間男あるいは間女の話
あかいあとり
*
やあ、この間はウェディングドレス似合ってたよ。招待してくれてありがとう。
え? なんで参加したのって? ひどいなあ。俺、新郎の親友で新婦の上司だよ。スピーチにこれ以上向いてるやつはいないだろう。張り切って一ヶ月前から文面を考えただけあって、我ながら良いスピーチになったと思うんだ。
まあまあ。本当のことだろ。あいつだって感動して泣いてたじゃないか。新婦ほっぽらかして抱きつきにくるとは、さすがに想像してなかったけど。
うん。お察しの通り、俺はあいつが好きだよ。もちろん、友達以上の気持ちでね。生まれたときからずっとそばにいるってのに、あいつも大概鈍いよなあ。
クラスも一緒。部活も一緒。大学も同じなら、会社だってふたりで起業した。あ、最初の会社のことね。今はご存知の通り、別々の会社の社長だよ。事業がでかくなりすぎたから、ふたりで分けることにしたんだ。
ええと、何の話だったっけ。ああそうだ。つまり俺とあいつは、大体同じことをして生きてきたってこと。恋人作るタイミングも付き合う期間も全部合わせてたっていうのに、さすがにどこかで気づけよって話だよな。まあ、そんな鈍いところもあいつらしいか。あ、元カノの話とか、新婚さんに言ったらマズかったかな。ごめん。忘れて。
好きだったのに良いのかって、不思議なこと聞くんだな。好きだからこそ、今のままがいいんだよ。何があっても、あいつの逃げ場になってやれるじゃないか。あいつの鈍さ、知ってるだろ。すぐ騙されて、後から痛い目見るんだよ。可哀想に。だからさ、しっかり者の嫁さんと結ばれて安心したよ。あいつのこと、よろしく頼むな。
嫌だな、そんなに怯えないでくれよ。呼び出したのはそっちだろう。心配しなくたって言わないよ。俺たち、お互いのことは
ああでも、あいつから結婚したい人がいるって紹介されたときは、さすがに驚いたよ。まさか君とは思わなかった。
知ってて付き合ったんじゃないかって、それはさすがに言い掛かりだよ。大丈夫、大丈夫。愛しい新婦の本性なんて、言わなきゃあいつは気づかない。しっかり騙しきってくれよ。二股かけておいて、平気な顔してバージンロードを歩くような女だなんて、知ったらきっと傷つくからさ。
新生活は慣れないことも多いだろう。辛くなったら、話を聞くよ。君の話も、あいつの話も。いつでも連絡してくれ。気長に待ってる。
それじゃあ、末長くお幸せに。
間男あるいは間女の話 あかいあとり @atori_akai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます