七次請け魔王

蒼き流星ボトムズ

七次請け魔王

人類勢力の最前線に建造された巨大要塞。


聖戦要塞!


魔界領の前線を寸断し、かつ人類側の軍港と東部穀倉地帯の防衛をカバー可能な地点に位置している。

また平原唯一の高地という立地上、魔界の前線地帯を一望出来る構造となっており。

これが故の多大なプレッシャーから魔界軍は大幅な戦線後退を強いられていた。

幾万の将兵の犠牲の上に建造を強行しただけあって、聖戦要塞の戦略的効果は盤石であった。

水面下で始まっている極秘停戦交渉も有利に進んでいる。

このまま行けば大幅な領土獲得が可能であろう。

逆に、あってはならない事だが。

聖戦要塞が魔界軍に奪われてしまえば立場は完全に逆転する。

最低でも北方の制海権を全て喪失し、連動して群島諸領は完全に抑えられてしまうだろう。


開戦から1年。

焦点は聖戦要塞がどちらの手に帰するかに絞られた。

戦術的には防衛側の人類勢力が有利だが、反面財政的負担は膨大である。

そして何より守勢側特有の心理的プレッシャーが著しかった。

近く魔界勢力の総攻撃がある事は火を見るより明らかであり、その大きなリスクから諸侯は聖戦要塞の防衛に難色を示していた。

特に志願する兵士はあまりに少なく、上層部の頭痛の種となっていた。




「わかった、こうしよう。

聖戦要塞に駐屯する騎士の日当を金貨3枚に引き上げる。」


日頃、無口で『そうせい帝』と陰口を叩かれている皇帝が珍しく自主的に発言した。

文武百官が驚いた顔で玉座を見上げる。


「き、金貨3枚で御座いますか!?」


財政的にはかなり冒険である。

あの巨大な要塞を防衛する為には、最低でも2個師団(帝国の兵制では2万人)が必要であり、人件費だけで一日辺り6万ゴールドが掛かるのは痛い。

言うまでもなく糧食や光熱費も別途掛かる。

いつの時代も軍隊は金食い虫なのだ。


「余もこの金額が高いものである事は重々承知しておる。

だが皆が駐屯を志願せぬ以上仕方あるまい。」



内心皆が反対であったが反論する馬鹿は居ない。

「ならオマエが行け」

と自分に矛先が向かうことが目に見えているからである。



「流石は皇帝陛下!

見事なる慧眼であります!

この宰相、是非とも陛下の御立案のお役に立ちたいと存じます!」



俯く百官の中で唯一宰相だけが声を挙げた。

宮廷内で《治世の奸臣 乱世の奸賊》と評されてる男だけあって、リスクを恐れない発言である。



「うむ。

宰相は賛成してくれるか。」



「はっ!

低い身分から引き立てて下さった皇帝陛下のご恩に!

今こそ報いたいと考えております!」



唾棄すべき成り上がり者ではるが、火中の栗を拾い続ける姿勢には感服する。

武官も文官もその一点だけは宰相を認めていた。



「では。

駐屯兵も宰相の手勢に任せて宜しいのか?」



「はっ! 我が家門の全てをこの任務に捧げる事を誓います!」



聖戦要塞の様な要地を宰相一人に任せてしまうのは危険極まりない事である。

これ以上、この野心家に権限を与えるのは如何にも好ましくない。

だが、自分が行かずに済むのならこんなにありがたい事はない。

百官は危惧しつつも内心胸を撫で下ろした。



「宰相の心意気天晴もののふである。

財務官!

要塞の件は全て宰相に任せる故、直ちに追加予算を割り振るように!」



「はっ! ただちに臨時法案の制定を行います!」



「宰相よ! 神聖なる我が軍の軍旗を堂々と掲げ、天下に正義を示すのだ!」




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この様な経緯があって、対魔王軍最重要決戦拠点・聖戦要塞の防衛実務は。

宰相家に委託されることが決定した。

(二次請け:宰相家)


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「で、宰相殿。

我々の一手でこの要塞を防衛すれば良いのですな?」



それで良いのか?

という含みを言外に持たせて傭兵隊長は宰相に問う。



「貴様と私との仲だ。

良いように取り計らってくれ。

カネは払う、また昔の様に私を助けて欲しい。」



《昔の様に》か…

士官学校時代から、この男とはこういう関係だった。

傭兵隊長は空を睨みながら自派の動員数を計算する。



「宰相殿。

ここからが肝心な話なのだが、傭兵への日当は如何程になるか?」



「金貨2枚を支払う。」



「高くは無いが妥当な線ですな。」



金貨2枚を申し出た、ということは実際は金貨3枚前後の予算が降りているのだろう。

そしてこの強欲な男が自分に対して1枚しか中抜きをしていない。

この男なりの友情なのか、はたまたそれ程の苦境にあるのか。

まあ後者だろう。

人類勢力に戦争続行能力がない現実は、最前線で勇戦し続けた傭兵隊長が誰よりも知っている。



「同期の桜だ。

貴様を悪いようにはしない。

あの日の誓いの通り、御国の御旗を我らで護ろうぞ!」






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この様な経緯があって、対魔王軍最重要決戦拠点・聖戦要塞の防衛実務は。

傭兵隊長に委託されることが決定した。

(三次請け:傭兵隊長)


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「男爵閣下!

そ、それは。

我々冒険者ギルドが防衛義務を負うということでしょうか…」



傭兵隊長は庶子の自分を貴族として認識していなかったが、冒険者のような下賤から見れば立派な貴族様に見えるらしい。

滑稽千万なのだが、相手が錯誤しているなら権威は存分に使わせて貰う。



「うむ。

士官学校の有志会でも議題に上がっているのだがな。

国家としても、キミ達冒険者をもっと優遇するべきではないか、という声が上がっていてな。」



「し、士官学校!?

へ、へへえ!

身に余る光栄で御座います!!」



ギルド長が再度地面に額を擦り付ける。

馬鹿な男だ。

正規のキャリアを積んだ者が、冒険者の様な下賤を認める訳がないではないか。

ちなみに士官学校の同窓に有志会が存在するのは事実だ。

もっとも、軍からドロップアウトして傭兵稼業に身をやつしている身に誘いが来る訳がないが。

大体、軍隊に在籍していた頃ですら庶子という一点で仲間外れにされていたのだぞ。



「あ、あのぉ男爵閣下。

ありがたいお言葉なのですが…

そのぉ、えへへ…」



冒険者ギルド長が下卑た笑顔で見上げて来る。

ヤクザ者とは言え、人の上に立つ立場なのだからもう少し取り繕えば良いものを。

浅ましい男だ。



「金貨1枚だ。

キミ達一人当たりに日当として金貨1枚を約束する。」



ギルド長は卑しい笑顔のまま僅かに頷いた。

成程、彼らにとってやや割安な賃金なのだろう。

まあ我々の知ったことではないが。

勿論、防衛任務は放棄しない。

ただ現実問題として、いつあるかもわからない敵軍の来襲の為に傭兵共を貼り付けておくのは、あまりに無駄だ。

それなら信頼出来る傭兵仲間の部隊だけを付近に展開させておき、事が起きてから傘下の全傭兵団を入城させる方が賢い。



「この金額では不服か?」



「いえいえ!

何を仰りますか、男爵閣下!

喜んで! 喜んで閣下に忠節を誓わせて頂きます!」



改めてギルド長が土下座する。

額を擦り付けながらこの男なりに頭脳をフル回転させている。

たったの金貨1枚では中抜き額もたかが知れているじゃないか!

そう抗議したい気持ちもあったが、戦時下の財政難でギルドへの国家依頼が激減している昨今。

少額でも案件は逃せない事くらいは弁えていた。



「案ずるな。

いざ敵の攻勢が始まれば我々が入城する。

キミ達は時間を稼いでくれれば良いのだ。

ただ軍旗だけは全カ所に上げておけよ。

防衛はあくまで正規軍が担っている建前なのだからな。」






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この様な経緯があって、対魔王軍最重要決戦拠点・聖戦要塞の防衛実務は。

冒険者ギルドに委託されることが決定した。

(四次請け:冒険者ギルド長)


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「おう、オメエ!

親がクロって言ったらクロじゃねえのか!

あああん!!」



組を任せている子分を要塞に呼びつけた冒険者ギルド長は、難色を示す組長を殴り倒した。



「も、申し訳ありませんでしたぁ!!

親分の仰る通りに致します!!」



「…ちっ馬鹿が。

…親分じゃなくて、ギルド長って呼べって何度言えばわかるんだ。」



折角手に入れたこの地位。

ヤクザ経歴をロンダリングする道具としては最高だが、ヤクザ人脈を保持しなければ守る事が出来ない。

冒険者ギルドのトップは旨味の大きいポジションだ。

だから普通はカタギがこの地位を得る事は出来ない。

現在のギルド長を決めた選挙も、実質はヤクザの抗争だった。

目の前の大男は、自分がこの座に就く時に組を譲ってやった子分だが喧嘩しか能のない男だ。



「オメェを組長の椅子に座らせてやってるのは誰だ?」



「はい! 親分です!」



「馬鹿野郎! 今の俺はギルド長だっつってんだろ!」



「し、失礼しました! ギルド長!」



「たっくよお… 何度も何度も同じこと言わせやがって…」



「も、申し訳ございません!!」



「1日辺り銀貨5枚だ。

出来るよなぁ?」



「…。

は、はい!

人手かき集めてきます!」



親分は変わってしまった。

冒険者ギルドを牛耳る企みを成功させるまでは子分を大切にする大侠客だった。

でも今は違う。

社会的地位を得る為に必死にヤクザ色を消そうとしている。

ヤクザの権力を利用して…

誰よりもヤクザを利用している筈なのに、ヤクザに対しての当たりがキツい。


確かに親分が冒険者ギルドを支配してからは、旨味のあるシノギをどんどん回してくれた。

その点は感謝しているし、この人に付いて来た甲斐があったと思っている。

ただ、年々中抜き額が増していることも事実だ。

正直、今年に入ってからは持ち出しの方が増えている。


銀貨5枚は新米肉体労働者の賃金だ。

ヤクザがそんな金額で喜んで働く訳がないじゃないか。

楽をして気ままに暮らしたいからヤクザになるんだ。

安い賃金で国の為に戦争するような人間が俺達の組に居る訳ないじゃないか!



そう思っていても組長は反論しない。

今や自分自身がヤクザの理不尽な縦社会の恩恵を受けている側だからだ。



「おう。

ウチの組全員に声を掛けろ。

招集に応じない者は破門とする!」



「は、破門ですか…」



「親の命令を守れない奴は子でも何でもねえ。

そうだな?」



「は、はい。

親の命令は絶対です。」



「今の俺は冒険者ギルドの情報網を全て使える立場にある。

逃げることなんて絶対に出来ねえってオマエから言い聞かせておけ!」



「は、はいッ!!!」



「旗だよ旗!

オメエは黙って要塞に旗を立ててりゃいいんだ!」




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この様な経緯があって、対魔王軍最重要決戦拠点・聖戦要塞の防衛実務は。

広域暴力団組織に委託されることが決定した。

(五次請け:暴力団組長)


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社会のはみ出し者が集まるとヤクザが生まれる。

そう、ヤクザは自然発生するのだ。

それがどんな時代のどんな国であれ、社会が存在する限りヤクザは必ず生まれるし。

はみ出し者が生まれやすい社会構造であればあるほど、その発生確率は上がる。


この広域暴力団組織には人間界のはみだし者が勢ぞろいしていた。

そしてそのはみ出し者からも半端者と蔑まれる連中がヤクザの手先として日々酷使されていた。



「おい混血野郎!!

テメエいつから俺様に口答え出来る様になったあああああああ!!

殺すぞくらあああああ!!!!!」



最近組長に昇格したこの男は歴代組長の中でも最も気が荒い。

それもその筈、元は喧嘩だけが取り柄の抗争要員なのだ。

直属の親分である前組長が冒険者ギルド長の地位を奪った際、その論功行賞として組長の座に据えられた。

勿論リーダーの器ではないのだが、殺した政敵の数を考えれば文句を言える者は居なかった。


暴力だけが取り柄の野蛮な男なので、立場の弱い相手には容赦無かった。

そして最も組長の被害を受けているのが、今執拗に殴られているゴブリンハーフの男だった。



「ぐ、ぐっわああああ!!!」



どこかの骨が折れる音がして、混血青年は床を転げまわる。



「ぶへへへw

いいか! テメエらぁ!

俺様に逆らう奴はこうなるんだ!!!」



周囲の取り巻きが一斉に首をすくめる様子を見て、組長は心底嬉しそうに笑った。

街のヤクザなら兎も角、これだけ大人数の組織のトップが単純な暴力を誇示して悦に入るなどとあり得ない事だったが、そんな道理も分からない者が組長になってしまった。

伝説的な侠客が弱者保護の為に立ち上げた格式あるこの組も堕ちるところまで堕ちた。



「し、しかし!

銀貨2枚で戦争の最前線に人を集めるなんて不可能ですよ!

そんな条件で誰が参じるというんですか!」



気骨のある青年だ。

ヤクザの本部に呼び出されて、これだけ大勢のヤクザ者に囲まれて、執拗な暴行を受けて尚。

毅然と反論が出来る。



「ふはははははははwww

このゴブリン野郎はまだ殴られ足りねえのかwww

俺様はテメェみたいに根性のある奴が大好きだぜええww

おーら、もう一発!!!!!!」



一際大きな音が響き、青年は壁に叩きつけられるまで吹き飛んだ。



「ぎゃはははは!!

テメエら見たかよwww

反対側まで吹き飛ばしてやったぜww」



組長の周囲に居た取り巻き連中が、やや引きつった表情で愛想笑いをする。

恐らく、本音では青年に同情しているのだろう。


壁に叩きつけられて呻いている青年は人間とゴブリンの混血児である。

苦学して大学に進学するも混血の権利保護発言を行ったため首都を追放されてしまった。

そして流れ着いたこの街で混血仲間とボランティア活動を行ってる際に、地元の暴力団に目を付けられてしまい、現在に至る。



「おう!

混血の兄ちゃんよお!

俺様も別にテメエらを奴隷扱いするつもりはねえんだ。

銀貨2枚っていう大枚を払ってやるんだ!

寧ろ感謝して欲しいぐらいだぜww

ギャハハハハwww」



組長はゆっくりと混血青年に歩み寄ると乱暴に髪を掴んで力づくで引き起こした。



「なあゴブリン野郎。

テメエがこの話を断った場合。

この街の混血共がどうなるかわかってるよなあ?

俺様はやるといったらやる男だぜ?

女子供にも容赦はしねえ!

混血の分際で大学に行ってたんだろ?

なら、そのお利口なオツムで正しい判断って奴をしてみなww


なあに簡単な仕事よ

要は旗だけ立てて、軍の犬共が居座ってるように見せかければいいだけなんだからなw」






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この様な経緯があって、対魔王軍最重要決戦拠点・聖戦要塞の防衛実務は。

非公式ボランティア団体に委託されることが決定した。

(六次請け:ボランティア団体代表)


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現在の魔王の地位は限りなく低い。

その出身母体であるゴブリン族が長い戦争で最も被害を被ったからである。

先の軍港攻防戦においてゴブリン族は単独で勇戦するも衆寡敵せず殆どの族長クラスが討ち死にする事態に陥った。

ゴブリン族の枠は任期が数年残っているので、急遽最末端の分家から本家に養子入りした男が魔王職を継いだ。

政治的には全くの無名人である。

ただ正規の軍人教育を受け下士官身分ながら長い軍歴があるので、他種族からも一応は魔王職の在職者として認められている。


いや違う。

魔界の全種族が今回の戦争が敗戦で終わる事を理解しており、近く締結されるであろう屈辱的な停戦署名式に、自分の種族が出席させられる悲劇だけは避けねばと考えているが故の承認である。


ゴブリン族以外の魔界の総意として、この軍曹上がりの男に最終的な敗将としての汚名を被せる事が決まっていた。

下士官風情が身の程知らずにも魔王職などに就いてしまったから敗戦してしまった。

そういうことにしたいのだ。


魔王は即位直後にも関わらず、オーク族・リザード族の救援要請に応えて自弁で前線まで駆けつけてきた。

にも関わらず、彼らは兵糧の供出を拒んだ。

理由は解っている。

戦争の終わりを確信している彼らは戦後の準備に入っているのだ。

人間族との停戦協定が結ばれれば、オーク・リザード間の境界紛争は再燃する。

今、余計な軍費は銅貨1枚たりとも出せない。

幸いにも魔王職を保有しているゴブリン族は主力が完全に壊滅している。

元の勢力を回復するには半世紀は掛かるだろう。

故に懲罰行動はない。

後は敗戦責任だけ押し付けてしまえば良い。

誰が兵糧など供出するものか。




「まさかこんな形で再会するとはね。」



「何年ぶりになるかな。」



窮した魔王が最後に頼ったのは、かつて思想的な対立から袂を別った親友だった。

国境の街の安下宿で理想を語り合った二人。

1人は軍隊に入り、1人は社会運動家になった。



「魔王と言ってもこの有様さ。

本拠に帰る路銀すら尽きた。」



「お互い、つくづくカネに縁の無い人生だな。」



運動家が軽口を叩き、軍人が笑った。

こんな風に誰かと笑い合うのは何年ぶりだろうか…



「この傷かい?

地元のヤクザにやられた。

昔、キミの言った通り軍隊に入っていた方が賢かったかも知れないな。」



「あの頃は僕も世間知らずだった。

的外れな助言をしてしまったと後悔しているよ。

軍隊では毎日上官に殴られたし。

魔王になった今も、こうやって酷い目に遭わされ続けている。」



「そんなキミの足元を見るようで心苦しいのだが。」



「銀貨1枚か…」



「本当に済まない。」



「懐かしいな。 

昔、二人で荷下ろしの重労働を銀貨1枚でやらされていた。」



「あの頃の僕達は今より世間知らずだったから。」



「で? 具体的には何をすればいい?

言っておくが今の僕にはこれだけの手勢しか居ないし。

兵糧を得る為に武器も売り払ってしまった。

手元に残っているのは、オーク族やリザード族から受け取りを拒否された魔王軍の軍旗だけさ。」



「軍人のキミにはそう難しい仕事ではないかも知れない。」




「…?」




「砦のお留守番を頼みたいんだ。

なあに、難しい仕事じゃあないよ。

旗を…  旗を掲げてくれるだけで構わない。」





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この様な経緯があって、対魔王軍最重要決戦拠点・聖戦要塞の防衛実務は。

魔王軍に委託されることが決定した。

(七次請け:魔王)


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神聖歴109年

統一歴 71年



聖戦要塞を失陥した人類勢力は周辺地帯の全割譲を含む終戦協定の調印に応じた。

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