終わりと始まり
「では、まずリリアナに向かいましょうか。」
「いきなりですか?いくら何でも早すぎますよ、心の準備が……。」
「何言ってるんですか!思い立ったが吉日と言うではありませんか!それにあなた、これ以上ここに居たら死んでしまいそうな目をしているので。」
「そ、そんなことないと思いますけど……」
「そんなことありますよ!私、人の目を見るとその人の感情が見えるんですよ?それもかなり詳細に!」
「はぁ、そうなんですね……悔しいですが当たってますかね。」
「でしょー?そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私はアテナ、オリュンポス十二神が一柱、戦女神アテナです!よろしくお願いしますね?」
……この人、今なんて言った?アテナって女神アテナって言ったか?確かに、リリアナには神々が人間と共存していると聞いてはいた。けど、いざ目の前にすると本当なのかと疑ってしまう。
「その顔、疑っていますね?」
「すみません、リリアナのことについて疎くて……」
「そうでしたね、貧民街で育ってきたのなら、神が人間と共存しているなど疑って当然ですね。いいでしょう少し離れていてください。イージス!」
アテナがそう唱えた瞬間、空から荘厳な盾が降ってくる。
「これで信じてくれましたか?これはイージスの盾と言って、あらゆる厄災を払う魔除けの盾です。私の自慢の神器なんです!」
こんな光景を目の当たりにすれば誰でも信じてしまうだろう。と言うか疑う余地もない。
「信じます、信じざるを得ません。それと僕の名前はアルス、アルス・クレイルと言います。よろしくお願いします。」
「なら良いんです!では、アルスくんリリアナに向かいましょうか。リリアナに着いたらまず、私のファミリアの正式登録をギルドで済ませましょう。」
「ファミリア、ギルド……てことは冒険者になるってことですか?僕、冒険者になれるんですか?」
「おや?その反応もしや冒険者に興味があるんですね?」
「それは勿論!貧民街の施設にも冒険譚の本があるんです。それを読んだ子供たちなら冒険者に憧れを抱くのは当然じゃないですか!」
「それは良かったです!実は私もファミリアの主神になりたかったんですよ!友人の女神にファミリアの話を聞く度に良いな〜って思ってたんです!」
「明日から正式にアテナファミリア活動開始です。急いでギルドに向かいますよ!」
「アテナ様速すぎますよ!待ってくださ〜い!」
僕達は、夜の貧民街を全速力で駆けて行く。そうして30分程してギルドにようやく到着した。
「さぁ、早く手続を済ませましょう。受付が終わってしまいます。」
「ぜぇぜぇ、ふぅ~……アテナ様よく息切れしませんね。僕はもう限界です……。」
「それは勿論神ですから!この程度で息を切らしているようでは戦女神なんて名乗れませんからね!ほら受付に行きますよ。そこに私の知り合いがいますので。サテラ!」
アテナは名前を呼び、その人と思われる人がこちらに手を振ってくれる。サテラと呼ばれた女性は、新緑のような鮮やかな色のショートボブで少し幼い顔立ちをした美しい女性だった。
「アテナ様、隣りにいる方はもしかして?念願のファミリアメンバーですね!」
「そうなの!貧民街で運命的な出会いをしたのよ。」
「アテナ様がファミリアを創りたいとお話をされてから半年、ようやくメンバーを迎えることが出来たんですね。とても喜ばしいことです。」
「ありがとうサテラ。早速ファミリアの正式登録とメンバー登録をお願いできるかしら。」
「任せて下さい。張り切って対応させていただきますよ!」
それから、書類の記入とステータス確認を終えて冒険者手帳を受け取り手続きは終了した。
「お疲れ様でした。これで手続きは以上となります、
これで明日からダンジョンへの探索が可能となります。ご不明の点がございましたら、何でも聞いてくださいね。では、良い冒険者ライフを!」
「ありがとうございます。お世話になりました。」
「ありがとうねサテラ。ではアルスくん私の拠点に向かいますよ。ここから5分程歩いたことろにありますから。」
それから拠点を目指し数分間、他愛のない会話をしながら拠点にたどり着いた。それは僕が想像していたよりも遥かに小さなそしてボロボロな一軒家だった。
「ねぇ?今とても失礼なこと考えてましたよね?こんなに小さくてボロボロな拠点だなんてって。」
「そ、そんなことないです!とても素朴で素敵なお家だなぁ〜と、そもそも貧民街の小屋に比べたら雲泥の差ですから!」
「それ、比べられるのが貧民街の小屋の時点でフォローになってませんからね!」
「すみませんでした~!」
「良いんですよ別に。これからアルスくんが一生懸命ゴルドを稼いでもっと良い拠点に引っ越しさせてくれれば!」
「いきなり話が飛躍しすぎですよ!まだダンジョンにも潜ってないのに!」
「ふふっ、こうやってファミリアのメンバーと談笑するのも夢の1つだったので、早速叶ってとても嬉しいです。」
「そう言ってもらえて何よりです。改めてこれからよろしくお願いしますねアテナ様。」
「こちらこそよろしくお願いしますねアルスくん!」
こうして談笑を終えて拠点の中へ入っていくと、外観と反して部屋の中は清潔感に溢れていた。」
「アルスくん、また失礼なこと考えてましたね?私こう見えて一人暮らしが長いので基本的に家事全般はこなせます!そこらの駄女神と一緒にしないでくださいね!ほんとに!」
「誰も、そこまで思ってませんから!被害妄想が過ぎますよ!」
「ここで、ハッキリさせておかないといけないと思っただけですから!フン!」
「ともかくこれからここで一緒に生活するわけですから、しっかりとしたルールを決めておきましょう。」
「まず、家事全般は私がします、それと現在も続けているレストランでのバイトも継続して少しでもゴルドを稼ぎます。アルスくんはダンジョン探索で、素材や鉱石を換金してゴルドを稼ぐ、いいですね?」
はい、わかりました。少しでもアテナ様の負担を減らせるようにがんばります!」
「では明日はアルスくんはダンジョンへ私はバイトへそれぞれファミリアのために頑張りましょう。それと初めてのダンジョン探索ですから、サテラの話をよく聞いて慎重に行動するようにしてくださいね。」
「わかりました、忠告感謝しますアテナ様。アテナ様を驚かせるようなゴルドを稼いで見せますよ。」
「ふふっ、それは楽しみです!期待していますね。では、そろそろお腹も空いたでしょ?夕飯にしましょうか、ぱぱっと作ってしまいますね!」
それから、アテナ様はプロ顔負けの料理スキルを発揮し、ものの数分で夕飯を完成させてしまった。
「手際が素晴らしいですアテナ様!どの料理も美味しそうですし!」
「そう言っていただけて嬉しいです。これで私の家事スキルが完璧であることが証明されましたね!」
「最初からそこは疑ってませんから!もう待ちきれません。いただきましょう!」
「そうですね、ではいただきましょうか。」
それから、僕達は心ゆくまで夕飯を楽しんだ。
「では明日は朝食ができたら起こしますので、明日のダンジョン探索に備えてゆっくり休んでくださいね。部屋はこちらの空き部屋を使ってください。おやすみなさいアルスくん。」
「おやすみなさいアテナ様。」
就寝の挨拶を終えて部屋に入りベッドに寝転がる。ふとこの半日の間に起きた出来事について振り替えってみた。
本当に色々なことがありすぎて脳がパンクしそうなくらいだ。
今までの生活じゃ考えられないような体験をいくつもした。
誰かに必要とされたり、誰かと共に話して笑い合ったり。
幸せ過ぎで失うのがとても怖くなってしまうくらいの幸福感。
本当に自分何かがこんなに幸せで良いのだろうかなんて考えたが、アテナ様にもの凄く怒られそうなのでこれ以上は考えるのをやめた。
アルスは、明日からのダンジョン探索への興奮と暖かな布団の温もりを感じながら深い眠りに落ちるのだった。
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