れ姿見てみたいです!」

アテナ様からそう言われ早速支給された装備を着てみた。

「アルスくんとても似合っていますよ!ねっ?サテラもそう思うでしょ?そうよね?」

アテナ様は有無を言わせぬ圧力でサテラさんにそう問う。

「は、はい!とても似合っていると思います!」

若干言わされた感が否めないが、こうも似合っていると言われるととても嬉しく感じる。

それから少し談笑をしてからついにダンジョンへと向かうことに。

「アルスくん、私もそろそろバイトに向かう時間です。どうか無事に帰ってきてくださいね?」

アテナ様が心配そうに僕を見つめながらそんな言葉をかける。

僕はアテナ様の心配を取り払うように笑顔でこう答える。

「大丈夫ですよアテナ様。僕は貴方に貰った恩を返すまで死ぬつもりはありません。それに、こんなに幸せな生活手放すなんて勿体ないですからね!」

その言葉を聞いてアテナ様は安心したのか、行ってらっしゃい!と笑顔で僕を送り出してくれた。

「行って来ますアテナ様!」

そう返事をしてダンジョンの入口の扉の前に立つ。

そして、ふぅー、と一息深呼吸をしてダンジョンに足を踏み入れた。

「ここがダンジョン。僕、本当にダンジョンに挑戦してるんだ。」

貧民街にいた頃はお伽噺の世界だと思っていた。でもこうして実際にダンジョンに挑戦していると思うと、胸の高鳴りが止まらない。

「とりあえず少し奥に進んでみよう。鉱石や薬草なんかが手に入るかもしれないし。」

すると、少し進んだ先で薬草の群生地を発見した。

「あった!とりあえずここ一帯に生えてる薬草を回収してもう少し先に進んでみようかな。」

一帯に生えた薬草の回収を終え、壁掛けの松明の灯りを頼りに奥へ進んでいく。

「いた、あれスライムだよな。」

すると、前方にスライムが一匹いるのを発見、まだこちらに気づいている気配はなかった。

すぐに岩陰に隠れ、モンスターリストを確認し特性や行動パターンを把握し、スライムへ向かって駆けていく。

僕の足音にスライムも気づき、即座にこちらをめがけ溶解液を吐き出してくる。

スライムと距離があったおかげで、溶解液を余裕を持って躱し一気に距離を詰め短剣で両断する。

こうして、僕の初めての戦闘は少しの高揚感と呆気なさを感じなから幕を閉じた。

「ふぅ、勝ててよかった。これが、スライムのドロップアイテムか。」

先ほど倒したスライムからドロップアイテムとしてスライムゼリーを入手することができた。

ドロップアイテムを袋にしまい、さらに奥に進む。

「これが二階層に続く階段か。」

階段を降りて二階層へ。

「一回層とあんまり違いはないかな。これならもう少し進んでも大丈夫そうだな。」

さらに奥に進むと、スライムが三匹群れをなしていた。

「いきなり三匹なキツイかな。でも奥に鉱石があるしう~ん……行くか。」

スライムの群れに挑む覚悟を決め、先ほどと同じようにスライムの群れへと駆けていく。

同じように溶解液が放たれ、一発、二発と躱し、三発目を躱そうとした瞬間、溶解液を放ち終わったスライムがこちら目がけて突進してくる。

咄嗟に短剣を突進してきたスライムに向かって突き刺したのだが相打ちになってしまい後方に吹き飛ばされてしまう。

かなりの勢いで壁に身体を打ち付け一瞬息が止まる。

その時、命を危機を感じたからなのか異常なほどの速度で心臓が脈を打つのがわかる。

それと同時に身体が燃えるように熱くなり、感覚が研ぎ澄まされたように感じる。

僕は、再び駆けだしスライムに向かっていくのだが、先ほどより数段速く動けているのか、一瞬でスライムの目の前まで来ると二匹同時に短剣で両断。

乱れた息を整えドロップアイテムと鉱石を採取して今日は引き返すことにした。

こうして、僕の冒険書として初めてのダンジョン探索は終了するのだった。

ギルドに戻り採取したアイテムを換金してもらうために受付へと向かいサテラさんに声をかける。

すると、サテラさんは驚いた顔をして、その傷大丈夫ですか?と訪ねてきた。

どうやら、スライムに吹き飛ばされたときに少し出血してしまったようだ。

「全然大丈夫ですよ、ピンピンしてます!」

僕がそう言うと、サテラさんはそれなら良いんですが、と言って今回の報酬のゴルドを手渡してくれた。

「今回の報酬、3万5千ゴルドになります。」

「こんなにたくさん!もらっていいんですか?」

スライムのドロップアイテム4つと鉱石と薬草だけでこんなにもらえるとは思っておらず、僕は、つい聞き返してしまう。

「はい、その金額で間違いありません。ドロップアイテムは等級が低くてもかなり高値で換金できるんですよ。命をかけているのですから当然といえば当然ですね。」

「ありがとうございます、アテナ様も喜んでくれると思います。明日もがんばります!」

「ふふっ、そうですね。でも、アテナ様にとってはアルスさんが無事に帰ってきてくれたことのほうが喜ぶと思いますよ?あの方とても心配性ですから。

アテナ様ももう仕事を終えていると思いますから、

早く顔を見せてあげてください。ではまた明日お待ちしていますね。」

僕は、サテラさんに別れを告げ足早に家に向かう。

そして、扉を開けた瞬間、アテナ様に思いきり抱きつかれてしまった。

「アルスくんおかえりなさい、とても心配していたんですよ?無事に帰ってきてくれて良かっです。」

アテナ様は涙声でそう告げると、僕の顔を見るなり悲鳴を上げる。

「ア、アルスくん、血、血が、頭から血が出ているじゃないですか!早く中に入って傷口を見てください!さぁ早く!」

アテナ様は大慌てで僕の傷口のチェックをする。

「ふぅ、あまり深い傷ではないようなので良かったですが、これからはもっと自分の身体をだいじにしてくださいね?約束ですよ?」

アテナ様に注意を受けたあと、お風呂に入り汗を流し、一緒に夕食を食べているとアテナ様から突然告げられる。

「そうです、ステータスの更新をしないといけませんでしたね。」

僕はいまいちピンと来ずアテナ様にステータスの更新の説明を受ける。

「ステータス更新というのはですね、文字通りアルスくんのダンジョンで得た経験を身体能力の向上につなげる儀式のようなものですね。夕飯を食べ終えたら更新をしましょう!」

説明を受けたあと夕飯を食べ終え、初めてのステータス更新をすることになった。

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